第8話 夢の中での出来事

「ここどこだ?」


 気がついたら変な空間にいた。辺りには何もない。地面もないが何故か体はふよふよと浮かんでいる。


「汝、救いを求めるか?」


 突然女性の声が響き渡った。


 もう一度辺りをキョロキョロと見渡すが人の姿はない。


「アンタは誰なんだ?」


 声を張り上げて質問する。


「我はヴィナス。女神ヴィナスである。もう一度聞くぞ、救いを求めるか?」


 声の主はヴィナス様だったらしい。どうやら裏技は成功したらしい。 


 やったぜ! このイベントで強化できれば死ぬ確率がグッと下がる筈だ!


「ああ、求める!」


「よろしい」


 その言葉の後に視界が白く染まる。光だ。目を覆うばかりの眩い光が上から降り注いできた。


 俺は思わず目を閉じてしまう。


 光が収まり目を開けると長いピンクの髪の美女がいた。スタイルも抜群だ。

 そのあまりの美しすぎる容姿に思わず息を呑んでしまう。


「……女神ちゃん降臨! みたいな?」


「……え?」


 先程までとは違う砕けた口調に戸惑ってしまう。


「汝、我を称えたまえ! ってね。どうどう? 生ヴィナスちゃんをみた感想は?」


 ゲームじゃもっとお堅いイメージだったのに……


「き、きれいです」


 思わず思っていた事をそのまま伝えてしまった。


「でしょー。まっ、当然なんだけどね! 私、愛の女神だし!」


「なんというか、随分砕けてるんですね」


「あっ、やっぱ気になるー? 本当なら最初のお堅い感じで行くんだけど久しぶりに人に会ったからテンション上がちゃってさー」


 つまりこっちが素の状態ということか。


「へー、どれくらい人と会ってなかったんですか?」


「最後に会ったのが1000年くらい前かなー。なんで皆私にお祈りしないんだろ? せっかく超エモい祈り方も考えたのに」


 その祈り方が問題なんだと思う、が声には出さない。ここで不機嫌になられて能力値を上げてもらえないなんて事になったら最悪だ。


「あまり世間に広まっていないからじゃないですか?」


「えっ!? そうなのじゃあ君が広めといてよ。えーと」


 女神様は指をクルクルさせている。俺の名前を知らないからだろう。


「俺の名前はリックです。リック・ゲインバースです」


「リック君! 君をヴィナス様の信者1号に任命します! これから布教活動を頑張るように!」


 ビシッと指をさすヴィナス様。


「いや1号って今までにも信者はいたんじゃ……」


「何年も前だし、死んでるでしょ。という訳でよろしくね」


 ここで断ったら能力値上げてくれないんだろうなー。


「うっす」


 俺は嫌々ながらも女神様のいうことに頷いた。


「よろしい! じゃあ次は私の番ね! リック君は何を望むの?」


 やっと本題に入れるな。


「魔力です! 無限の魔力が欲しいです!」


「オッケー! 無限の魔力だね! じゃあちょっと動かないでね」


 そういうとヴィナス様は俺に近づいてきた。そしてそのまま俺の頭を持ち額にキスをした。


「なっ!?」


 俺は突然の事に気が動転してしまう。額にキスなんて生まれてからされた事ないぞ!


「この者に女神の加護を与え給え」


 すると光が俺を包み込んだ。


 あったかい光だ。


「……力が漲ってくる」


 光が収まると魔力の温かな感覚が大きくなっていた。これで俺は無限の魔力を手に入れたということか。


「あ、あれ?」


 女神様は何か戸惑っている。


「どうかしましたか?」


 俺の質問の後に下を向いたかと思うと、自分の頭を軽く叩いて、舌を出した。


「てへっ、失敗しちゃった」


 どこが失敗なのだろう。魔力は確かに上がっているぞ。


「どこがですか? 力は漲りますよ」


 俺は手を握りながらそう答えた。


「魔力は上がったんだけど、無限じゃないのよね。……失敗の原因は私の力がかなり弱まっているからだと思う」


 嘘だろ! 無限じゃねぇのかよ!

 ……いやこれは魔力が上がっているという事だけでも喜ぶべきだな。


「どうすれば力が戻るんですか?」


「信者が増えることかなぁ、やっぱ神の力の源は人間の神への思いだったり恐れだったりするからねー」


 つまり無限の魔力を得るには信者を増やさなければならないのか。


 ……なんだこのお使いクエスト感。


「って事でリック君が頑張れば私も力を取り戻す! 無限の魔力が欲しかったら信者作り頑張ってね!」


 そこまで言われて視界がぼやけてきた。


「おっ、ちょうど時間みたいだね。ある程度信者を増やしたらまた象の前でお祈りしてね!」


 だめだ、意識が保てない。


「あっ、それと他の……」


 そこで俺の意識は完全に途切れた。





「………ック! リック! 早く起きて!」


「んんん。なんだ?」


 目を開けるととカインがいた。


「やっと起きた! 早く闘技場に行かないと、もうすぐ開会式だよ」


 開会式? なんの事だ? それに……


「なんでカインがここに?」


「いつまで寝ぼけてるのさ! 今日は交流試合でしょ! Dクラスの人が慌ててリックの事を探してたんだよ、それで僕も手伝っていたんだ」


 そうだ昨日俺はずっと魔法の練習をしてて、夢の中で女神様に会ったんだっけ。


「って! 俺、練習場で寝てたのか!?」


 周りを見ると明らかに寮の部屋ではない。なんなら昨日ずっと練習していた場所だ。


「そうだよ! このままじゃせっかくの練習が無駄になるよ! 急ごう!」


「お、おう!」


 俺はカインに連れられ闘技場へと急ぐのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る