第53話 テオクラティア竜皇国誕生。



 ……こうして、旧帝国は2つに分割され、竜である主人公を王に掲げるテオクラティア竜皇国と、旧帝国の帝国過激派が主体となって作り上げたハイリヒトゥーム神聖帝国が造り出される事になった。


 だが、そこで一つの問題が起きる事になった。


『―――戴冠式ができない?』


 復興を急ぐ旧帝都では、ついに到着した辺境伯ルクレツィアと、それに連れ添ってきたセレスティーナ、そしてアーテルと新国家を作り上げるための会議を行っていた。

 そこで持ち上がってきた問題は、戴冠式である。


「まぁ~。当然ですね~。国王や皇帝は、教皇から戴冠を行ってその神聖を認め、神権政治としての大義を得るのですから~。竜に対して戴冠を行うなどという教皇がいるはずもありませんね~。」


 そもそも、戴冠式というのは、教皇から皇帝や国王に国を統治するための神聖性を認め神政政治を容認するという事を意味する。

 つまり、神によってその国を治める事を許された、という意味合いを持つのだ。

 だが、当然のことながら、人間の神である彼らが、竜に対してその権威を与えるなどあるはずもない。

 それを聞いて、人間の姿をしてはいるが、ダークドラゴンであるアーテルは怒り狂う。


「当ったり前じゃボケ!そもそも何で妾たちが教皇なんぞに神聖など認めてもらわなければならんのじゃ!!我ら竜じゃぞ!そんな人間どもの神の権威や神聖なんぞいらんわ!!」


 アーテルの言葉は、竜の視点からしてみたら全くもって正論である。

 人間の権威など鼻にもかけない彼ら竜の考えからしてみれば、教皇だの何だのから権威を与えられるなど全く持って笑止だ。

 だが、人間とは権威に弱い物。

 こちらも何らかの対抗する権威を用意しなければならない。

 それに対して、顎に手を当てて考え込んでいたセレスティーナが口を開く。


「ふむ……。ならばこうしましょう。ご主人様の母君、エンシェントドラゴンロードである空帝ティフォーネを神として崇める竜信仰を作り出せばいいかと。

 確か、遥か遠い国ではエンシェントドラゴンロードを神として崇める宗教があったはずですから、それを流用しましょう。

 空帝ティフォーネ様を神とすれば、つまり、ご主人様は神の息子にして神の化身。

 実質的な神そのものと言う他ありません!!」


 びしっ!とセレスティーナは、小型化しているリュフトヒェンに対して指を突き付けるが、その勢いと発言にリュフトヒェンは困惑の声を上げる。


『そうなの!?(困惑)』


「そうです!!(断言)個人的な事を言えば、ご主人様を神として崇拝した方は色々スムーズにいくとは思うのですが……。

 まあ、権威的にはエンシェントドラゴンロードを神として崇めた方が自然ではありますね……。」


 向こうが教皇から権威を与えられた神権主義というのならば、こちらはエンシェントドラゴンロードの息子であり、そこから権威を与えられた神権主義という形にすれば、権威的には十分太刀打ちができる。

 神々の肉体を滅ぼしたエンシェントドラゴンロード。それらは肉体を持った神にも匹敵する力を持ち、神格化、神として崇められるのは何ら問題はない。

 だが、それに対して、この中で最もティフォーネと付き合いの長い(腐れ縁)のアーテルはあからさまに嫌な顔をする。


『おいおい……。あの女を神として崇めるとか正気か?

 確かにそれだけの力は持っているが、あの女は暴風神としての側面も持っておるので気まぐれで喧嘩っぱやいし、喧嘩大好きじゃぞ?おまけに人間どころか他の竜の事すら何とも思っておらん。やめておいた方がよいぞ?』


「逆に考えましょう。空帝様が天候神として荒ぶる神としての側面を持つのは事実。

 それを落ち着かせて、空帝様と契約を結んで慈悲深い存在として変えたのはご主人様として布教させればいいのです。」


 うーん、そういうのどこかで聞いた事があるぞ我。主に元の世界のとある宗教とかで。まあ、これ以上深く突っ込むとアレだから言わないで置くけど。


「と、いうわけでエンシェントドラゴンロードの代理人、神の血を引く神の代理人であるご主人様が人間を救うために国を作り出した、と権威づけを行えば、神聖帝国にも屈しない権威を我が国は有する事になります。

 この竜信仰を国教として位置づければ、権威としては十分でしょう。」


『しかし、他の宗教との兼ね合いはどうする?元からあいつらこちらを良い目で見ていないだろう?』


 そもそも、原初の戦いにおいて、光と闇の神々両方の肉体を滅ぼしたのが竜族、つまりはエンシェントドラゴンロードであるティフォーネたちなのだから、当然神を崇める神官たちと竜たちは相性が良くはない。

 だが、帝都復興のために、大地母神の神殿から大きな力を借りた事は事実であるし、賢神、戦神、幸運神などの神殿などからも食料支援を受けたことは事実。

 ここで彼らを迫害して、恩を仇で返すような真似をしたら、どこもこの国を相手にしてくれなくなってしまう。


「竜信仰の教義を作り上げる際に、他信仰の弾圧禁止、それぞれの信仰の自由を重んじる事を明言しましょう。我々も別段神官たちを敵に回したくはないですから。

 さらに国として信仰の自由を明言すれば、向こうも文句は言ってこないはずです。」


 竜信仰には大まかに分かれて二つの流れがある。

 一つは、自らを竜として転生するために自らを鍛え上げる個人救済的信仰。

 これは、リザードマンや竜神官などが目指すもので、生肉を食べたり、毒を食べたり、生身で戦ったりと自らを文明から解き放ち、野生に置くことによって最終的に竜に転生するという文明とは相いれない個人信仰である。

 仏教でいうなれば、小乗仏教 上座部仏教に近い。


そして、もう一つは、崇めたら皆を救ってくれるという大乗仏教的な流れだ。

しかし、竜たちは神ではなく、人間たちに対しても無関心であるため、統一された教義すら存在しない。

神々と異なり、きちんとした教義もなく、人類に対して力を貸してくれるわけでもない竜が皆を救ってくれるというのは明らかに矛盾しており、ただ消え去るだけの宗教だった。そう、この時までは。


『皆を救うのは難しくても……。できるだけ多くの人を救いたいと思うのは間違いじゃないよな。』


そんなリュフトヒェンの言葉を聞いて(またこいつ苦労を背負い込もうとしておる……。)という顔をするアーテルだった。





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