第60話 神竜信仰と教義

 さて、リュフトヒェンたちが現在住んでいる旧帝都だが、現在では様々な勢力などが存在している上に、逆に人間に対して恨みを持っている亜人たちが存在しているので、治安の悪化の面も考えて、ルクレツィアの辺境伯軍が駐在して治安維持に努めており、各神殿もそれぞれ治安維持のための働きを行ってくれている。

 以前の衛兵隊は全て首にして、新しい亜人主体の衛兵隊も作りつつある。

 だが、そこまでやっても、どうしようもない奴はやはり出てくるものである。


「ヒャッハー!!俺たちは天下無敵の亜人様だぜー!!

 クソ人間どもめ!!今まで虐げられてきた俺たち亜人様の怒りを思い知れー!!」


 そう、それは未だに人間たちに対して恨みを持っている亜人、あるいは亜人は人間たちより偉い存在だと勘違いした亜人たちである。

 もちろん、大多数の亜人たちはそうではないが、やはりこういう奴らはごく一部ながらも出てきてしまう。

 そして、それを鎮圧するのは、在留している辺境伯軍と新衛兵隊である。

 路地裏などで調子に乗って集団で人間を痛めつけていた亜人たちは瞬時に辺境伯軍によって逮捕され、彼らの手によって縛り付けられてリュフトヒェンたちの元へと連れてこられた。


「まぁ~。こういうバカどもが出るとは予想していましたが~。

 こういう舐めた連中の見せしめのためには、首を晒すのが一番だと思いますが~?」


 本来こういう裁判を行うのは、至高神の神殿などが行うのであるが、あまり協力的ではない、という事でリュフトヒェンたちがこういった場合は裁判を行っているのである。

 縛り付けられてボコボコにされた犯罪を行った亜人の集団は、リュフトヒェンたちに対して叫ぶ。


「ふ、ふざけるな!俺たち亜人は今まで人類至上主義によって散々虐げられてきたんだ!!のうのうと自分たちがやってきた事を忘れてしれっと暮らしているあいつらに同じ事をやって何が悪い!!」


 その亜人たちの遠吠えを、リュフトヒェンは一言の一刀両断で切り捨てた。


『悪いに決まってるだろうがバカ。そんな事延々と繰り返していたらせっかく作った我の国がズタボロになるだろうが。とりあえず、こやつは適当にボコってしばらく晒しものにしておいて。同じ事をする奴らも同様でいい。

 我はこういう事を決して許さない、とアピールしておかなくてはならないからな。』


「さ、裁判!裁判はどうなっているんだ!弁護を!!」


 それに対して、氷点下の凍り付いた視線で罪人たちを睨みつけたセレスティーナは、竜骨杖に魔力の刃を展開させて、罪人たちに切っ先を突き付ける。


「黙れ。ご主人様の御心を騒がしただけでも死刑だぞ貴様。

 ご主人様の恩赦に土下座してありがたがるのが普通だろう。……連れていけ。」


 そのセレスティーナの指示に従って、部下たちは未だに喚く亜人たちを牢獄へと引っ張っていく。

 ご主人様は晒しものにしろ、とだけしか言っていないので、晒しものにした後で”事故死”しても何も問題はありませんよね、という顔だあれ。

 ともあれ、こういう輩が多数出てこられては国内統治に多大な悪影響が出てしまう。

 ああいった手合いを出さないためにどうするか、といえばやはり宗教による道徳教化が一番である。

 地球の西洋などでは、宗教と道徳は切っても切り離せない関係だ。

 宗教の様々な問題点はリュフトヒェンも知っているが、何とかそれを上手く生かせないかと、セレスティーナに頼んで神竜信仰の教義を作ってもらっているところである。


「まあ、ともかく、法律ではすでにああいったことは禁止はされておりますが、民の心にモラルを教え込むのには、やはり宗教が一番かと。至急大まかな教義を作る必要がありますね。とりあえず、こんなところでどうでしょう?」


 ・強くあれ。自主救済を神は貴ばれる。

 ・他人を殺すべからず。

 ・神の子のように弱者や他人に手を差し伸べるべし。

 ・他種族への迫害・弾圧・排除を禁止する。

 ・様々な種族が共存できる社会を目指す。

 ・他宗教への迫害・弾圧・排除を禁止する。

 ・他人の物を盗むなかれ。

 ・隣人を騙すなかれ。財産を騙して奪うなかれ。

 ・道徳に反する性行為をしない

 ・正しき竜には敬意を払うべし。邪な竜は討つべし。



 セレスティーナがアーテルたちと相談して作り上げたこの十戒を最も根本、神との契約として神竜信仰の教義としていく予定である。

 これを考えるまで、いわゆる人間の常識と竜の常識のすり合わせに、彼女は大分苦労したものである。

 例えば「盗むな」という教義は、アーテルから「それではドワーフどもから金銀財宝を奪えないではないか!!」と散々クレームが入ってきた。(だから、それをするな、という話ではあるが)


 結局(ならば戦争を仕掛けて正々堂々と財宝を全て奪い取ればいいのだ。人間どもも散々行っているのだから文句はいわさん!)というアーテルの考えと共に承諾させたが、今度は血迷って他のドワーフたちに戦争を仕掛けないように気を払っておかなくてはならない。

とりあえず、中心となる教義を作ってこれをベースにできるだけ後世悪用されないように(教義が悪用されて良いように利用された例は山ほどある)作り上げるために後で細かい所をさらに作成していく予定である。


『……しかし、ママンこんな事一言も言ってないけど大丈夫なん?』


「これは神であるティフォーネ様と、神の御子であるご主人様との間で交わされた神との契約という事で一つ。何かあったらご主人様からティフォーネ様を説得して下さい。」


 そのセリフに、思わず、お、おう、としか言えない彼であった。竜皇となったリュフトヒェンは、こうした気苦労の中で毎日を忙しく過ごしていた。


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