第47話 ホテル
「プッ! アンタなんでアフロみたいになってんの!?」
エリカと再開した時に最初に言われた言葉がこれだ。後ろではリディアが下を向いて震えている。
「はぁ? アフロになんてなってないよな?」
ギャグ漫画じゃあるまいしそんなことなるわけないだろうと思いながらソフィアの方を向いて質問するとソフィアは顔を逸らした。
「し、知りません。話しかけないでください」
と怒っているのに笑った顔を見せたくないのか声を震わせながらそう言った。
まさか本当にアフロになってんのか!?
俺は近くにあった鏡で自分の姿を確認した。するとそこには黒焦げになりながらもくるくると渦巻いている自分の髪の毛があった。
「ま、マジじゃん」
ショックのあまりその場に座り込んでしまう。
もう一度鏡を見てもアフロのままだ。だがもう一回見てみるとリックの元の顔がいいせいか。少し似合っている気がしてきた。
……流石リックの顔面。ちょっとキメ顔でもしてみるか?
そう思って鏡の前でキメ顔をするとすごいアンバランスな感じになった。
額から上はコミカルなのに額から下はイケメンというふうな感じになっていた。
「なにしてるのよ?」
エリカが近くまで来たのでちょうどいいと思いキメ顔のまま振り返る。
「いや、何もしてないかな。ところでお嬢さんはもうご飯を終わらせたのかい?」
キリッと最後に効果音がつきそうなくらいキメ顔でそう言うとエリカは笑い転げた。
「フハハハハ! リックやめなさい! その頭でそんな顔しないで!」
おっ、意外とウケがいいぞ。……俺の方を必死で見ないようにしているリディアさんにもやってみるか。
「リディアさん。俺の顔みてくれないか?」
「や、やめろ。今私の近くにこないでくれ」
リディアがさらに下を向くのでこっちもなんか意地が出てきた。
「リディア、悲しい事を言わないでくれ。僕達友達だろ?」
顔を覗き込んでそう言うと目があった。目があうとリディアは後ろを向き肩を震わせた。
「あ、ああ。そ、そうだから。今はまってくれ」
震え声だな。あと一押しだな。
「リディア。君は人と話す時に顔も見れないのかい?」
と言って限界までキメ顔をする。真面目なリディアのことだ。絶対に振り向くだろう。
「……それもそうだな。分かった。ふぅ………ぷははは! その顔はやめないか! 反則だぞ!」
深呼吸をして振り向いたけど1秒ももたなかったな。これでミッションクリアだ。
あとはソフィアだけだな。
「ソフィア。何故僕の方を見てくれないんだい」
そう言ってソフィアに近寄るとソフィアはこちらの顔を見ずに少しずつ後ずさっていく。
「わ、私がリックさんに怒っているからです」
「怒りは悲しみしか生まないよ。僕を見てくれ」
そう言うとチラッとこっちを見てソフィアはぷっ、と吹き出してすぐに顔を逸らした。
そして、少しずつ後ろに下がっていたこともありソフィアは壁にぶつかった。
俺はソフィアに壁ドンをして顎を持って無理やり向き合う形にする。
「ソフィア。許してくれないだろうか」
今度はキメ顔プラス悲しげな顔だ。そしてそれを見たソフィアは笑い出した。
「ぷははははっ! 分かりましたからその顔やめてください! 許します!」
と言ってくれたので壁ドンを止めようとしたその時俺の頭に拳骨が落ちた。
「バカモノ! ここで何をやっている!」
「いて!?」
マーリンだ。……もしかして今ならマーリンにも通じるんじゃないか?
「マーリンすまなかった。だが僕も悪気があったわけじゃないんだ。許してくれないかい?」
そう悲しげな表情と反省してますという表情を織り交ぜて言った。
「ぷっ、……貴様私をマーリン呼びとは偉くなったな。ついてこい。説教してやる」
マーリンは一瞬吹き出した後にすぐに真面目な顔になり俺の首根っこを掴んだ。
クソ! 後少しだったのに!
そして俺がマーリンにボコボコにされたのは言うまでもない。
「クソー、絶対行けると思ったのになー……」
俺はカインに愚痴を吐く。
説教されて時間も経ち夜になって、全員合流したと言うことで俺達はホテルに泊まっている。俺とカインは同じ部屋になった。ヒーデリックは先輩の部屋と同じになったらしい。お疲れ様だ。
「ははは、どこからその自信はでてきたのさ」
と苦笑いをしながら答えてくれた。
「だってリディアさん、ああ生徒会長な。リディアさんも笑わせたんだぜ?」
そう言うとカインは少し驚いた様な顔をした。
「凄いね、もう生徒会長と仲良くなったんだね。僕も見習わなきゃなぁ」
お前のヒロインなんじゃい。と言いかけた口をなんとか止めて話題を変えることにした。
「そういえば明日が選抜戦の開会式だよな?」
俺の問いにカインは頷いた。
「そうだね、そして明日の開会式が終わると3日間に渡って僕達は他校の生徒と戦うことになるね」
それは一応ゲームで知っている。
「でも俺らって3日間毎日出番があるわけじゃないよな?」
「そうだね。まあ僕達は一年生だから出場する種目も少ないけどね」
そうだよな。一応おさらいのためになんの種目に出るか聞いとくか。
「俺らが出場する可能性がある種目ってなんなんだ?」
「僕らがでる可能性があるのはまずは初日の魔法を使える棒倒し。そして次の日の魔物、モンスターを使った障害物競争。同じ日にある妨害アリの玉入れ。
そして最終日にある3年生とペアを組んでのトーナメント戦。
まあこれは3年生の人がペアを決めるから僕達1年が選ばれる事はないと思うよ」
まあ簡単に言うと棒倒しと障害物競争と玉入れに決闘か。
「ありがとな。にしてもどの競技も出たくねぇ」
俺がそう言うとカインは不思議そうな顔をした。
「だって俺が平民ってバレたら全員俺を狙ってくるだろ?」
大会に出てるやつは貴族ばかりだ。そんな中平民がいる事を知れば平民を集中的に狙われるだろう。
「大丈夫だよ! だってリックだもん!」
と笑顔で言ってくるお前の信頼が怖いぜ。
そんな時コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。
「ん? 誰だろう?」
「出てみるか」
俺がドアを開けると立っていたのは荷物を持ったヒーデリックだった。
「どうしたんだ?」
俺がそう言うとヒーデリックは申し訳ない表情を浮かべた。
「先輩とソリが合わなくてね。追い出されてしまってどうするか悩んでいてね」
ああ、そう言うことか。
「なら俺らの部屋にこいよ。カインもいいよな?」
俺は後ろを向きカインに確認を取る。
「うん、構わないよ」
と頷いたのでドアを大きく開ける。
「すまない」
「気にすんなよたまたまベッドも3つあるしな! 今日は男3人で朝までトランプでもするか!」
俺がそう言うと2人は笑って頷いた。
「ならば大富豪で勝負だ!」
ヒーデリックみたいな本物の貴族でも大富豪とかするのかよ。
「ふっふっふっ、僕強いよ?」
カインが笑顔でそう言うという事はよほど運に自信があるのだろう。
「上等だ! 貴族様に下剋上を見せてやるぜ!」
そうして俺達の長い様で短い夜はすぎていくのだった。
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