第9話 めちゃ凄い魔術師だったわ。ちょっと変人だけど。
とりあえず日も暮れそうなので、皆で一旦作業を辞め、近くの川へと移動すると、川辺の近くに穴を掘って水を引き入れて、リュフトヒェンの肉を焼く際に使う弱火炎魔術などで水を温め、簡易風呂を作って皆で風呂に入った後でリュフトヒェンの洞窟へと帰還する。(流石にリュフトヒェン自身は入れなかったが)
村人候補たちも、流石にまだ未完成の村(予定地)で魔術結界も防護壁もまだ未完成な状況で夜を過ごすほどの度胸はない。
リュフトヒェンの洞窟……というか山を掘りぬいた居住地は、人の百人やそこら平気で避難できる山岳要塞と化している。たかが十人程度匿うのは何ら問題はない。
彼らはリュフトヒェンの寝床から少し離れた基地内のそれぞれ好きな所で寝てもらっている。……だが、ここに例外がいた。
『……あのね。』
「はい、ご主人様。何か?」
『我の尻尾に抱き着いてるの何か意味あるの?』
そう、それはセレスティーナだった。彼女はまるで抱き枕を抱きしめるようにリュフトヒェンの尻尾にしっかりと抱き着いている。
おまけに頬を摺り寄せたり、にへへ、と幸せそうな蕩けた笑顔を見せる始末だ。
本人が言うには、近づけば近づくほど彼女の中にあるリュフトヒェンの竜血が活性化してより強くなれるらしい……のだが、本当か疑問符が出てしまう。
「それはご主人様成分……もといご主人様の魔力を吸収して充電しています。
私は、ご主人様の血を分け与えられた存在、つまりご主人様の一部ですから。」
彼女はまるで抱き枕のようにリュフトヒェンの尻尾に抱き着いている。
動物のように羽毛などでモフモフならば理解できるけど、鱗に覆われている尻尾に抱き着いて嬉しいんか……?と思ってしまう。
確かに彼女の豊満な胸の感覚や肉体の感覚が伝わってくるのは嬉しいのだが、それが尻尾から伝わってくるとなると、元人間としての彼は困惑するしかない。
『お、おう……。(困惑)まあ本人がええならええけど……。』
確かに彼女の胸や体などの柔らかい感覚は尻尾から伝わってくるけど、彼女の奇行を見てると正直ドン引きしてしまう。
まあ、彼女は貴重なこちらの戦力にして人間たちのリーダーでもある。
ここで機嫌を損ねられても困るので、彼女の好きなようにやらせておくのがいいだろう。
『そういえば、あんまり話せてなかったけど、君の事情とかを聞かせてくれる?』
セレスティーナは竜血の影響か、こちらを熱狂的に慕ってくる傾向が強い。
村に派遣する前に、彼女を理解するためにも、制御するためにも、彼女と密接なコミュを取っておかないといけないと判断したのである。
「特に語ることはないのですが、まあご主人様のおっしゃる事でしたのなら……。」
そうしてセレスティーナは自らの出身を語りだした。(尻尾に抱き着いたまま、話し出したのは流石にどうかと思ったが)
孤児院出身で竜人としていじめられていたが、その優れた魔術の才覚で魔術師として活躍してきた事。竜人でありながら、新規の魔術師たちのトップとして学習院を卒業した事。だが、それを妬んだ他の魔術師から社会的に貶められ、冤罪をかけられて魔術殺しの刃で傷つけられ、魔術院を放逐された事である。
(重い!重いよこの子……。いやでも、帝国での竜人の扱いってそんなのなのか。)
しかし、やはり聞いてる限り、亜人の扱いは酷い物らしい。
亜人ですらこうなのだから、竜である自分など帝国内部では生きれないのは明白だ。大まかには話は聞いていたが、こうして詳しく聞くと実に酷い物であることがよく理解できる。
『やっぱり帝国はそれだけやらかしているのか……。』
「はい、亜人弾圧はますます酷くなっています。大辺境と隣接している帝国の辺境伯領主は帝国内部では珍しく竜人の貴族であり、亜人保護に努めていますが、それもどれだけ持つことか……。帝国上層部は、辺境伯を無理矢理変えるか、領地に軍事侵攻して制圧する案まで出てきているようです。」
おいおい、辺境伯の領地に攻め込むとかマジか、辺境伯離反フラグ満々やん、と彼は心の中で呟く。
自国の軍隊が辺境伯の領地に攻め込むとか明らかに正気ではありえない。
帝国にとっては、それだけ亜人保護を務めている竜人の貴族など目障りなのだろう。
『しかし、話を聞いていると人類至上主義の帝国で竜人の貴族とか珍しいとかいうレベルじゃないな……。何でそうなったの?』
「元々、大辺境に隣接している辺境伯の領土では、竜の盾になるのなら竜人が相応しいとそういう経緯で竜人が辺境伯として指名されたそうです。
まあ、簡単に言えば「私たちの盾になれ」と押し付けられたみたいですね。
その経緯もあって、辺境伯の領地に大量に迫害された亜人たちが流れ込んでいるようです。」
竜人だから竜の説得もできるだろう、などではなくて、我々の生きる盾になれ、我々の犠牲になれ、と言われて大人しく納得する人間たちがいるはずもない。
しかも、領地が奪い取られるなどとあっては離反フラグ満々なはずである。
上手くすれば、その辺境伯をこちらの味方に引き込めるかもしれない。そうすれば自分の国を作り出す野望は大きく進展するはずである。
「私も竜の血が混じっている混血ですので……そう言った混血の種族も容赦なく迫害されています。そういった者たちは、ここ大辺境周辺へと無理矢理追いやられていざという時の盾にされています。そして、私たちがここまで来たのは、空帝ティフォーネ様を説得して帝国に抗うための力になっていただきたかったのですが……。」
で、ママンがいなくなって今の状況に陥っている訳か、と彼は納得した。
ティフォーネがいなくなったら、帝国は間違いなく大辺境へと侵攻を行い竜たちを狩りつくすに違いない。
そうさせないために、帝国に対抗できる力を今のうちに作り上げなくてはならない。ここで帝国に対抗する戦力を作り上げないと、かつて首都の半分を吹き飛ばした竜の息子など、血祭りに上げられるのは目に見えている。
例え大人しく暮らしていても彼らは恨みを忘れないだろう。と、なれば、やはり自分自身が生き延びるために国家を作り上げるしかない。リュフトヒェンは決意をさらに固めた。
『正直に言うと、君は帝国に対して恨みはあるの?滅ぼしたいとか?』
そう決意を固めつつも、リュフトヒェンはセレスティーナに問いかける。彼女が帝国に対して多大な恨みを抱いているかどうかによってこちらのやる事も違ってくる。有能な魔術師である彼女を何とか暴走させずに上手く制御しなくてはいけないというのが彼の考えである。
「正直に打ち明ければ……帝国の全てをリュフトヒェン様のブレスで焼き尽くし、全て根こそぎ滅ぼすべきである、と思います。人類至上主義に侵された人間どもなど、リュフトヒェン様の統治には不要かと。」
アカン、予想以上にアカンかった。
しかも、恨みとかそういうのじゃなくて、純粋にこちらの事を考えて帝国を滅ぼす気満々なのがさらに危うい。
自分にはその気はない、とはっきり言っておかないと良かれと思って、と暴走する危険性が大きいと判断した彼は、はっきりと否定する。
『いや、ないわ。そんな事したら皆から恨み買うでしょ。もっと穏健にいこうよ穏健に。君の恨みは分かるけど、その呪いで全てを焼き尽くしたら自分も焼かれるよ。』
「……は。全てはご主人様の御心のままに。」
本人にとっては大分不満だろうが、ここは耐えてもらうしかない。
そんなことをしたら、ロクでもない事になるのが目に見えている。
『ところで、君、魔術師としてのレベルはどれくらいなの?やっぱり経歴からして凄そうだけど。』
リュフトヒェンは内心ワクワクしながらセレスティーナに問いかける。
何せ本物の魔術を使いこなす魔術師など前世がオタクな彼にとっては興味津々である。自分も竜語魔術は使いこなせることができるが、それはそれ、これはこれである。
「私は、魔術師としての位階は5=6 小達人(アデプタス・マイナー)です。
その中でも理論・小達人(セオリカス・アデプタス・マイナー)と呼ばれる階位ですが、まあ、これは細かい分類ですので、貴方の前ではあまり意味はありませんが……。」
小達人の中でもさらに細かく分類されており、
こんな若輩で一気にそれだけ高位の魔術師となったのなら、それは周囲からやっかみを受けても当然である。彼女がこちらに熱狂的に入れ込むのも、今まで努力した魔術師たちから受け入れられず、追放されていた傷心の時にこちらの竜血の効果によって、それを愛情と勘違いしたのかもしれない。
『おお、めっちゃ凄いじゃん。それって魔術師としてはかなり高位の階級でしょ?
そんな魔術師をポイ捨てするとか、魔術院ってロクでもない人間ばかりいそうだなぁ。』
「は。光栄です。」
竜である彼が魔術師の位階について詳しいのに、少し不審な顔をしたが、その程度で彼女の信仰心が衰えるわけはない。
リュフトヒェンに褒められて、彼女は片膝をついて深々と礼を行った。
しかし、竜の血を受け、竜の使い魔と化した彼女は、人間の魔術師としての器を逸脱しつつある。もしこのまま行けばさらなる高位の魔術師に至る可能性はあるが、それもまずは生き延びてからの話である。
・セレスティーナの魔術師の位階を少し変更しました。
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