現代ドラマなのにLV1の冒険者が誕生してしまったある夜の物語
@aqualord
第1話
真夜中だった。
かすかな物音で私は目を覚ました。
庭の方から聞こえてくる、何かがうごめいているような物音。
寝ぼけた私は、はじめ、得体の知れない、現世の向こうから来た何者かだろうか、と詩的な想像をしてみた。
むろん、布団から出たくなかったからである。
残念ながら、私の期待とは裏腹に、私がやくたいもない想像をすることで与えた猶予期間を使い果たしたにもかかわらず、その物音はまだ続いていた。
仕方がない。
私はむくりと起き上がり、灯りをスマホに頼って手近に何か獲物がないかと探してみた。
厚手の雑誌が目に入ったので服の中に仕込む。即席防弾チョッキのつもりだが、紙すら撃ち抜けないような拳銃などあるのだろか。
さらに探すと、筒状のものが目に入った。これはと思ったが、勤め先の会社に出入りしていた業者がくれた猫のカレンダーだった。
バットはないのかバットは。
買った記憶もないものを探しても仕方ないので、キッチンに行ってフライパンを装備する。
竹アーマと木刀装備のレベル1冒険者よりはまだマシだと自分を慰めながらいよいよ庭へ。
そこは満月の世界だった。
明るい月光が庭の桜に降り注いでいる。
満開まであと1日ほどの桜は降り注ぐ月光に妖しく輝き、それこそ異界からの来訪者を迎えるに相応しい姿態をさらしている。
私は物音のことを忘れ、その姿にしばし見とれてしまった。
物音の主も動きを止めている。
こちらの方は、おそらく私の姿に警戒したのだろう。
私は、庭に近づくにつれてよく聞こえるようになった物音から、おそらく猫であると察した物音の主に声をかけた。
「ありがとう。お前のおかげでこんな桜の姿を見ることが出来たよ。」
答えは「ふーっ」という威嚇の声であった。
見ると、月光のもと、怪しく直立して私を威嚇するアライグマの凶暴な姿があった。
次の瞬間、レベル1の冒険者の戦いが始まった。
現代ドラマなのにLV1の冒険者が誕生してしまったある夜の物語 @aqualord
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