三姉妹から求婚されているけれど穏便に断りたい

香居

チャイムが鳴った。

 日曜日の午前11時。

 きっと彼女たちなんだろうな……と思いながら、ドアホンのモニターを見た。

 系統の違う美少女が3人。

 やっぱり彼女たちだ。

 居留守を使うことも一瞬考えたけれど、決して近くはない距離を通ってくる健気さを思うと、無下にはできなかった。


 ドアを開けると、三者三様に嬉しそうな顔をした。長女の正子しょうこちゃんは静かに微笑み、次女の真夜まよちゃんは快活に。三女の子夜しやちゃんは一見無表情に見えるけれど、口元が弧を描いている。

 三つ子の彼女たちは、真夜中に産まれたことにちなみ、それぞれの名前がつけられたそうだ。ご両親の博識ぶりを褒め称えるべきか、名づけの仕方を指摘するべきか。身内でもない私に後者の権利があるかどうかは、また別の話だけれど。


 決して広くはない一人暮らし用のリビングに、3人が並んで座った。私はいつものように、ご所望のミルクココアを3人に出した。


「この味ですわ」

「ほんと、毎日飲みたいよね」

「……美味しい……」


 毎回、同じようなことを言われる。彼女たちなりのアプローチなのだろう。

 ひと口、ふた口……と味わうように飲んだ3人は、同じタイミングでマグカップをテーブルに置いた。


真純ますみさん、お会いしとうございました」

「一週間って、長いよね」

「……早く、会いたかった……」


 三者三様の言葉。けれど眼差しは同じで。

 最初の1か月は、不埒な男たちから助けたことに対する恩義だと思っていた。そればかりではないのか……? と思うようになったのは、半年を過ぎた頃。

 彼女たちの眼差しに、憧れ以上のものを感じてしまったから。


「困っている子を助けただけだから」


 と遠回しに断ってみても、


「まぁ……! 謙虚でいらっしゃいますのね」

「そういうスマートなところも、良いよね」

「……す、てき……」


 フィルターが掛かってしまっている彼女たちの目には、私が〝白馬の王子様〟に見えているらしい。

 中学生の彼女たちは、ちょっと息抜きをしたくてSPの人たちを巻いたまでは良かったけれど、まさか変な男に引っかかるとは思わなかった、と言っていた。

 それを助けた相手が積極的に迫ってこなければ、株は上がるだろうとは思う。


 私が男だったら、どの子を選んだとしても逆玉の輿に乗れることは間違いないだろう。

 彼女たちの熱意に絆されるわけにはいかないけれど、歳の離れた妹のようで可愛いとは思う。だからきっと──


「真純さん──」

「それでさ──」

「……あのね……」


 私は来週も、目を輝かせた彼女たちを部屋に入れてしまうのだろう。

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