第16話 二人きりの旅行(5)
◆❖雪菜side❖◆
境内にあるカフェに入った私は、この後何処に行くかについてちょっぴり迷っていた。
この後の予定について、実は二通り考えてあった。
まだ時間は二時を少しすぎたばかり、もう一箇所は余裕で行ける。
「この後は何処に行くの?」
私が悩んでいると悠哉くんの方から聞いてきた。
実は私が悩むのには理由がある。
それは――――。
「えっと……アタミロープウェイに乗って景色を見に行くのと、アカオハーブ&ローズガーデンって所に行くのとで迷ってるんだよね」
そうだ、ここは悠哉くんに委ねよう。
そしたら懸念事項を目にしてしまう事態になったとしても私の責任にはならない!
むふふ……我ながら策士!
「ロープウェイだと景色を見て終わりになるんだよね?」
純粋に疑問を抱いたからか質問をしてくる悠哉くん。
でも、それに答える私は、目が泳いでしまう。
「えっと……そ、そうなんじゃないかな!?」
「ガイドさんしっかりしてよ」
そう言って悠哉くんは笑った。
危ない、セフセフ……。
いったん頭をヒヤシンス!というわけでアイスコーヒーに口をつけた。
「なら、そのハーブなんちゃらって方がいいかな。お土産も充実してそうだし」
「なら、そうするね!」
悠哉くんが選んだことで悩む必要は無くなった。
悩んでいた理由は、ロープウェイで辿り着いた先に秘宝館があるからだった。
私が率先して選んだ場所に、そんなものがあっては悠哉くんに変態さんだと思われかねない。
でも、熱海を一望できる展望台は正直行ってみたかった。
そして秘宝館のお土産にある『おち〇ちんチョコレート』や『したくなるチョコレート』はほんのちょっぴり気になった。(思春期の好奇心に任せて念入りにリサーチ済み)
ほんのちょっぴりだよ?
十八歳未満は入れないと思うから成人してから行ってみよう、そう密かに誓う。
「なんか残念そうな顔してるけど?」
近距離で悠哉くんは私の顔を覗き込む。
「そそそそそそんなことないよっ!?」
顔に出てた!?
てか、顔近すぎ……。
ちょっとドキッとしちゃったじゃん……。
「そう?ならいいけど」
「ならもう行かない?お会計は私が済ますよ。お昼は悠哉くんに払って貰っちゃったからね」
きっと赤くなっているだろう顔をショルダーバッグで隠しながら私は言うのだった。
◆❖◇◇❖◆
園内移動がまさかのシャトルバスという予想以上の広さに驚かされた。
「私、自分が思ってたより不器用みたい」
「そんなことないですよ〜」
「ラッピングのセンスも男の子の悠哉くんに負けてるし……」
「そ、そんなこと……人には得手不得手ありますから〜」
さすがのスタッフも苦笑いを浮かべている。
一時間かけてハーブ練り香水を作ったわけだけど……率先して悠哉くんを連れてきたにも関わらず、私が実は不器用だってことが悠哉くんにバレちゃった。
「はぁ……」
思わず漏れ出るため息に
「どうしたの?」
「女子なのに悠哉くんに女子力で敵わないなって」
そう言うと悠哉くんは苦笑いした。
「俺の場合は母がいなかったからさ、嫌でもそういうスキルは身についたよ。それに……花凜にも鍛えられたから」
「橘さんが……?」
「ごめん、そこのところは聞かなかったことにしてくれるかな?」
そう言った悠哉くんの顔はどこか暗かった。
やっぱり忘れたい過去なのかな?
「う、うん」
でも私は、その言葉を忘れることは出来なかった。
それどころかどういうわけか、確かな苦しさというか痛みを伴って心の中に留まり続けたのだった。
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