第61話 ポーション作成と外貨獲得

「あーもう!何でアタシがこんな事しなきゃならないのよー!!」


 旧王宮内部で、竜皇国の公爵に任命されたシャルロッテは、自らの仕事の多さに悲鳴を上げていた。

 彼女に任された役割は、旧帝国の元中立派と元帝国穏健派の両勢力の取りまとめと仲介、並びに旧帝都の人心の慰撫である。

 元中立派はその環境に適応しやすいという特性を生かして、竜皇国でもいち早く馴染んでおり、バリバリ働いていたが、問題は元帝国穏健派たちである。

 事実上、権力の主流派から弾き出された彼らからしたら面白くないことこの上ないだろう。その彼らの動向を探るのも彼女の役目だ。


 さらに、リュフトヒェンや辺境伯たちも協力はしてくれてはいるが、彼らもいつまでもここにいてくれるはずはない。

 そうなれば、この旧帝都や周囲の領地は彼女が管理しなければならない事になる。

 今から騒動の種は少なくしておいたほうがいいと、あれやこれや忙しく働いている彼女の元に、セレスティーナがやってきて唐突に口を開く。

 それは簡単にいうとこういう内容だった。


「はぁ!?魔術塔を動かして、売り物になる魔術用品を大量生産しろ!?何でアタシがそんな事しなくちゃいけないのよ!!

 アタシは小達人アデプタス・マイナーなのよ!そんな魔術塔のトップに立てる訳ないじゃない!!」


 基本的に、魔術塔のトップは被免達人アデプタス・イグゼンプタスが行う事が通例となっている。譲っても大達人アデプタス・メジャーぐらいなければ周囲を黙らせることはできない。


「でも、魔術師でありながらなおかつ大貴族というと貴女しかいませんし……。魔術塔に対して政治的に働きかける事は可能でしょう?」


 確かにトップにならずとも、外部から政治的な圧力で動かすことはできるが、魔術師というのは基本的に個人主義で秘密主義で閉鎖的な人種である。

 そんな人種を外部からの政治的圧力で動かすなど用意ではない。

(ちなみに、その中でも非人道的な実験に関与していた者たちはすでに神聖帝国に逃げているか、密かに処分されている。彼らも竜の不評を買うのは怖かったらしい。)


「そりゃそうだけど……。それよりもアンタがやればいいでしょうが!!竜血を受けた大達人アデプタス・メジャーの位階を持った魔術師なら魔術塔のトップになってもおかしくないでしょ!?」


 そのシャルロッテの叫びに、セレスティーナはしれっとこう答える。


「えっ?普通に嫌ですが?魔術塔なんて運営してたらご主人様の側に居られないじゃないですか?ただてさえ神竜信仰の神官長として忙しいのに……。」


 こ、この女、面の皮厚すぎ~!!と思わずシャルロッテは叫びそうになったが、昔からこんな感じだったか、と諦めてはぁ、とため息をつく。

 それに彼女は口にはしなかったが、冤罪で魔術塔を追放されたというトラウマもあるのかもしれないので、政治的には関わり合いになりたくないのかもしれない。


「魔術師でありながら竜の巫女ってアンタも大概おかしいわよね……。まあいいわ。アンタはしっかり竜様のご機嫌取っておきなさい。後、仕方ないから魔術塔には働きかけておくわ。で、どんな品物が欲しいのよ?」


「できれば大量生産が可能で、コストがかからず儲かる品物がいいですね。そう、ポーションとかどうでしょうか?疲労回復、体力回復、傷薬にもなるポーションを大量生産できれば、大きな儲けになるはずです。」


 その彼女の言葉に、シャルロッテは呆れた顔で肩を竦めて答えを返す。


「アンタね……。軽く言ってくれるわね。単純にポーションの量を増やせば粗雑品も増えて効果も薄くなり、魔術塔の信頼が揺らぐじゃないの。原材料の採取を増やすにしても、原材料の薬草を採りきってしまえば悪影響が及ぶわ。どうするの?」


 ポーションを作成するには、原料となる薬草が必要となる。

 だが、大量生産のための多量の薬草を取りつくしてしまえば、生態系を破壊して次の薬草が生えなくなってしまう可能性もある。

 生息地を探し出すためにさらに捜索範囲を広めるとその分コストが下がるし、量を増やすために薄めれば質は当然下がる。

 だが、セレスティーナには、その問題をブレイクスルーする手段をもっていた。


 彼女は自分の服のボケットから、ガラスの瓶に数十滴入っている赤い液体……強い魔力を秘めた血を見せて言葉を放つ。


「そこでこれです。竜の血……ご主人様の血です。私が行ったような竜血契約ではなく、ご主人様の血を純粋なパワーソースとして使用すれば、薄めたポーションでも今まで、いえ、それ以上の効果を持ちます。」


 セレスティーナとリュフトヒェンが行った事実上の主従関係であり、自らの力の一部を分ける竜血契約には、お互いの同意が必要となる。ただその薄めた血を飲むだけでは、竜血契約は行われない。

 ポーションの薬草など不純物が入っている際はなおさらである。

 その強い魔力を秘めた血をしげしげと眺めながら、シャルロッテは言葉を放つ。


「なるほど……。これだけの魔力を秘めた血なら十倍以上に薄めても通常のポーションと同じになるんじゃないかしら。

 これだけの魔力を秘めているんだから、うまく加工すれば魔力バッテリーを作る事もできるかもしれないわね。」


「後、竜血には不老長寿の力もあるから、そちらを欲してる人にも高く売れるでしょうね。まあ、竜血契約結んでてガチの不老長寿になったアンタほどじゃないけど。」


「……薄々そうではないかと思っていましたが、やっぱり私、不老長寿になっていたんですね……。」


「気づきなさいよ!いやまぁ、不老長寿なんて何十年経たないと気づかないか……。」


そこで、シャルロッテはちらり、とセレスティーナの顔を見ながらも言葉を続ける。


「まあ、何でアンタが急にこんなこと言いだしたのかはなんとなく検討がつくわ。

 簡単にいうと、穀物を買うための外貨を稼ぎたいんでしょ?

 旧帝都は神殿の備蓄から放出された炊き出しや、辺境伯領から持ち込まれた食料で何とか落ち着いたけど、今度は竜皇国全土が食料危機になる可能性がある。

 その可能性を下げたいために、穀物を買い漁ろうって訳ね。」


 竜皇国の国土はスムーズに戦いに勝ったはいいが、やはり国全体の農地、作物に対する大きなダメージは避けられなかった。

 旧帝都だけでなく、国全体が食料不足に見舞われる危機すらある。

そういう時には、自然と他国から作物を買い込むしか方法がない。

 確かにリュフトヒェンの財宝は多量に存在し、換金すればしばらく国費運営には困らないが、それではただ消費しているだけになってしまう。

 この国独自の特産を作って外貨を稼ぐ。そして国としてしっかりと自立する。

 それがリュフトヒェンたちの共通するビジョンだった。



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