第57話 竜皇とまつろわぬ者たちの国。
傭兵団を自らの騎士として自らの戦力にした竜皇国では、彼らと今までの旧帝国軍が連携が取れるように練兵を行っていた。
いかに単体では強力な異能者と言えど、連携が取れなければ軍隊としては機能しない。そして、それを行うのは事実上の軍事担当ともいえるルクレツィア辺境伯である。
実際、大辺境と旧帝都に挟まれた彼女の領地は、”辺境”とは到底言えない状態ではあるが、それでも昔の流れからそのまま辺境伯の名称のままに、この竜皇国においては国家運営の柱となるなくてはならない人物として、公爵並みの扱いを受けている。
そして、そんな彼らを後目に、小型になったリュフトヒェンは旧帝都の王宮内で必死になって山のような書類と格闘を行っていた。
『誰かーっ!!竜でも握りやすいペンを作成してー!!書きにくくてかなわんのですが!!』
リュフトヒェンは何とかぷるぷる震える手でペンを持っているが、到底それでスラスラと物を書けるレベルではない。
そもそも、竜の手ではペンをずっとつかみ続けるという繊細な作業を不向きだった。
人間の時とあまりに構造が違う。
爪などで相手を切り裂くのは得意ではあるが、何かを持って書き続けるというのは苦手なのである。
「ご主人様!もう肉球……はないので手形をペッタンペッタンする方式でいいのでは!?」
『もうそれで行こう、採用!』
同様に山のような書類作業に追われているセレスティーナの意見を採用し、リュフトヒェンは手のひらにインクをつけると、母印よろしく、次々とサイン代わりに押し付けていく。
国のトップになったという事は、つまり全ての最高責任者という事である。
山のような国家運営に関する様々な業務は、彼の許可なくては動かない。
ひぃひぃ言いながら、書類を片付けていた彼らは、ひとまず休憩を取る。
「はひぃ。疲れた……。これなら戦っていた方が遥かにマシやで。ところで、ふと我思ったんだけど……。この国、人類の社会秩序に無茶苦茶喧嘩売ってない?」
そのふとした疑問に、リュフトヒェンに対して水で割った薄いワインを差し出しながら、セレスティーナは、何をいまさら、という顔になる。
「何を今さら……。教皇も皇帝も知らん!竜を頂点にした国を作る!と言い出した地点で無茶苦茶人類サイドに喧嘩を売りまくっていますね。向こうの権威に対して真正面から喧嘩を売っている格好ですから。」
「ご主人様は神の御子にして国を統治する存在。つまり教皇と皇帝を兼任しているような物ですから。そうですね…。古代の政治では政治を司る存在と神に使える信仰を司る存在は同一だったので、そちらが近いでしょうか。ぶっちゃけ、皇帝でも国王でも教皇でも教皇皇帝でもお好きな名称を名乗っても大丈夫かと。」
つまり、国王などというよりは、それより遥か前の政治と神性を同時に司る存在。
日本でいえば邪馬台国の卑弥呼や、中国の天子(皇帝)などは神への祭祀と地上の政治の両方をつかさどる存在として存在していたので。そちらの方が立場としては正しいだろう。
「ですが、ここは他国を牽制するためにハッタリの聞いた独自の階級を作るべきかと。そう、国の名前にもなっている”竜皇”という位はどうでしょうか?
実に威厳があっていい名称だと思います!!」
『でも、他国から見れば自称(笑)なんだよね……。これだけ人類社会の秩序に喧嘩売っていると、他国が協力してこちらを叩き潰しにくる可能性とかあるんじゃないの?』
「世が世なら連合軍が聖戦を仕掛けて叩き潰しかねない勢いですね……。
いわゆる「まつろわぬ民が寄り添って作り上げた国」とでも言った方が正しいかもしれません。
まあ、今は至高神の教皇の権威も落ちていますし、他の国もそれに乗って聖戦を起こすほどではないと思います。
その隙に力を蓄えて、他国から易々と侵攻されない強国になる。
これが、今の我が国にとって最も重要な事だと思います。」
そんなリュフトヒェンたちに対して、彼らを高らかに嘲笑する笑い声が王宮の中に響き渡る。
それは、サンドイッチを手にしながら彼らを嘲笑する、人間の女性体に変化しているアーテルだった。
「はーっはっは!わざわざ自分から権力なんぞという厄介事に首を突っ込むとは本当に愚かじゃのう!!その点妾は勝ち組!!何の足枷もない悠々自適の食べ歩き生活じゃ!うむ!メシがうまい!!」
散々食べ歩きやらファッションショッピングやらを楽しんでいる彼女は、まさに悠々自適の誰もが憧れる楽隠居生活であった。
だが、そうは問屋が卸さないのが世間である。
セレスティーナは、そんな彼女の目の前に、ドン!と山のような書類を置き、にっこりと笑う。
「アーテル様。アーテル様も大公なのですから、きっちりと仕事をしてもらわないと困ります。」
「……は!?妾人間の地位よー知らんけど、大公ってつまり凄い偉い地位じゃろ!?いつの間に妾そんな地位についていたんじゃ!?」
そのアーテルの驚きに対して、リュフトヒェンはねちゃり、と粘つくような笑みを向けながら言葉を放つ。
『あ、それはこちらから勝手に任命しました。一人だけ逃げられると思うな。お前も道連れです。俺と一緒に地獄に落ちようねぇ。(ねちゃり)』
「き、貴様ァー!!人、いや、竜の嫌がる事はしてはいけないと習っておらんのか!?いや、あの女ならそんな事教えていない可能性十分にあるな!クソァ!!」
そんなこんなで、彼らの日常はこうして過ぎていった。
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