真夜中

影神

ノック



トントントン。




俺はノックが嫌いだ。



ノックされるのが、ムカつく。




あの音が。



嫌だ。




トントントントン。




トントントン。




時計の針はいつの間にか0時を越し、



目覚ましの頭の数字は2の数を示していた。



「あーあ、、



またやっちまった。」




仕事を転々とし。



嫌な事から逃げ続けた。




低賃金。



人間関係の歪んだモラハラの絶えない職場から。




俺は、逃げ続けてた。




面接官1「長く続かないね?」



面接官2「よく辞めるね?」



面接官3「続けられそうかい?」




「何様だよ。ボケ。」




ただの紙きれ一枚。



されど、紙きれ。




まるで。



人生はそれしか無かったかの様に。



横並びの文字で俺は判断される。




たまたま恵まれていただけの。



何の苦労もしてなさそうな奴等は。



それを見ては、偉そうに。



自分の自慢話をし始める。




偉そうな奴等「私の頃なんて、、」




誰かの下で働くという事が。



社会でやっていくという事が。




こうした形で表れる。




「はあ。



飯も食ってねえし、風呂も入ってねえ。」



嫌な音で目は覚め。



冷蔵庫を開けるも、何も入っていない。




「仕方ねえ、、」



鍵を取り、近くのコンビニへと足を運ぶ。



「ったく、何だったんだ?」




辺りを見回すも。



誰かが居る訳でも無かった。




買い物をして。



風呂に入り。



飯を食う。



歯磨きをして、アラームを確認し。




再び眠りに入る。




僅かな休息。




眠っている時が。



一番、、幸せだ。




だがそれも。



長くは続かない。




軽快なメロディーで。



大嫌いな朝が始まる。




職場で言われた嫌な言葉が。



あの顔や、居ずらさが。 




俺をサボらせようと。



吐き気と共に記憶を見せてくる。




「いや。。



まだ、大丈夫だ。」



そう自分に言い聞かせ。



着替えて支度をし。



家を出る。




「行ってきます。」



誰も居ない部屋。



鍵を閉めて横を向いた時。



誰かが通った。




俺は、軽く会釈をした。



女性だった。




下は満室だが。



上に住んでいるのは、俺だけだったはず。




後ろを振り向こうとするも。



時計を見て、急いだ。




職場は歩いて15分ぐらい。



車は無い。




買うのも。



メンテナンスするのにも。



金が掛かる。




みっともない。



どうしようもない俺。




従兄弟や兄弟は、結婚し。



子供も居れば、自分の家もある。




俺にあるのは、給料日にしか2桁にならない通帳と。



この長年使っている携帯だけ。




趣味も無ければ、やりたい事も無い。




だから。続けられないのか、、?




そんな考えを持ちながらも。



今日も頑張って出社する。




ラジオ体操に、無駄な経営理念の暗唱。



掃除が終わると、ようやく仕事に入る。




「はあ、、。」



家に着く頃には周りは真っ暗で。



扉を開けて、靴を脱ぎ。



倒れる様にして、天井を見上げる。




「あぁ、、」



そのまま瞼がゆっくりと閉じる。




トントントントン。




トントントン。




「うるせぇ、、」



嫌な音。



再び騒音で目覚める。




玄関へと行き。



扉を勢い良く開ける。



勿論周りには誰も居ない。




「ったく、何なんだよ」



ゆっくりと扉を閉めようとした時。



トントントントン。




トントントン。



再びそれは、鳴った。




俺は、寒気がして。



鳥肌が立っているのが分かった。




トントントントン。




トントントン。




音が鳴っていたのは、俺の真後ろだった。



その方向には、ベランダがある。




渇いた喉に。空の唾を呑み込む。



ゆっくり振り向くと。




適当に買った薄いカーテンからは。



髪の長い女性が。




こっちを向いて。



頭を揺らしながらノックをしていた。




トントントントン。




トントントン。























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

真夜中 影神 @kagegami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ