竜に転生したけど退治されたくないので、自分の国を作り出すようです。
名無しのレイ
第1話 ママーン!?これ育児放棄やでー!!
現代社会から転生してきたただのオタク。強いていえば戦闘機のフライトシミュレーターゲームが好きなオタクの彼の魂はテンプレ通りに異世界へと流れつきこのたび、めでたく異世界に転生をしました。
問題は……それは竜の肉体に転生してしまったという事です。
『うう……。どうしてこんな事に……。』
転生した彼、リュフトヒェンは、彼の母親が作り上げた洞窟(というよりは山一つ掘りぬいた山岳要塞)の近くで、魔術を使って焼き上げた肉に、必死になって見つけた岩塩の塩を振りかけて、もしゃもしゃとその肉を口にする。
竜に転生して一番きつかったのが、彼らは生肉を平気でむしゃむしゃと食べる事である。元は現代人である彼は、生肉には有害な細菌や寄生虫が住み着いている事を知っている。
竜ならば平気かもしれないが、以前ネットで見かけた脳に大量の寄生虫が巣食われるなど思い出してしまうとぞっとしない。
そこで何とかどうにか苦労しながらも肉を焼く弱い炎の魔術と味付け用の岩塩を見つけ出して、何とか食事をやりくりしてもらっているのである。
そして、そんな竜に転生してその生活風習に悪戦苦闘しているリュフトヒェンに対して、一匹の竜が彼に向って話しかけてくる。
およそ30mほどの巨大な竜。だが、その特色は純白とも言える一面白い鱗と、凶悪とも言える二対の鋭く尖った巨大な角である。
神聖、神威、神々しさすら感じさせるリュフトヒェンの母親。エンシェントドラゴンであるティフォーネである。
『と、いうわけで貴方には自立してもらいます。』
開口一番、目の前の神威を宿した竜はリュフトヒェンに対してこう告げた。
そのあまりにも唐突なティフォーネの言葉に、思わずリュフトヒェンは彼女に向って焦りながら反論を試みる。
『待ってママン!まだ我生まれて数年ぞ!?まだ生まれて間もない赤ちゃんぞ!?
まだバブゥでオギャる時期が必要なのでは!?これは育児放棄なのでは!?』
『オギャ……?まあ、それはともかくこれぐらいで一人立ちしてもらうのが竜族の通例らしいですし。まぁ、私はエンシェントドラゴンで生まれた時からこの姿なのでよく分からないのですが。』
そう、ティフォーネは、れっきとした古代竜、つまりエンシェントドラゴンである。
世界誕生の頃より生まれ、神々の肉体を滅ぼした原初の戦いを潜り抜けた竜としての最高位。それが彼女である。
彼女の言うには、彼女は生まれた頃からもうこの姿であり、子供の頃はなかったとの事だ。そのため、他の竜のやり方、つまり通例に倣う事にしたらしい。
だが、こちらとしてはたまったものではない。また生まれたばかりで数年しか経っていない子竜が、何の庇護もなしに、ぽーんと厳しい弱肉強食の世界に放置されたら、死ぬのは免れない。
リュフトヒェンは、必死になってティフォーネを食い止めるために言葉を放つ。
『まだ我、竜としての力がほとんどないのですが!?そんな時にぽーんと放置されたら我死んじゃう!!』
『?死んだらそれまででしょう。それは貴方に生き延びる力がなかっただけという事。諦めて死になさい。竜族において、生き残る力のない竜はそれだけで悪です。』
きっぱりと断言されて彼は思わず絶句した。
竜の価値観において、力のない存在はそれだけで害悪。
それは例え生まれたばかりの存在といえど例外ではない。
生まれたばかりの赤ん坊はきちんと成人まで育てるという人間の常識とは全く異なった竜の常識に思わずカルチャーショックを覚えてしまう。
『それでは、おさらばです。この縄張りも住処は貴方のために残していきますし、財宝も貴方のためにある程度置いていきましょう。私の子ならば、頑張って生き延びなさい。それでは。』
『ま、待って!ママン!ママーン!!』
リュフトヒェンの静止の声を無視して、ティフォーネは翼を広げるとその場から悠然と飛び立っていった。そのあまりにもさっぱり、というかドライな別れ方に、思わずリュフトヒェンは呆然と見送ってしまう。
『……どないしよ。』
そこには、取り残されて茫然とする彼の姿だけが存在していたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます