第18話 制約と約束
「はぁ、はぁ………ここまでくればもう大丈夫か?」
俺なんとか女子寮から逃げ切ることに成功した。が、体も心もヘトヘトだ。
俺は近くにあったベンチに腰をかけた。
首に付けられた首輪を触りながらこれからどうするか考える。
……あのドS聖女に付き合わされるなんて冗談じゃない。かと言って打開策も思いつかない。どうしよう。
そこである事を思い出した。俺の手にソフィアが手渡してきた布がある。
……これってソフィアの、パンツだよな。
よくよく考えてみれば顔だけで言うと美少女だ。完全な美少女だ。それこそエリカとタメを張れるレベルで。
思わずパンツを握っている手に力が入る。
……本当に嗅いでもバチは当たらないよな。むしろあれだ。ご主人様の匂いを覚える的な意味だ。
うん、本当だぞ? 他意はない。
俺はゆっくりと掴んでいるパンツを広げる。
「……は?」
そこにあったのは俺の想像していたものではなく、ハンカチだった。白のフリフリがついたハンカチだ。
「騙されたぁぁぁぁ!」
俺は頭を抱えて叫ぶ。
残念でした♪と言っているソフィアの姿まで頭に浮かぶ。これは完全に騙された。くそぅ、男の気持ちを弄びやがって。
「ほぅ? 何が騙されたんだ? アタシの命令を無視して授業を放棄した命知らずのリック・ゲインバース」
ギギギと自分でも首が硬くなるのがわかる。声だけでわかるが一応確認しておこう。もしかしたら違う人かもしれない。
しかし俺の願いは無慈悲にも打ち砕かれた。そこに立っていたのはマーリンだ。しかも青筋を立てて仁王立ちしている。
「あ、いやこれには訳が……」
「いいだろう。言い訳ぐらいは聞いてやる。ただし……しょうもない理由だったら覚悟しておけよ」
……あっ! ここで先生に助けを求めたらいいじゃないか。仮にもマーリンは賢者だ。奴隷の首輪の外し方くらい知っているだろう。
「マーリン先生、実は……」
「リックくーん」
俺がマーリンに助けを求めようとすると後ろから声をかけられた。
相手はソフィアだ。
「貴様は確か聖女だったか?」
「はい、名前はソフィア・フィールと申します」
いつの間に……どういうかなんでここが分かったんだ?
「そうか。それでソフィア貴様がリックになんのようだ?」
「はい、今日のお昼休みから私を介抱してくれていた、お礼がしたくて……」
こいつまさか俺が助けを求めるのが分かって……
「介抱? 何があった?」
「実は魔道具置き場の近くで私とリック君がぶつかってしまって……打ちどころが悪かったのか私が気絶していたのですが、目が覚めてからも責任を感じて今日一日介抱してくれていたんです」
「そうだったのか」
俺は違う! と言おうとするがこちらを向いたソフィアがだまれと声に出すことなく口の形だけで命令してきた。
「ならば許そう、ただし次からはきちんと報告をしろ」
そう言うとマーリンは歩き去ってしまった。
「さて、早速バラそうとした事への罰を与えます。と言いたいところですが、女子寮から無事脱出したご褒美と言うことで無しにしてあげます」
「……なんでここが分かったんだ?」
そう聞くとソフィアは首に手を当てた。
「それですよ。首輪の力です。奴隷の位置が魔力を通して主人に伝わるシステムがあるんですよ」
と言う事は最初から俺が逃げ切っていたのは分かっていたのか。
「いつからいたんだ?」
……もし俺の持っていた布をパンツと思っていたことがバレたら恥ずかしすぎる。
「んー、ベンチに腰をかけたあたりですかね。ハンカチをパンツだと思って広げた時の顔、面白かったですよ」
「ガッデム!」
俺は膝から崩れ落ちた。恥ずかしい……もう一生お婿に行けない……
「それで私がここへきた理由ですが、お分かりですね」
それはわかる。バラさないように言い聞かせに来たのだろう。
俺の表情を読み取ってソフィアが口を開いた。
「察しがいいのは楽ですね。助かります。ではまずは私の秘密をバラさない事。次に私に危害を加えない事。最後に私の命令にはすぐ言う事を聞く事。以上です」
特に変わったところはないがもうすでに首輪に命令が刷り込まれているだろう。
「明日からが楽しみです。それでは私は帰りますね」
ソフィアは手を振ってから女子寮の方へと戻っていった。
俺も帰ろう。疲れた。
俺は重い足で寮へと帰るのだった。
「ん? あれは……」
寮の前に行くとよく目立つ赤いツインテールの少女がいた。遠目からでもわかる。エリカだ。
「おーい、エリカーどうした?」
エリカが俺の声に気づくとすぐに走ってきた。
「リック! 昼からの授業出ていなかったんですって! 大丈夫だったの? 貴族に嫌がらせを受けていたとかそんなじゃないの?」
どうやらエリカは俺を心配してくれていたらしい。こんな美少女に心配されるなんて嬉しい事だ。
「俺は無事だよ。貴族から何かをされた訳じゃない。ただちょっと色々あってな」
何があったかは首輪のせいで言えない。
「そ、そうだったの。良かったわ」
「おう」
「………」
お互いに沈黙が続く。
なんなんだ? もう用事は済んだんじゃないのか?
もしかして……
「カインに用事か?」
仲直りは自分でしたと前に言っていたが、実はまだ2人で話すのは恥ずかしいとかそんなのか?
「いえ……そのアンタに用事があるのよ」
そう言って、上目遣いで見られた。
なになになに! なんなんだ!? この雰囲気まさか! 告白!?
「あー、そうなのか。なら俺の部屋でも来るか?」
「え、ええ! そうするわ!」
2人で俺の部屋まできたのはいいが気まずい。エリカも何も話さないし、雰囲気的に俺からも話せないし。
「そこで座って待っていてくれ、お茶出すよ」
「そう? ありがとう」
ソワソワと言った様子でエリカは椅子に座った。
俺はそれを見てから紅茶を淹れるのだった。
「素人だから味は期待するなよ」
俺はそう言って紅茶をエリカの前に置いた。
「ありがと」
そう言ってエリカは俺の出した紅茶に口をつけた。
「安い茶葉の割には頑張ってると思うわよ。自信持ってもいいんじゃない?」
そんな感想を頂いた。流石王族だな。茶葉まで分かるのか。
「そうか? ありがとうな。……それで何のようだ?」
俺も紅茶を飲んで一息ついてから質問をする。
するとエリカは顔を赤らめた。なんだマジで告白なのか!? 初めての経験すぎてわからんぞ!
「そ、その……約束覚えてる? 交流試合の……」
あー、なるほど。そう言うことか。危なかったぜ。危うく俺から告白するところだったぜ。
「もちろん覚えてるぞ。勝った方がなんでも一つ命令できるってやつだろ?」
「そうよ、アンタは私に勝ったわ。それで、その。望みは? ア、アンタが希望するなら、な、なんだってやるわよ」
ははぁーん、こいつエロいことされると思ってんな。
……まあそれも魅力的ではあるがそれよりも命だ。スタンピードが起こった時に俺を戦地へ送らないこと。俺の望みはそれだけだ。
それに俺は純愛派だ。体だけの関係とかNGだ。
「別にお前が考えてる事する必要ねぇよ。
ただ、そうだな。エリカへのお願いは近い将来必ず言うよ。だからその時まで待っていてくれないか?」
「え、それって……」
ボフンと一気に顔が赤くなる。
あ? 何を……
「なんか勘違い……」
「帰る!」
ドンっと机を叩きエリカは部屋を出て行ってしまった。
……そういえばソフィアのハンカチどうしよう。
俺は追う事を諦めてその場で現実逃避するのだった。
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