第16話 ローリングシザーズと空中格闘戦

『なるほど。つまりこうして……こうか!!』


 リュフトヒェンは旋回飛行を行いながらもアーテルが使っている竜語魔術の追尾術式を読み取り、それをコピーして自分自身の攻撃魔術に組み込む。

 そして彼の側に存在する雷球から発射された数十もの雷は、空を飛行するアーテルを追尾して襲い掛かる。


『術式が甘いわ若造が!!』


 アーテルはその叫びの中、襲い掛かってくる雷撃を自らの魔力レーザーで迎撃を行う。空中に次々と咲く雷撃と黒い光の花火。それは攻撃魔術が全て迎撃されたという証拠である。

 だが、リュフトヒェンもその間大人しくしている訳ではない。アーテルに対して新しい攻撃魔術を繰り出す。


『!?』


 その直線状のレーザーに見える攻撃は、アーテルが放つ魔力レーザーに似ているが、威力は明らかに段違いだ。恐らくは雷撃魔術なのだろう。

 直線上にアーテルに襲い掛かる雷撃は、彼女の肉体を焼き尽くす。それは通常の雷撃とは桁違いの威力だった。

 雷撃にとって最大の敵は大気である。

 大気は絶縁体であり、その中を通る事によって雷撃は大きく減衰され、その威力を減らしてしまう。

 ならば、あらかじめ魔力レーザーを敵に照射し、その中に雷撃を流す事によって威力を減衰させずに、大威力の雷撃を直接叩き込む事ができる。

 それが、リュフトヒェンが編み出した新しい攻撃術式である。その直線状の雷はアーテルの尻尾に命中し、鱗を弾き飛ばしその下の肉体を焼き尽くすが、当たった場所が尻尾では到底撃墜するには至らない。


『なるほど。魔力で電流を流す線を作り上げ、そこに大電流を流すわけか。面白い。だがそれでは追尾術式は使えまい!!』


 翼だけではなく、体から魔力放出を行って飛行速度を増したアーテルは、予めリュフトヒェンから射出される魔力通路用のレーザーを探知し、それを高速度で回避していく。確かに彼女のいう通りである。

 この術式は、あらかじめ対象に魔力レーザーを放ってそこに電流を流す方式なので、魔力投射や雷撃のように追尾術式は使えない。

 しかも、直線状のため、高速で動き回る敵目標には当てにくいという欠点がある。

(それは今までの攻撃も同じだが)

 

二体の竜共に、飛行しながら周囲に数十個の雷球と漆黒の魔力球を従えて、そこから魔力放出や雷撃を射出させながら、飛行してぶつかり合う。


 アーテルとリュフトヒェンは、お互いに相手の後ろを取るために激しい機動戦を行う。それを防ぐために大きく旋回してブレイクを行うが、それで形成は逆転しない。そのため、ブレイクを行い、攻撃を仕掛け、またブレイクを行うというシザーズ、それもそれにロールを加えたローリングシザーズと呼ばれる機動になる。


 ぶつかり合う二匹の機動。当然その間にもお互い魔力球と雷球を従えたまま機動しているので、ぐるぐると目まぐるしく動く中でも、それに呼応して魔力球も移動し、お互いに相手の攻撃を行う。


 ローリングシザーズの機動中でもお互いの空間でぶつかり合い、弾け飛ぶ雷撃と黒い閃光。傍から見れば魅入られるほど綺麗な花火にでも見えるだろうが、本人たちはそれどころではない。


このままでは千日手である。そうなれば向こうより魔力消費が激しいこちらの方が圧倒的に不利になる。リュフトヒェンはさらにブレイクして体勢を立て直そうと距離をとる。そして、それを見逃すアーテルではなかった。


 戦闘機においても竜の戦いにおいても、相手の背後は最も脆弱な弱点である。

 後方の半丁角45度、長さ1500mの円錐状の空間、ここはヴァルネラビリティ・コーンと呼ばれる弱点である。


 そして、そのヴァルネラビリティ・コーンに、アーテルは飛び込み、しっかりと後方からリュフトヒェンに対して狙いを定める。


『!?』


 とっさに、リュフトヒェンは周囲の雷球から雷を放ち、自分の背後についたアーテルを攻撃する。

 実際の戦闘機では、自分の背後の戦闘機に対してミサイルが撃てるのはごく一部の機体だけだが、魔術ならばそんな事は関係なく撃つことはできる。

 だが、その雷をアーテルはひらりひらりと回避し、結界で弾き飛ばす。

 自分の背後で見えない状態で撃つのは、いわばめくら撃ちの状態であり命中率など望むべくもない。しかも、集中力が劣る魔術では、相手を撃墜するほどの威力を出せない。


 右に左に旋回したりしてみるが、振り放せないように、ぴたりとアーテルはリュフトヒェンの背後に張り付くように飛行している。

 ここらへんは流石に歴戦の竜というべきだろう。

 超音速とまではいかなくても、亜音速の近くの速度を出せる速度まで飛行できるのも、翼だけではなく、全身から魔力噴射を行って高速化しているのだろう。


 それでも攻撃を仕掛けてこないのは最適なタイミングを狙っているに違いない。

 獲物を前に舌なめずり。三流のやることだな、ととある小説の言葉を思い出しつつも、振り切れずに背後に付かれている以上絶体絶命なのは言うまでもない。

 びったりとリュフトヒェンの背後に張り付きながら、アーテルは口元に魔力を充電させてブレスを発射する態勢に入った。


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