第44話 親睦会

「はぁ、今日も疲れたー」


 俺は今天を仰いでいる。


「今日の授業は一段とハードだったな」


 隣にはレオンがいて地面に座って肩で息をしている。


「ですがマーリン先生のお陰で私達は確実に強くなっていますよ」


 リンは修道服を着たまま息を切らす事なくちょこんと座っていた。

 修道服着てからタフになってね?


「それはそうだけど、選抜戦の代表が決まってからはさらに激しくなってないか?」


 マーリンの性格上代表になった俺にハードな課題を出すのは理解できるが、俺以外のクラスメイトも俺と同じかそれ以上に扱かれていた。


「……マーリン先生は来年の選抜戦のメンバーを俺達Dクラスだけにしようとしているらしい」


「うん、そう言ってたね」


 そう言うことか。それで全員扱きまくってるのか。

 俺はこの場で唯一立っているマーリンの姿を見た。


「よーしお前ら今日の授業はこれで終わりだ。帰ってからゆっくり休むように……それとリックはアタシに着いてこい」


 やっと帰れると思ったのに……一体なんのようだ? 逆らえないし大人しく着いていくか。


「んじゃ行ってくる」


「おう」


「はい」


 俺は2人にヒラヒラと手を振りその場を後にした。


「これからどこにいくんですか?」


 俺はマーリン歩きながら質問した。


「選抜戦で一緒に戦うメンバーとの顔合わせだ」


 あー、そう言うことか。嫌だなぁ。絶対喧嘩売られるよ。


「我慢しろ。アタシだって面倒なんだ」


 俺の顔を見ずにマーリンはそう言った。こいつ読心術でも持ってんのかよ。

 ん? それよりアタシもってどう言うことだ?


「マーリン先生も出席するんですか?」


「ああ、アタシはお前の担任だから出席しろと言われた。だがまあ悪いことばかりではない。親睦会の意味も込めているらしいから料理や酒もでるみたいだぞ」


 酒という言葉を聞いて少し前のことが頭をよぎる。こいつ酒癖悪いんだよなぁ。


「酒は飲まないでくださいね」


「安心しろ、アタシも教師の端くれさ」


 そう言ってキリッとした表情をするが信頼できない。

 むしろその表情の裏でどんな酒を飲むか考えているんじゃないかとさえ思ってしまう。

 すると頭に衝撃がはしった。


「いてっ!?」


「次変な事考えたら拳骨だからな。……着いたようだぞ」


 いやもう殴ってるじゃん。なんて思っているとどうやら着いたようだ。ここは魔法実験室か? 

 一度入ったことはあるが広いがパーティーをできるような場所ではなかったと思う。


「入るぞ」


 ガラガラっと扉を開けた瞬間全員の視線がこっちに向いた。

 

 それと教室の中は前きた時とは違い床にはマットが引かれてあり丸いテーブルが10個置かれていた。

 そしてその上には豪華な料理が並んでいた。部屋の隅にはメイド服や執事服をきた人も居る。

 割と本格的なパーティーのようだ。


 マーリンは全員からの視線を気にせずずかずかと入っていってしまった。


 ざわざわとあれが賢者のマーリン様か……とか魔力の量がすごいな……なんて声が聞こえてくる。

 それにみんな尊敬の眼差しを向けている。


「し、失礼しまーす」


 俺もそう言って部屋に入るが俺も全員から見られた。しかもマーリンの時とは違う目でだ。


 アイツが平民の……とかあんな雑魚じゃあいない方がマシと聞こえてくる。

 それにしても酷い言われようだ……


「リック! ご飯食べなよ!」


 俺がショックを受けているとカインが俺に声をかけてくれた。

 カインの居るテーブルを見るとカインにヒーデリック、エリカとソフィアの姿があった。


「おぉ! カイン!」


 俺は逃げるようにカインの居るテーブルへと向かった。


「助かったー」


 俺がテーブルに着くと多少はこっちを見てくる奴も少なくなった。


「あんな奴らのいうこと気にすることないよ」


 とカインが言ってくれた。


「そうさ。君は強い。それはここに居る全員が知っていることだ」


 ヒーデリックがそういうと他のみんなは頷いてくれた。


「ありがとな……」


 そう感謝しつつもソワソワする。目の前にある高級そうな料理とこのいかにも貴族っていう感じの食事で落ち着けない。……ご飯食べてみたいな。


「ん? どうしたのよソワソワしちゃって」


 エリカに気づかれてしまった。……目の前に高級料理が並んでいるから食べてみたいと言ったら幻滅されそうだ。周りのテーブルを見ても飲んだり食べたりしている奴はいないし。……いや1人いたわ。マーリンだけは食べまくっている。


「い、いや。なんでもないですよ?」


「なんで敬語なのよ……」


 しまった動揺してしまった。

 するとソフィアがニヤッとした表情をした。


「もしかしてご飯食べたいんですか?」


 うっ、気づかれた。いや、落ち着け。まだしらを切り通せる。


「い、いやー? 別にそんなことないぞ? これくらいの料理食べまくってるしな。うん、むしろ食べ過ぎて飽きたって言うか。こういう貴族の食事っていうの? 俺呼ばれまくっちゃってるからね。別に雰囲気でちょっと気後れしたとかじゃないぞ」


 ……なんとか誤魔化せたか? ここまで言えば大丈夫だろう。


「いや、むしろそれは認めちゃってるよ」


 と言ってカインはやれやれと言った表情で肩をすくめた。


「なんでだよ! なら見てろ! メイドさんに注文してやるよ!」


「注文って……飲食店じゃないんだぞ?」


 ヒーデリックも呆れたようにそう言った。

 構うもんか。ここまで来たら最後までやってやる。


「すみませーん!」


 俺は片手を上げてメイドさんを呼ぶ。

 他のテーブルからは笑い声が聞こえてくるが知るもんか。


「くっ、ふふ。居酒屋じゃないんですよ」


 ソフィアは吹くのを我慢しているみたいだ。


「は、はい。なんでしょうか?」


 メイドさんは困り顔で俺のところまでやってきた。

 

「えー、えーと。……このワインみたいなやつください!」

 

 隣でカインが飲んでいた紫色の飲み物に指を指し注文する。


「の、ノンアルコールですが大丈夫ですか?」


「未成年ですので!」


「かしこまりました!」


 そう言ってメイドさんはそそくさとこの場を離れていった。


「ほ、ほらみろ。俺にも注文できただろ」


 自分で言ってても震え声なのが分かるくらい声が震えている。


「泣いてもいいのよ」


 エリカがあまり見せない優しい笑顔でそう言った。


「うわーん、エリカママぁ!」


 と言ってエリカに抱きつこうとすると笑いが起こった。


「ママはやめなさいよね!」


 俺たちのテーブルで唯一エリカだけは顔を真っ赤にしている。



「おい、平民! 場を弁えろ! そしてお前の様な平民は今すぐここから去れ!」


 声のした方を向くと性格の悪そうな顔をした男が後ろに4人の生徒を引き連れて立っていた。

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