第27話 解放

 ちゅんちゅんと小鳥の囀りが聞こえてくる。


「……いい朝だ」


 朝日が眩い。気持ちのいい朝だ。……俺が眠っていたベッドがゴミじゃなかったらの話だけどな。


 あの後結局捕まってしまい、身包みを剥がされかけた。


 それはなんとか阻止したがこのざまだ。


 ……みんなが泊まっているであろう宿屋に戻るか。




 あれから道迷いながらなんとか宿屋まで来ることができた。時刻は10時だ。


 宿に入ると受付にマーリンにヒーデリック、ソフィアの3人がいた。


「リック、今までどこに……いやいい。今日は自由にしておけ、明日学園に戻る」


 マーリンがこちらに気づいたようで話しかけてきた。

 マーリンの顔色は悪い。多分二日酔いだ。


 てか今までどこにって昨日のこと忘れているのかよ。

 右手が出そうになるがなんとか理性で抑える。


「では、解散」


 そう言ってマーリンフラフラと2階へと上がっていた。

 ……魔法の面では頼りになるが、それ以外だとダメ女感がでてるな。


「では、僕も一度家に帰るとするよ」


 ヒーデリックは家へと帰るみたいだ。


「家、近いのか?」


「ああ、明日の朝にはここへ戻ってくる。しばらく家に帰れていないから家の様子が気になってね、リックも来るかい?」


 家に来るよう誘ってくれるが、出会った頃のヒーデリックを考えるとおそらく家族は平民を見下しているだろう。


「いや、今回はやめとくよ。また今度誘ってくれ」


「そうか、残念だ。じゃあそろそろ出発するよ。それじゃあね」


 俺とソフィアに手を振りながらヒーデリックは宿屋の外へと出て行った。


 残されたのは俺とソフィアだけだ。


「ご飯でも食べますか?」


 言われてみれば腹が空いた。昨日走り回って結局ほとんど食べれなかったしな。


「そうだな」


 俺とソフィアは宿屋を後にするのだった。




「……昨日はあれから大丈夫でした?」


 2人で歩いているとそんな事を聞いてきた。


 ……覚えていると言う事は、まさか!


「お前酔ってなかったのか!?」


「ええ、アルコールが入ってないんです。当たり前じゃないですか?」


 当然の事かのようにソフィアは言った。お前と一緒にいたヤツはアルコールなしで酔ってたけどな。


「って事はあれわざとかよ」


 その場で項垂れる。

 どうせええ、面白そうだったのでとか言うんだろ。


「ええ、面白そうだったので」


 ほら言った。こいつのことを聖女って呼び出したヤツ誰だよ。悪魔だろ。


「……失礼なこと考えてると、またお仕置きしますよ」


 圧を感じさせる笑顔で恐ろしいことを言い始めた。


「ソフィアサンハイイヒトダナーって考えてました」


「片言なのが気になりますが今回は許しましょう。それと、」


 ソフィアが急に立ち止まった。


「どした?」


 するといきなり俺の首に手を回し出した。


「こんなところでなにを!?」


 ソフィアの顔が近くにある。ヤバイ、ドキドキしてきた。

 落ち着け、クールになれ。相手は悪魔だ。人の皮を被った悪魔だ。


 さらにソフィアの顔が近くなる。


「動かないでくださいね」


 も、もしかしてキ、キスされるのか!?


「お、おう」


 き、キスってどうやるんだ。チューでいいんだよな?  

 ………よし、俺も男だ覚悟を決めてチューするぞ。


 目を閉じて覚悟を決める。


「チュー……」


 あれそろそろソフィアの口に当たるはずなんだけどな。


 目を開けると少し離れた位置にソフィアが居た。俺の首輪を持って。


「なにしようとしてるんですか? 私はただ首輪を取っただけですけど」


 ニヤニヤと笑いながらソフィアは言う。


「あ、え。そりゃあ、あれだ! 俺とソフィアじゃ身長差があるだろ? だからそれを埋める為にだな」


「へーー、何か別のことを期待してるのかと思いました」


 馬鹿にしたよう目をしている。……ちょっと、待て。首輪外したのか?


 俺は確認する為に首を触る。首輪がない。


「って事は俺は自由だー!」


 両手を上げて喜ぶ。通行人の人達がこっちを向くが関係ない。これで晴れて自由の身だ。


「はい、ただし。あの教室で見た事は言わないでくださいね」


「勿論だ! でも、よく信頼してくれたな」


「今回のダンジョン攻略の際にリック君は自分が犠牲になってでも私達を助けようとしてましたからね。

 そんな馬鹿がつくほどのお人好しの人が秘密をバラす事はしないでしょうから」


 それを言われて心が少し痛む。俺が自分を犠牲にできたのは謎の空間で言われた様にこの世界をゲームだと思っていたからだ。


 じゃないとそう簡単に自分を犠牲になんてできるわけがない。


「それで私から一つ提案があるのですがいいですか?」


 なんだ? わざわざこんな事言うなんてよっぽどすごい頼み事なのか?


「いいぜ、内容によるけどな……」


 俺は不安になりながらも答えを返した。


「……その、友達になってくれませんか?」


 ……は? 


 この瞬間俺の中で時間が止まった。そんな事を頼まれるなんて可笑しくて笑ってしまった。


「なんで笑うんですか!」


「ハハハハ、いや悪い悪い。まさかそんな事頼まれると思ってなかったからな。

 じゃあ俺らは今日から主従関係じゃなくて友人関係になるな」


 するとソフィアは驚いた顔をした。


「……嫌がらないんですか?」


「なんで?」


 思わず聞き返してしまう。


「色々酷いことしたじゃないですか。それに私の本当の性格も知ってますし……」


 あーなるほどな。


「確かにムカつくこともあったけど、俺は結構好きだぜ、お前の性格」


 笑ってそう言うと、ソフィアは突然歩き出した。


「あ、おい。急に進むなよ!」


「お腹が空いたんです! 早くご飯に行きましょう!」


 俺は少し早歩きのソフィアを追いかけていくのだった。

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