城ケ崎先輩の役に立たない真夜中アイデア

タカば

城ケ崎先輩の役に立たない真夜中アイデア

 うちの大学には変な先輩がいる。


 名前は城ケ崎芽衣子。

 一年先輩の彼女は、そこそこの頻度で大学にやってくる、そこそこ不真面目な学生で、結構な頻度で俺についてきて、そこそこの時間まで俺の部屋にいりびたる。

 そして、毎回独自のアイデアを披露するが、だいたい役に立たない。


 実に面倒な先輩である。


「真尋くん、いいことを思い付いたぞ」

「……何ですか」


 そろそろ日も傾きかける時刻。

 いつも通り、人の家のコタツでごろごろしていた城ケ崎先輩はすくっと立ち上がってそう言った。


「真夜中までここにいればいいんだ」

「……はあ」


 同じ町内に部屋があり、終電というものが存在しないのをいいことに、城ケ崎先輩が夜中まで俺の部屋に居座るのはいつものことですが。わざわざそれを宣言する意味がわからない。


「明日は君の誕生日だろう」

「そういえばそうですね」


 中高生ならともかく、大学生にもなってまで誕生日にこだわりはない。学部の友人も特に祝いあうほどの関心はなく、ここ数年はイベントらしいイベントはしていない。

 しかし、城ケ崎先輩はそうは思わなかったようだ。


「後輩のせっかくの誕生日、ぜひとも祝ってやりたい! しかしひとつ問題がある!」

「はあ」

「実は明日の昼から実習合宿に行く予定が入っていてな。3日後まで帰ってこれない」

「じゃあ祝わなくてもいいのでは」

「君が産まれた日だぞ、産まれた日! これを祝わずして、何を祝えというのだ!」


 城ケ崎先輩は、ばんばんとこたつの天板を叩いた。そこそこたわわな胸がぷるぷるゆれる。


「……なら、別の日に祝えばいいのでは」

「それも悪くない案だがな。誕生日というものは、当日に祝ってこそ意味があるのだ!」


 城ケ崎先輩は、よくわからないこだわりを熱弁する。


「そこでだ! このまま夜中まで君の部屋に滞在して、日付が変わった瞬間にお祝いするというのはどうだろう。遅くなるようなら、そのまま泊まって君の部屋から実習合宿に行けばいい。これなら、君の誕生日を当日に祝えるし、私は実習の単位を落とさずにすむ」

「……はあ」


 いつもの話だから、つっこんでませんがね。

 ひとり暮らしの男の部屋に泊まりがけで遊びにくることの意味を理解してますか?

 一晩遊んで騒いで眠り込んでも安全な男だと、信用してくれているんでしょうが。


 どれだけ居心地がよくても、それは俺の望む関係じゃないんですよ?


「そうと決まれば準備だな! 今日の夕食は私がおごろう。スーパーで君の好物を買ってこようじゃないか」

「それ、結局俺が作るやつですよね?」

「細かいことは気にするな! プレゼントは何がいい? いつも世話になってる後輩のためだ、あまり値が張るものは無理だが、できるだけ希望に添うぞ」

「じゃあ、城ケ崎芽衣子がほしいです」

「……ん?」

「うちに夜中までいるんです、一晩エロいことさせてくださいよ」


 そう言うと、城ケ崎先輩の目がまんまるになった。

 信じられないものを見るように、俺をまじまじと見つめる。


「え……えろって……真尋くん、君は私を何だと思ってるんだ!」

「惚れた女ですかね」


 城ケ崎先輩は、人の感情をくみ取るのが下手だ。

 その上、俺の隣が居心地がいいからといって、意図的に俺の気持ちから目をそらしているフシがある。

 このポンコツ屁理屈先輩には、もうストレートに感情をぶつけるほかない。


「か……」


 見つめていると、城ケ崎先輩は真っ赤な顔で口を開いた。


「帰る!! 真尋くんのばかたれ!!!!」



 今日も城ケ崎先輩のアイデアは、役に立たない。




 ……今日のアイデアを台無しにしたのは俺だが。



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城ケ崎先輩の役に立たない真夜中アイデア タカば @takaba_batake

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