丑三つ時は近い…
兎緑夕季
侵入者あらわる!
「るんるんるん♪」
雪子は軽快に口ずさみながら、狭い部屋をスキップしていた。
今日は久しぶりに友人達が集まる。
「盛大におもてなししなきゃね」
逝ってしまった仲間も多いのだ。
だからまだ健在な友の存在は貴重だ。
雪子がここに居着いて約400年。
充実した日々を送っている。
特にこの家は居心地がいい。
程良く朽ちた木の外壁からは湿った匂いが立ち込めている。
周囲を囲む林は夜になるとザワザワとした音色を奏でる。
「本当にいい家だわ。みんなが来たら自慢しちゃおう」
雪子は浮かれていた。
すると、玄関の方で物音がする。
「誰だろう?」
パーティー開始の午前2時にはまだ時間がある。
「やっぱりやめとこうぜ…絶対何か出るって」
「だから来たんだろう。本物の幽霊でも映れば上出来だ」
複数の若い男たちの声が漏れてくる。
スマホをかざして家を見渡している。
侵入者ね…。
雪子から笑みが消えた。
恐ろしい形相で男たちを睨む。
その瞬間、家中がガタガタと振動を立てて、古い家具達が宙を舞った。
「なっなんだ!」
「ひっ!」
起こる異変に男達は真っ青になり、腰を抜かして泣きべそをかく者や失神して倒れる者が続出している。
雪子は彼らを一瞥した。
「いつまでも倒れられていたら困るわ」
雪子は男の背中を強く叩いた。
「ぎゃあっっ!」
体に見えない感触が走り、男はパニックになり、外に飛び出していく。
「待ってくれよ…」
仲間の男達は半泣きになりながら、後に続いていく。
「人の家に勝手に入るからよ」
雪子はすでに姿の見えなくなった男達に悪態をつく。
底が抜けた床にスマホが転がっていた。
雪子は慣れた手付きで拾い上げ、年季の入ったタンスの引き出しにびっしりと積み上げられたスマホの山に放り投げる。
「コレクションも増えたわね」
雪子は微笑んだ。
丑三つ時はもうすぐ。
荒れた空き家で成仏できない幽霊達が集まり、パーティーを行なっているなどとは誰も思わない時間が今日もやってくるのだ…。
丑三つ時は近い… 兎緑夕季 @tomiyuki
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