『山の中にある家』
やましん(テンパー)
『山の中にある家』 上 (全三回)
むかし、しもうさの里の外れにある小さな街に、やましんという、自称戯作者が住んでおりました。
知り合いがやっている、白瓦版という、無料のミニコミ誌に、続き物を書いていたりしましたが、なんせ、広告料だけでやっている、無料の読み物ですから、原稿料はなく、たまに、広告をのせた、八福という雑貨店兼食堂などのクーポン券をもらったりするくらいでした。
300ドリムのうどんが、230ドリムになったりするのですから、有難いものでした。
白瓦版というのは、紙が白かったからです。
あるとき、また、戦争が始まりそうだ、という、噂が立ち、たちまち、都あたりには戒厳令が出たらしく、しもうさの殿様がいる城下町もキンチョウしていましたが、そこから、いくつか山を越えたこのあたりでは、わりに、のんびりムードでした。
昔は、自動車とか、電車とかが走り回っていましたが、いまは、そういうものは、お城以外にはなく、電話とかも、ほとんど先の戦争で壊れてしまい、今は、お城に無線機が数台あるだけ。
テレビがあるのは、都だけで、このあたりは、有線ラジオがあるだけでしたが、放送するのは、なにかあったときだけでした。
しかも、ちゃんと鳴るのは、やましんの村の中では、半分以下あたりでした。
つまり、発電所の力が弱くて、電気がちゃんと来てないからで、また、電池なんかを買える家は、少なかったのです。
それでも、ここの出城の城主さんは、県内でも、一番下の出世しっぽの人で、下に敷かれる人の気持ちがわかるものですから、あまり、難しいことは言わず、まあ、『貧乏でも楽しく生きよう。』が、スローガンでした。
しかし、その、のんびりやの城主さまも、さすがに、キンチョウの色を隠せません。
小さな城下町の、とくに、あまり、重要な公務などを、やることがない人たちには、シェルターにすぐみなが入れるように、準備をさせました。
そうして、自分と、家老さんと、総務部長さんと、警備部長さんで、お城の天守閣に入り、四方と、上空を監視しました。
『との、むかしみたいに、みさいるさんが落ちてきたら、歯が立たないっち。』
ご家老さんが、言いました。
『解っております。しかし、今もなお、みさいるさんが残っているのかさえ、われわれには、分からないのです。先般の城主会議で、おおとのも、都の総裁さんも、わからん、と、言っているとか、ぼやいてましたから。』
『そら、分かるわけがない。われらは、籠の中のネズミだ。』
総務部長さんが言いました。
『まあ、総裁さんは、知ってるに違いないですがな。役に立たない情報は、一切出さない主義の方だから。』
『ならば、まだ、ある。と。いうことですな。ない、というのが役に立たない情報であるとすれば。あるわけですな。』
警備部長さんは、むかし、防衛隊に居たことがある、軍事通です。
ただし、あまり、偉くはなかったらしいですが。
でも、偉くないと言って、甘く見ては、なりません。
部下というものは、どこにでも、ひそんでいるものです。
『当時、ま、大核戦争から15年は経っていましたが、まだ、核みさいるさんが、残っている国がある、という情報は、かなりありました。問題は、きちんと、整備が可能かどうかでした。核物質の管理、みさいるさん自体の、維持管理は、なかなか、大変なのです。こやしも、必要だ。餌もやらなければ。また、システムがあまり複雑ですと、なおさら。地球は、貧乏かみさまの巣窟みたいに、なりましたからな。技術屋さんも、足りないし。』
『たしかに。しかし、こんな、いなかに、いまさら、核を撃ち込む意義はないですがね。』
『さよう。ただし、狙いが不正確になれば、なおさら、どこに落ちるかわからない。』
『うむ。さようですな。みなさん、正しい。まあ、昼ですな。おにぎりでも、いかがですかな。』
城主さんが誘いました。
『良いですなあ。』
みなが、答えました。
お腹が、すいたのです。
城主さんは、伝令管に向かって叫びました。
『もうしもうし! おにぎり、たのんます。』
すると、でっかい、返事がきました。
『あいよお。まいどお。』
食堂の、おじさんでした。
●●●●●●●●●●●
やましんは、ねんど山の頂上に上がって、昔から持っていた、野性動物観察用の双眼鏡を使って、あちこち眺めておりました。
むかしの、大核戦争のことを、やましんは、知っていました。
ただし、当時は、街からは離れていて、上下左右の都市は、みな、ずたずたになりましたが、たまたま、破壊範囲の狭間にいたせいで、命だけは助かりました。
残留放射線の影響があるためか、あちこち、良くはないのですが、政府には、もともと、なにかするという力は、もうありません。
いまは、たくさんの政府が各地域にできて、裏政府が、それぞれにあり、みな、ばらばらになっていて、あまり仲良しではないままに、なっているのです。
しかし、各裏政府も、一部の人たち以外は、たいして、豊かではなく、お互いが、にらめっこを、続けています。
世界は、だから、ちっとも、よくなりません。
しかし、庶民は、なにか余計なこと言うと、なぞの、ダークスーツに、さらに、かなり趣味悪い赤いネクタイ、カッコ悪いサングラス、に身を包んだ、『お仕置きメンズ』がやってきて、せっかんして行きます。
彼らは、お城の城主さんとは、関係ないらしく、どこから来るのか、なぜ、悪口言ったのが分かるのか、ぜんたい、なぞでした。
スパイからすさんや、スパイにゃんこさん、スパイわんこさん、スパイやすでさん、スパイくもさん、などが沢山いるのだ。という説も、あります。
でも、そういうのは、信用できないと、やましんは、思いました。
で、やましんは、ふと、おそらから、なにかが、落ちてくるように感じました。
お城の天守閣にいた四人も、おにぎりと、おつけものを掴みながら、『あらあ。』と、思いました。
外国の通販で買った、かなりお高かった、小型高性能迎撃みさいる付き自動監視装置は、それより少し前に、空襲警報を出してましたので、城下町のひとは、シェルターに飛び込みました。
こんな世の中にあって、わりに、まともな、品だったようです。
訓練はしていたので、だいたい、避難はうまく行きました。
『来たか❗』
『との、はやく、シェルター通路に。』
天守閣にある、シェルター直通の滑り台に、四人は飛び込みました。
城主さまは、迎撃みさいるさんが、お城の高台から、うち上がるのを、確認しました。
しかし、みさいるさんは、なぜか、複数きていたのです。
いったい、この、いなか街に、何があるというのでしょう。
やましんは、ねんど山の頂上にあった、古いシェルターみたいな坑に、どちらかと言うと、むりやり、落っこちました。
つまり、そんなもの、坑がある、くらいにしか、知らなかったのですが、ぐいっと、後ろ向きに、引っ張り込まれた感じでしたから。
・・・・・・・・・・・・・
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます