第10話 初戦
俺の勝利宣言にこの場にいる全員が固まった。不可能と思っているのだろう。
だが俺には女神様から貰った力がある。今の、俺の魔力量は普通の貴族よりは多くなっていると思う。
「啖呵を切るのはいいが、いい加減降りてくれないか」
「あっ、すみません。それとありがとうございました!」
頭を下げて謝罪と感謝を伝える。
そういえばなんで俺が空から降ってきたかというと、カインの転移魔法のせいだ。このままじゃ間に合わないってなってカインが魔法を使って送ると言い出したのだ。
ここまではよかったのだが、どうせなら派手に登場しよう! とか言われて気づいたら空に投げ出されていた。
「かまわないさ、だが次から気をつけてくれよ」
「うっす」
流石生徒会長だ。余裕がある。
「それではこれより交流試合を開始する。代表生徒は前へきてくれ」
その言葉を聞いてエリカとヒーデリックともう1人が壇上の方へと歩き始めた。俺も生徒会長と一緒に移動した。
「ではこの紐を引っ張ってくれ」
そう言うと生徒会長は4本の紐を出した。先の部分は生徒会長の手の中にあるのでどうなっているか分からない。
「じゃあ俺はこれで」
1番近くにいた俺が最初に紐を引っ張った。
紐を見ると先端に赤色のインクが塗られていた。
「次は僕が」
続いてはヒーデリックが紐を引っ張った。そしてその結果、俺と同じ赤のインクがついた紐だ。
「では決まったな。一回戦はヒーデリック・リングライトVSリック・ゲインバースだ」
「1回戦が君で嬉しいよ、君程度じゃあ2回戦には上がれないだろうからね」
クジの結果を見たヒーデリックがニヤニヤと笑いながら言った。
「俺も同じ事を言おうと思っていたぜ」
俺も笑い返してやる。
「チッ」
ヒーデリックは舌打ちをして立ち去った。
「ちょっとリック! 空から落ちてきたけど大丈夫だったの!?」
そんなヒーデリックを見送っていると、エリカから声をかけられた。
「あー、悪い。実はあの後そのまま寝ちゃってさ。間に合わないだろうってカインが転移魔法で送ってくれたんだよ」
「カインが転移魔法を……それでなんで空から?」
「いや、どうせなら派手な方がいいって」
その言葉を聞いてエリカは呆れた様子だった。
「……カインも子供っぽいところがあるわよね。それでヒーデリック君にあれだけ啖呵をきって勝算はあるの?」
「まあ、一応な」
女神様からの魔力と昨日覚えた魔法があれば多分勝てるだろう。俺の予想だが勝算は6割くらいだろう。
「そっ。ならいいわ。頑張りなさいよ」
エリカはそっけなく言っているが心配してくれているようだ。顔が少し赤い。
「ありがとな」
俺は感謝を述べてから舞台の端へと移動した。
あれから舞台の上にいた生徒達は観客席へと移動した。
「それではリック・ゲインバース、ヒーデリック・リングライトの両者は前へ」
生徒会長の指示で俺達は向かい合う形で舞台へと昇った。
そこである事に気づく、ヒーデリックの腰に4本もの剣が差してあるのだ。
「リングライト家、次期党首ヒーデリック・リングライトを本気で怒らせた事を後悔させてやる!」
「はぁ? 何処だよそんな家聞いた事ねぇよ。田舎の貴族かよ」
俺はここでも相手を煽る。
ヒーデリックの魔法は分からないからこそ俺は煽る。少しでも冷静さを欠いてくれたら儲け物だ。
「貴様は殺す」
どうやら効きすぎたようだ。でもこれでいい。
「では両者準備はいいな。……始めッ!」
その言葉と共にヒーデリックが動いた。
「『ブレイドソーサラー』と呼ばれた我が美技に酔いしれよ」
そう言って剣を1本だけ抜いて突進してきた。
「いい的だぜ! アイススパイク!」
魔法で作った氷の礫をヒーデリックに向かって放つ。
……魔法名を叫ぶ必要はないが、魔法を使った方が早く魔法を使うことができるから俺は魔法名を叫んでいる。
「甘い!」
そう言うと腰に差さっていた3本の剣が勝手に動き出し、その内の一本がアイススパイクを打ち砕いた。
「なっ!?」
氷を打ち砕いた事にも驚きだが剣を動かす魔法に驚く。
そんな魔法もあるのか。……カッコ良すぎるだろ。絶対に本人は言わんがな!
「これが僕の魔法さ、攻防一体のこの動きに着いて来られるか!」
嫉妬している場合ではない。俺は距離をとりながらアイススパイクを放つ。
「でも近づけなければいいだけだろ?」
「そうだな、それが貴様に出来ればだがな!」
「スパイク! スパイク! スパイク!」
しかし浮いている剣を器用に使って氷の礫を弾いてどんどん進んでくる。
そして気がついた時には俺の目の前に剣があった。
「うおっ!?」
「甘い!」
それをギリギリ回避するが、後ろから迫ってきた剣に左腕を斬られた。
「うっ!」
「呆気なかったな!」
斬られた腕に意識を奪われた。
その少しの隙に剣を振り上げたヒーデリック。
「アイススパイク!」
目の前で、アイススパイクを2つ生成してその2つをぶつけ合う。
ぶつかったカケラが俺とヒーデリックの間で、飛び散った。
「ッ!」
「クッ!」
自分もダメージを受けるが、ヒーデリックと距離を取ることができた。
「先程までの威勢はどうした!」
クソ、言い返す言葉もねぇな。圧倒的に劣勢だ。作戦変更だ。
「ハッ! 言ってろ! アイスボール!」
今度は手のひらサイズの小さな氷の玉をたくさんで展開する。
「数を増やした所でこれくらい!」
連続で氷の玉を射出するが4本の剣を使い氷の玉を割られる。
だが、先程までとは違いヒーデリックも距離を詰めることができないようだ。
「どうした数を増やしたところで関係なかったんじゃなかったのか!?」
「……数を増やして僕を近づけられないようにしたのは認めよう! だが貴様の魔力がいつまで持つかな?」
言われなくてもこんな魔力の使い方をしていれば女神様から貰った魔力を持ってしてもすぐ尽きてしまう。
それから1分くらいずっとアイスボールを撃ち続けた。
……これくらい撃てば十分だろう。
「はぁ、はぁ。お前の言う通り俺の限界も違い、これで決めるぜ、アイスメテオ!」
アイススパイクよりもはるかにでかい氷をヒーデリックに向けて放つ。
「はああああ!」
その氷をヒーデリックは4本の剣を使いなんとかと言った様子で防ぎきった。
「この程度か、ッ!」
ヒーデリックが氷を斬り落とし油断した瞬間に横から懐へと入り込んだ。
「うぉぉぉ!」
「しまっ!?」
ヒーデリックが滑る。
ここまでやった甲斐があった。アイスボールをヒーデリックが斬り続けたことで小さくなった氷の破片がヒーデリックの足元に溜まったのだ。
そのおかげで地面が凍った。これを待っていたんだ。
おそらく浮いている剣は俺に追いつかないだろう。あれは高い集中力があってこそ初めて操れているものだと思う。
「喰らいやがれ!」
右手に魔力を集中させてヒーデリックの顔面を思いっきり殴った。
「ガハッ!?」
「どうだ!」
「クッ、足が、震えて」
俺の一撃にヒーデリックは脳震盪を起こしたようだ。
立ち上がろうとするが、すぐに膝から崩れ落ちる。
「勝者! リック・ゲインバース!!」
生徒会長の声が闘技場に響き渡った。
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