第43話 勉強会だと!?
色々なイベントがてんこ盛りだった林間学校から早一週間が経過した。
ここ最近は破滅イベントは起こらず、自由気ままにのんびりと学園生活を送っていた。
そうそう。平穏な毎日が過ごせれば、俺はそれで良いんだ。
それなりの大学に進学して、それなりの企業に就職。そしてそれなりの家庭を築く。
それが俺の人生設計だ。
平穏こそが全て!
そう思いつつ、穏やかな日々を過ごしていたのだが……。
「慶道、もう少し勉強した方がいいんじゃないか? このままだと中間試験が危ないぞ」
華先生から数学の小テストを返却され、その点数を見た俺は固まってしまった。
百点中まさかの三十一点。
……。
や、やべぇぇぇぇ!
入学してから色んな事があり過ぎて、すっかり勉強するのを忘れていたー!
あと一週間後に高校生活初の中間試験がある。
もしここで赤点ラインである三十点を超えなければ、次の試験まで補習確定!
それだけは絶対勘弁だ!
毎日放課後に補習だなんて死んでも嫌だ。
し、しかしこの点数だと赤点を避けられるかギリギリだぞ……。
俺は肩を落としながら、席へと戻る。
「おっ! 涼は何点だった~?」
友里がニコニコしながら聞いてくる。
「い、いや~、まあ……。ボチボチかな」
「え~、具体的な点数教えてよ~」
「い、いや~、多分友里よりも下だと思うぞ?」
「本当? 私九十五点だけど、涼はそれより下?」
「高いなおい。当たり前だろ」
「そっか~。でも点数気になるな~」
友里は横から俺の答案用紙を除こうと顔を近づけてきた。
だがこんな低い点数を見られてはならない。
俺は子を守る母猫の様に、答案用紙を胸の中に隠そうとしたのだが。
背後から魔の手が襲い掛かる。
「何隠そうとしているのよ。自分だけ人の点数を聞いて教えないのは、ズルいんじゃないかしら?」
後ろの席に座っている古井さんは、俺が隠そうとした答案用紙をスッと掴み取った。
まるでスリでもしたかの様に、一瞬で答案用紙を奪った。
「あっ! ちょ古井さん!」
奪い返そうとするが、古井さんが俺の顔を手で押さえつけているので、中々奪い返せない。
手を伸ばすが、一向に届かなかった。
「えーっと。慶道涼の点数は……」
古井さんは俺の点数を見た途端。
俺の解答を静かに床に落とした。
まるであまりの衝撃に手に力が入らなかったかのように、スルーッと答案用紙が落ちて行った。
「ん? どっしたの古井っち?」
不思議に思う友里。
その後に続き、
「古井ちゃん、どうかした?」
俺と古井さんのやり取りを隣で見ていたひなみも、さすがに気になったようで、言葉を飛ばした。
二人の視線が古井さんに集まる中。
驚愕した表情を浮かべながら、古井さんはこう言いだす。
「う、嘘でしょ……。こ、こんなことがあるなんて……三十一点なんてありえないわ!」
「「三十一点⁉」」
古井さんの言葉に動揺を隠しきれなかった友里とひなみは、同じ言葉を口にした。
「し、仕方ねぇーだろ! 最近色々あってだな……。べ、勉強に集中できなかっただけだ!」
女子三人の反応に、さすがに黙ってなどいられず、適当に言い訳をしておいた。
本当は音ゲーばかりやっていたから、そりゃこんな点数をとってもおかしくない。
「そんなに驚いているみたいだけど、ひなみと古井さんは何点だったのさ?」
そう問いかけると、ひなみと古井さんはこう言った。
「九十二点だったよ!」
「私は安定の満点だけど?」
「ちくしょー!! この天才共がぁぁぁ!」
え? 何?
俺の席の周りにいる女子三人頭良すぎませんか⁉
三人の平均が九十オーバーってどういうことだよっ!
「いや~、この点数だと中間試験が大変なことになっちゃうね~。このままだと涼は高確率で補習コースを進むことになるね~」
「いや、それだけはマジ勘弁してほしいんだが……」
「とはいっても、もう一週間しかないしね~。どうしたもんか」
残り時間の少なさと俺の点数を考えると、ここから赤点を回避するのは中々難しい。
今回の小テストは範囲をかなり限定して行われている。だから今のままでは中間試験が危うい。
「まいったね~」
友里が頭を抱えている時。
ひなみがこんな提案をしてきた。
「じゃあさ、私達の得意分野をそれぞれ涼君に教えようよっ! その方が効率的だし、きっと何とかなるはず!」
「それって要するに、家庭教師みたいな事を、三人がやってくれるってことか?」
「そう言う事!」
マジっすか……。
俺が赤点を取らない様に、わざわざ家庭教師を付けてくれるのか。
何て有難いんだ。
こんな優秀な人から教われば、何とか赤点は回避できるはずだ。
「良いのか? 俺なんかのために」
「私は全然良いよ! 友里と古井ちゃんはどうかな?」
ひなみは友里と古井さんに目を向ける。
「私は全然良いよ~。ナイスアイデアだね、ひなみ!」
「私も別に。時間には余裕あるしね」
残る女子二人もあっさり承諾してくれた。
何この素晴らしい展開はっ⁉
「本当助かる三人共……。残り一週間しかないけど死ぬ気で頑張るよ」
俺は涙が出そうになるが、必死で堪えた。
今ここで泣くのは早い。
赤点を回避してから泣くべきだ。
「じゃあ決まったことだし、早速明日から勉強だね! 場所はどこがいいかな?」
首を傾げるひなみに、俺はこう提案した。
「普通に図書室で良いんじゃないか?」
「ダメね。あそこは向いてないわ」
秒で古井さんから否定されました。早いなおい。
「結構向いていると思うんだけど、何がダメなんだ?」
「テストが近くなると、図書室の利用者が増えて密状態になるわ。私達四人が座れるか分からないし、それに基本私語厳禁だから無理よ」
「ああそっか。この時期だと図書室で勉強する子が増えるのか」
さすが元お嬢様学校だ。テスト勉強に対する意識の高さが俺とはまるで違う。
赤点を取らないのは当たり前。その上でどう高得点を取るのか?
皆そのことしか考えていないのか。
「じゃあカフェとかは?」
「悪くはないけど、お金がかかるわ。私バイトしていないし、節約しないと」
「教室は?」
「ダメね。防犯上の都合で、部活などの理由がない限り、十六時以降の使用は許可されていないわ」
それからも色々と古井さんに提案してみたが、全て却下されてしまった。
中々条件に合う最適な場所が見つからず、俺達はその後も少し考えた。
だが四人が何不自由なく勉強に集中できる場など、中々見つからない。
頭を捻り、しばらく考え込んでいると、古井さんが何か閃いたようだ。
「ねぇ。別に四人で勉強する必要ってあるかしら? 涼の勉強をサポートできればいいのよね? なら得意科目を一人一教科ずつ、個別で教えればいいんじゃないかしら?」
個別。
その言葉が出てきた時、少しばかり嫌な予感がした。
それってつまり二人っきりで勉強をするってことですよね?
「おお~。確かにそうだね! あ、じゃあ順番で涼に勉強を教えようよ! 一日一科目集中して勉強すれば、今からでもなんとかなりそうだし!」
古井さんの案に、何故か友里はノリノリだった。
ちょっとだけ目が輝いている気がするが、気のせいか?
「わ、私も友里と同じで、二人っきりの方が集中できるし、いいかなーって思う」
残るひなみも、友里と同じくあっさりと承諾した。
な、何だこの展開。やっぱり嫌な予感が……。
「じゃあ決まりね。私達が順番で涼に得意科目を教え合いましょう。場所はそうね……。家で良いんじゃないかしら?」
「え? 家で?」
「家なら邪魔はいないし、お金もかからない。最適だと思わない?」
「えぇっ⁉ 女子の部屋で勉強するのか⁉」
おいおい待て待て!
勉強を教えてもらうのは有難いが、女子の部屋で二人っきりで勉強しろって言うのか⁉
それはそれでヤバいだろっ⁉
「どうかしら友里とひなみ。部屋で勉強しても集中できるわよね?」
動揺する俺を前にしても古井さんは一切気にせず、女子二人に視線を移した。
「私は問題ないよ~。涼なら大歓迎だね!」
友里に続き、
「私も良い……かな。涼君なら全然良いよ」
ひなみまでもあっさり賛成してしまった。
おいおい、ちょっと待てこら。
じゃあ俺に女子と二人っきりで勉強しろと言うのか⁉
集中できる訳ねぇだろっ⁉
色んな意味でヤバい!
健全な高校生が二人っきりって、そりゃもう……。
考えれば考える程、俺の顔はどんどん赤くなっていった。
「じゃあ決まりね。涼の赤点回避勉強会スタート」
古井さんは俺の意見を全く効かず、強引に勉強会を開催した。
それぞれの担当はというと。
英語→ひなみ。
数学→友里。
理科(化学、物理、生物の三つ全て)→古井さん。
ちなみに中間試験は、数学、英語、理科、社会、国語の五つ。
勉強会でやらない社会と国語だが、暗記がメインだから特に必要はないとのこと。
こんな感じで急遽、俺は三日間女子の部屋で二人っきりで勉強をしなければならなくなってしまった……。
絶対何か起きるでしょコレッ⁉
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