【KAC202210】真夜中の廃墟で肝試し

小龍ろん

真夜中の廃墟で肝試し

 とある山奥に廃業したホテルがある。もともとはそれなりに立派な建物だったが、今ではすっかりと朽ち果てて、廃墟と化している。


 人気もなく、整備もされていない建物跡。普通の人間なら立ち寄ることはないのだが、それでも少数ながら足を踏み入れる人間はいる。



 真夜中の廃墟を進む二つの人影があった。足音ひとつ響くことのない建物跡とはいえ、完全に無音というわけではない。むしろ、虫の音がやかましいほどだ。


 建物はすっかりと荒れ果てている。壁の一部は崩れ落ち、床には備品らしきものが散乱していて歩きづらい。そうだというのに、その人影はスルスルと淀みなく進んでいく。


「ここってさ。出るんだって」

「出るって何が……、いや、言わなくいいから!」

「なに? 怖いの?」

「怖いに決まってるでしょ! こんなところに連れてくるなんて何考えるのよ。馬鹿じゃないの?」


 憤る女の顔色は悪い。その透きとおる肌はすっかりと青白くなっていた。男はというと、その様子を見てニヤニヤと笑っている。女の怖がる様を見たくて連れてきたのだろう。趣味が悪い。


「ねえ、もう帰ろうよ。こんなところ楽しくないよ」

「そう? 俺は楽しいけど」

「もう最悪っ! なんなのアンタ?」

「そう怒るなよ。こんな経験、なかなかできないだろ?」

「別にしなくていいし。もう帰ろうよ」


 言い合いながらも男女は進んだ。そうして一階部分をまわったときのことだ。


 カツン。カツン。


 前方から足音が聞こえてきた。さっきまで騒がしかった虫の音もピタリと止んでいる。


「な、なに? ま、まさか……!」

「へ、変なこと言うなよ。ただの人間に決まってるだろう……!」


 カツン。カツン。


 足音は少しずつ大きくなっていく。そして足音が止んだとき、男女の前には白装束の女が立っていた。


 不意に白装束の女が両手を掲げた。その手に握られているのは玉串だ。


「ひぃっ! 除霊師だ!」

「だから言ったじゃない! 早く帰ろうって!」


 なおも騒ぎ立てる男女の霊。しかし、その声もやがて薄れていく。そして、最後には跡形もなく消え去った。除霊されたのだ。


 この廃墟は除霊師の女が修行場所として使っている場所だった。それがどういうわけか、霊たちの間で除霊スポットとして有名になっているのだ。スリルを求めてやってくる若者の霊を、除霊師の女は今週だけで三度除霊をしている。


「除霊スポットで肝試しか。人間の愚かさは死んでも変わらないのね」

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