第45話 帝都侵攻

 辺境伯、反乱を起こす!!

 この一報が届いたのは直接通信を行った貴族だけでなく、帝国各地に潜むレジスタンスたちも同様だった。

 レジスタンスに属する魔術師たちの魔術通信にとある詩の一説が流れる。

「秋の日の/ヴィオロンの/ためいきの/身にしみて/ひたぶるに/うら悲し」

 この一説は、レジスタンスに対する暗号で、辺境伯が決起したので、予定の行動を起こせ、の意味である。

 一か所だけでなく、帝国全土で同時にレジスタンスが同時に決起を起こし、帝国国内の治安維持機関の対処できる範囲を超えて、大混乱に導く。

 それがレジスタンスたちの役割である。

 そして、それはここ帝都でも同様であった。


「立ち上がれ亜人たちよ!今こそ虐げられていた亜人の復讐の時だ!

 戦え!戦って自分たちの恨みを晴らすんだ!!」


 魔導装置から流れてきた辺境伯の言葉を口にしながら、次々と治安維持機関に襲い掛かるレジスタンスの亜人たち。

 辺境近くと異なり、帝都は亜人の数も少なく、当然レジスタンスの数も少ない。

 だが、今まで散々差別やら人体実験やら行われてきた彼らの怒りは凄まじく、数の不利を物ともせずに激しい戦いを繰り広げている。

 そして、一方、中立派の重鎮ともいえるシャルロッテは、それに加わることなく独自の行動を行っていた。


「こちらは中立保護区になります!中立派に属する者たち、亜人派の女性・子供・傷ついた者はこちらに!!傷ついた者たちは大至急治癒魔術を!」


 自分や中立派の拠点に大規模結界を展開し、帝都の一区画を事実上占拠。

 中立派の人々や亜人派の女性や子供、怪我人たちの保護を行っていたのである。

 レジスタンスたちとの取引により、シャルロッテを中心にした中立派にはレジスタンスは襲わないように密約は行っていたが、それでも混乱状態になったらどうなるかは分からない。


 そのため、亜人の女性や子供の保護、怪我人の治療を行う事で、「ぶるぶる、僕悪い中立派じゃないよ。亜人派の力になる良い中立派だよ」作戦を行う事にしたのである。(悪い言い方をすれば人間の盾ともいう)


 レジスタンスにしても女性子供の保護や怪我人の治療を行ってくれるこの保護区は非常にありがたく、わざわざここに攻撃を仕掛けてくるような人間はいない。

 ハブにされて怒り狂った帝国派が攻めてくる事もあったが、小達人アデプタス・マイナーが作った魔術決壊を突破できるほどの力など彼らにあるはずもない。


「あん!?帝国派が助けを求めてる!?そんなの無視しなさい!!なんならアタシが出てたたき返してやるわよ!!それより一人でも多くの中立派と亜人派の保護を行いなさい!場所が足りないならドンドン結界を広げていくわよ!魔術塔にも連絡取って中立派の魔術師たちをガンガン引き入れてきなさい!

中立派の貴族をガンガン保護して金を吐き出すように言ってきて!拒むようなら結界内部からたたき出すわよ!」


こうして、シャルロッテは混乱渦巻く帝都の内部で活躍していたのだ。



 ―――辺境伯軍が帝国本土侵攻を行っている中、アーテルとリュフトヒェンは、仮想エンジンを全開にして、帝国本土の帝都へと向かっていた。

 超音速飛行で轟音とソニックウェーブをまき散らしながら飛翔する二体の竜。

 そして、帝国本土へと突撃しようとする時に、アーテルから魔術通信が入る。


《急ぐのは分かるが少し待て。流石に二体だけだと狙い撃ちされるからのぅ。

 何じゃ?「飽和攻撃?」とかいうのを試してみるとしよう。》


 アーテルが一声叫ぶと、大辺境の森林からついてきた無数のワイバーンたちが、一斉に帝都の方面へと空を駆って突撃していく。

 空を埋め尽くさんばかりの黒いワイバーンの群れは、帝国民からすれば世界の終わりを連想させるほどだった。

 つまり、ワイバーンたちを無数の生体ミサイルとして扱おうというのだ。

 おまけに、クラウ・ソラスからの攻撃に対する囮にもなる。


 元々、ワイバーンたちはアーテルからしてみても知性もない動物たちである。自分に従う存在といってもミサイル代わりに扱いにしても彼女的には問題はない。

 そして、そのワイバーンの群れとアーテルやリュフトヒェンに反応するのは、当然帝都に存在する神剣、クラウ・ソラスを制御する担当班である。


《神力充電120%!!地脈のメイン回路、何らかの妨害活動によって不調!サブ回路を開放します!!》


《メイン回路不調に加え、結界術式がジャミングを受けている事により、帝都全域からの全人口からの生命力吸収不可能!!

 ですが、普通に撃つのなら問題ありません!》


 レジスタンスとそれに協力しているシャルロッテの手により、範囲内の生命体の生命力を全て吸収する結界はすでに無効化されている。

 ついでに、地脈のエネルギーを吸収するクラウ・ソラスのメイン回路にジャミングや妨害も仕掛けてみたが、流石に神剣であるクラウ・ソラスをどうこうできるはずもない。せいぜいがメイン回路を不調にするぐらいである。


《よし!!皆聞け!今こそ人類防衛の刃たるこの神剣の役目を果たす時!!

 帝国の興廃この一戦にあり!!―――放て!!》


その言葉と共に、500メルーにも及ぶ巨大剣の刀身並びに柄頭の巨大な宝石に、バリバリと激しい光の放出が始まる。

地脈の力を吸い上げて、神力へと変換。柄頭の宝石から膨大な光が射出され、空間を焼き払いながら、高速でこちらに迫りくる竜たちに襲い掛かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る