第23話 時間稼ぎ

「アイススパイク!! ファイアランス!!」


 左に氷を右に炎をクラウンに向けて投げつける。



「効くか!」


 クラウンは俺の魔法を最も容易く弾いてしまう。


「僕がいるのも忘れるな!」


 隙を縫ってヒーデリックが横から攻撃を仕掛ける。


 ヒーデリックは剣でクラウンと打ち合うがクラウンの前に魔力の壁? のようなものがあって攻撃できていない。


「ルシフェル!」


「……フッ!!」


 ルシフェルはヒーデリックの反対から攻撃を仕掛ける。


「チッ!」


 クラウンはルシフェルの攻撃に忌々しそうに舌打ちをした。


 ……俺達の中でダメージを与えられるのはルシフェルだけか。


 一応はルシフェルも隠し召喚獣だ。あまり使えない性能と言ってもそれは3年生時点での強さで言えばだ。

 1年時点で言えば最強クラスだろう。


 おそらく聖剣解放を使った時のエリカよりも強い。


「ルシフェルを援護するぞ!」


「言われなくてもそのつもりだ!」


 ヒーデリックもその事に気づいたようだ。


 俺達がどれだけ長く生き残れるかはルシフェルにかかっていると言っても過言ではない。


「まずは貴様からだ! 召喚獣!」


 クラウンの背後に無数の黒い球が展開される。


 そしてそれらは一斉にルシフェルへ向けて発射された。


「「シールド!!」」


 俺とヒーデリックは即座にルシフェルの前へと立ち防御魔法を展開する。


「グッ……」


 片膝をついてしまう。が後ろのルシフェルは無傷だ。


「おいおいおいおい! 貴様ら正気か? 召喚獣の為に自らを犠牲にするなどと!」


 召喚獣は死ぬことはない。ここで仮に力尽きても精霊界という場所に戻り暫くすると回復するようになっている。


 クラウンがそう言うのも無理はないだろう。だが今だけは違う。


「正気も正気さ、こいつが落ちたら必然的に俺達の負けなんでね」


 そうなのだ。ここで唯一クラウンの動きを止められるルシフェルが消えたら俺達なんて瞬きをする間にやられてしまうだろう。


「だね」


 ヒーデリックも心は折れてないようだ。むしろこの戦力差で笑っている。


「……お前マゾか?」


「何故そこでそんな言葉が出てくる!」


 おお、鋭いツッコミだ。


「冗談だよ」


「貴様こんな時に冗談などと!」


「おい貴様ら俺を前に雑談するなど……死を持って償え!!」


 やはりキレるか。こいつの弱点は目立ちたがり屋すぎる所だ。


 ゲームの中で見ていてもこいつ目立ちたいんだなぁと節々で感じていた。


 ……まあその弱点が分かったところでどうしようもないんだけな。


 そんな事を考えているとクラウンが攻撃してきた。


「シールド! 俺とヒーデリックで奴のヘイトをかう! だからルシフェルはアイツに攻撃されないようヒットアンドアウェイで戦ってくれ!」


 魔法を展開しながらルシフェルに指示を出す。


 ルシフェルは無言で頷くと攻撃に出てくれた。これで少しは時間を稼げるか。


 ルシフェルの光の槍がクラウンを襲う。クラウンはそれを回避する為俺たちへの攻撃を一時中断する。


「ならばそちらを狙うだけだ!」


 クラウンは俺たちを物ともせずルシフェルへと攻撃を向ける。


 まあ、そうくるだろうな。


「おいクラウン! お前そんなに魔王に振り向いて欲しいのかよ?」


 俺は知っている。クラウンの弱点を、それはゲームをしていた俺しか知らない弱点だ。

 クラウンは魔王の事を敬愛している。が、それは今代の魔王ではない。先代の魔王だ。何千年も昔今の魔王の親にあたる存在だ。


 そして魔王に振り向いてもらう為になんでもした。そしてその結果、魔王に笑いかけてもらったピエロの格好を今でもしている。


 多分クラウンの中には目立てば今はもういない魔王が振り向いてくれると言う思いがあるのだろう。

 だから自分より目立つやつは気に食わないし、自分が無視される事に対しても怒る。


「……何故、何故それを知っている」

 

 クラウンの動きが止まる。

 その隙をつきルシフェルが攻撃を仕掛ける。クラウンは防御の構えも一切取らずその一撃をモロに喰らう。

 その一撃でクラウンは壁まで飛ばされ瓦礫の下敷きになっている。


「なんでだろうなぁ? もしかしたら俺には心を読む能力なんかがあったりして」


 瓦礫からゆっくり起き上がりクラウンは目を見開いた。


「ワタクシと僕と俺の魔王様への愛を何故貴様如きが!!」


 瞬間クラウンの姿がぶれた。


 気づいた時には目の前に手があった。


「……ッ!」


 防御も間に合わない。一瞬で壁に叩きつけられる。


「カハッ!!」


 ダメだ意識が飛ぶ。


 が、俺のことなど知ったことかと言わんばかりに蹴りを入れてくる。


「グッ!」


「リック!!」


 遠くでヒーデリックの声が聞こえるがそれどころではない。


「貴様が、貴様如きが魔王様のことを……ッ!」


 ルシフェルが横からクラウンを殴りつけて助けてくれた。そして即座に回復魔法をかけてくれる。


 ルシフェルは支援魔法や攻撃魔法、防御魔法を一切習得しない代わりに回復魔法を習得している。


 それがルシフェルが微妙な性能である1番の理由だが、今回ばかりはそれに感謝だ。


「助かった、ありがとう」


 ルシフェルは頷きクラウンの方を見た。


「ヒーデリック! ここは俺に任せて、マーリンを探してこい!」


 ……もうヘイトは完全に俺向いているだろう。今更ヒーデリックがいてもクラウンは意に返さないだろう。

 なら一緒にマーリンを探してきてもらう方がいい。


「だが!」


「頼む! 少しでも早くマーリンを呼ばなきゃ絶対に勝てない」


「……死ぬなよ!」


 ヒーデリックは出口へと向かう。クラウンもそれを見ているが手を出す気配が一切ない。


「今度は邪魔しないのか?」


 俺はヘラリと笑って余裕を見せる。実際は余裕なんてないけど。


「貴様を殺してから奴らは殺す」


 クラウンからのとんでもない殺気に足がすくみそうになる。


「やれるか?」


 ルシフェルは無言で頷いた。


 俺は自らの頬を叩き気合いを入れる。


「さぁ! 第二ラウンドだ!!」


 

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