第49話 クラウ・ソラス攻略。


 一方、アーテルとリュフトヒェンは、クラウ・ソラスの光の砲撃をかいぐぐり、ついに帝都上空にまで到達した。

 ここまでくれば、クラウ・ソラスとは目と鼻の先、つまり、こちらが有利という事になる。大気を引き裂いて飛翔しながらアーテルは魔術通信で叫んだ。


《ここまで来たら後少しじゃ!気合いを入れろ!懐に飛び込めばこっちの物じゃ!》


 長距離攻撃を行う兵器の欠点。それはギリギリまで近づけるとその威力を失うという事である。

 クラウ・ソラスもその例外ではない。

 巨大兵器に加え、長距離攻撃用兵器であるクラウ・ソラスは近くに張り付かれてしまっては、そもそもレーザーを放っても全くの無駄である。


 それを防ぐため、帝都外周部とクラウ・ソラスの周辺には、対空防御用のバリスタがびっしりと備えつけられていた。

 だが、帝都内部のレジスタンスによる大混乱によって、外周部のバリスタはほとんど放たれる事はなかった。

 クラウ・ソラス周囲のバリスタは流石に稼働しており、竜たちを近づけさせまい、と竜に向かって矢を連射する。


《邪魔だ!!》


 そのバリスタはリュフトヒェンの雷撃によって次々と破壊される。クラウ・ソラスを攻略するためには邪魔以外の何物でもない。


 だが、近くで雷撃を食らってバリスタが破壊されているのに、他はなおバリスタを放ち続けているのは、向こうも決死隊であるのに違いない。

 そして、それに加えて、クラウ・ソラスを操作している技術者も声を上げる。


《神力の圧力が上がらない!地脈からの供給はどうなっている!》


《メイン回路がダメならサブ回路を再起動しろ!帝国防衛の要を失うわけにはいかない!拡散神力放出に切り替えろ!!―――放て!》


 その次射が発射されたアーテルは思わず悲鳴を上げた。


《な、何じゃあこりゃあ!!》


 そう、それは今までの一方向の光の奔流ではなく、何十もの比較的細い光が空間一面に縦横無尽に広がったのだ。それは、光で出来た巨大な蜘蛛の糸にも等しい。

 拡散神力放出。散弾ならぬ、ランダムに空間に放たれた神力の光は、近接防御用に開発された物である。

 いきなりのその攻撃を回避できず、二体な光の蜘蛛の巣に突っ込んでしまう。


《こなくそぅ!!》


 アーテルとリュフトヒェンは必死になって急旋回を繰り返しながらその蜘蛛の巣に捕らわれないように、急旋回し、自らの体を回転させながら隙間を掻い潜っていく。


 その蜘蛛の巣のような無数の光は流石に全て回避することはできず、数発食らってしまうが、何十にも拡散したため、威力は格段に落ちていた。

 そのため、その命中した光はその部分の二人の鱗を焼き尽くし、その下の肉体を多少焼く程度ですんだ。

 拡散して威力が低下しているのでこの程度ですんだが、これを何十発も食らえばいくら竜でも大ダメージを食らってしまう。


《クソがぁ!妾にダメージを与えるとはいい度胸じゃな!!》


 指向性のない拡散されたレーザーは、地上にある帝都の各地にも無差別に突き刺さり、被害を与えている。

 だが、それでも構うことなく、クラウ・ソラスは、竜たちを近づけさせないように拡散レーザーを連射して放つ。

 同然の事ながら、拡散して指向性の与えられていないレーザーは、帝都の市街地にも突き刺さり、家やら何やらを吹き飛ばしていく。


 しかも、上空からちらりと見た所、帝都は大混乱に陥っており、あちこちで炎が上がっているのも確認できる。

 さらに、あちこちに何らかの怪物らしき存在が各種で暴れまわっているのも目に入る。

 彼のできる限り流血を避けたいという思いは見事に失敗したのだ。

 だが、戦争で自分たちの思う通りになる方が珍しい。

 苦い思いを抱えながら、彼らは上空へと上昇し、再び突撃するために距離を取る。


《アーテル!恐らくあの柄頭の宝石が放出口だ!あれを破壊すればレーザーは放てなくなるはず!俺は下から、アーテルは上から攻撃を仕掛けるぞ!》


 クラウ・ソラスは極めて巨大な剣が大地に突き刺さった状態で存在している。

 そして、そのレーザーを放つのは柄頭に存在する20mはある巨大な宝石、神力石である。こここそがレーザーの射出口であり、そこを破壊すればもうレーザーを放てなくなるというリュフトヒェンの判断は正しい。

 だが、そうはさせじ、とクラウ・ソラスは再び拡散照射を行う。

 その光で構築された蜘蛛の巣のような無数の光条を見て、アーテルは呆れたような口調で思わずぼやく。


《まるで光で出来た蜘蛛の巣じゃな…!本気で突っ込むのか!?》


《やるしかない。花火の中に突っ込むぞ!!》


《ハナビって何!?ああもう行くぞ!!》


 二体の竜は電磁バリアと魔力バリアをそれぞれ展開し、空間を覆いつくす光の蜘蛛の巣へと突っ込んでいく。

 上と下から同時に攻撃を仕掛けるその姿は、まるで竜の顎を連想させるものだった。突撃している状態での回避は難しいが、その光は、アーテルの黒色の魔力バリアで次々と弾き返されていた。


《ハッ!!拡散すれば威力は落ちる!自然の原理じゃな!くたばれ!!》


 アーテルは猛烈な勢いで大気を引き裂きながら急下降を行い、そのまま狙いをクラウ・ソラスの柄頭に定めると、ドラゴンブレスを解き放つ。

 自らの魔力を加速させて放出する彼女のブレスは、電磁加速砲にも等しい。

 漆黒のドラゴンブレスは、クラウ・ソラスへと突き進む。


《近接防御形態!!》


 その技術班の叫びと共に、クラウ・ソラスの柄頭の神力石から光が360度に放出され、柄頭、つまりは神力石を守護するバリアを展開する。

 その球状のバリアによって、アーテルの漆黒のドラゴンブレスは弾き返され、完全に防御された。自分の最強の武器であるドラゴンブレスが弾かれたのを見て、アーテルは思わず驚く。


《妾のブレスを防御しただとぉ!?クソが!!》


 だが、それは無駄ではない。この近接防御がかなりの無茶である事は技術班の悲鳴を見ればよく分かる。


《重度の過負荷によりメイン回路、サブ回路、第二サブ回路全て回線途絶!!予備神力補充なし!!》


《何とかしろ!!このままでは第二射を防ぐことができんぞ!!あらゆる手を使って回路を再起動させろ!急げ!!》


 光を失ったクラウ・ソラスに対して、絶好の機会と言わんばかりに、地面すれすれの飛行を行っていたリュフトヒェンは、そこから急上昇して、クラウ・ソラスの正面を駆け上るようにしてそのまま急速上昇する。

 そして、クラウ・ソラスの表面を駆け上るのに乗じて、自らの周囲の電球から放たれる雷撃を、まるで爆撃のように次々にクラウ・ソラスに叩き込みながら、リュフトヒェンは、さらに上昇していく。


 もちろん、それでもクラウ・ソラスには罅一つ入れることはできないだろうが、牽制程度にはなる。そのまま急上昇していく彼は、遂にクラウ・ソラスの柄頭の神力石を目視し、そのまま狙いを定めて魔力を充電し、自らの口を開く。

 

 ―――ドラゴンブレス。

 雷撃というよりプラズマと化したそのブレスの一撃は、大気自体をプラズマ化させながらそのまま神力石へと迫り、狙い違わずに突き刺さる。

 いかに神力石といえど、そのプラズマブレスの前には耐えられるはずもない。

 凄まじい何かが砕ける音と共に、20mにも渡る神力石は粉々に砕けちり、大気中に綺麗に光を反射させながらそのまま無数の破片は地面に落ちていく。

 それと同時に、クラウ・ソラスの全回路が遮断され、神剣の全ての光が消失していった。それが、神剣の一時機能停止を示す何よりの証明だった。


ーーーこうして、この戦いは決着した。

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