閑話

浅井夏乃

桜の木

桜の花が咲く少し前、木はピンクに見える。そうあなたが言っても私は「そうかな?」なんて言っていた。あなたは少し寂しそうに笑ってまだ花が咲いていない木の写真を撮った。やっぱりピンク色なんて見えなくて、私は少し自慢げに「ほらね」って言ったけどあなたの見えてる世界が私に見えていないことに胸が詰まった。

少しして桜が咲き始めた。ちょっとおしゃれなお弁当箱に好きなものを詰めて日向ぼっこをしに行った。

「綺麗な桜の下には死体が埋まってるんだって」

あなたを少し怖がらせようとそんなことを言ってみた。あなたはそういう話が得意じゃないのにね。そしたらあなたは「なら幽霊がいるかもね」なんて言い出した。

「幽霊なんて非現実的なものいないよ」

と私がいうと

「昼間だから見えないだけだよ」と笑っていた。

「じゃあ夜になったら見えるの?」

「見えるかもね。でも、夜には来ないことにしよう。いないとわかったらいるかもしれないなんて思えないだろ?だからどっちかわかんないようにしておこう。」

「それ意味あるの?」

「わかんないことをわかった気でいるよりもわからないままにした方がいいかなって思うから」

そのあなたの言葉遣いが素敵で私は夜に桜を見にこなかった。いることにしてみると桜の木の前を通るたびに少し肌寒さを感じた。

葉桜になるとあなたは夏の到来を感じて嬉しそうにしてたね。梅雨があるのにせっかちな人だとよく思ってた。でも、冬でも夏の話をしてたあなたには今更な話だったかな。散った桜を見て悲しそうにしてた私に人生の中で一番のものをくれたときは嬉しかったな。「ありがとう。人生で一番嬉しい。」なんて言ったら「これからもっと嬉しいものがあるかもしれないよ」なんて言ってたね。でもやっぱり思い返してみるとあなたがたくさんくれたどれよりもあの時の指輪が嬉しかったな。

それからずっと一緒にいて、もう1人になっちゃったけどやっぱりここに来る時は寂しくないね。

真昼間に来るようにしてるのはわかんないままにしたいから。だってあなたとお話しするの楽しいんだもの。返事は聞こえてこなくても聴こえることにしてるの。線香の煙がたちのぼって空に消えていく。帰り道の公園でまだ咲いてない桜の木を見つけた。私は少し立ち止まってみた後スキップ気味に帰った。少しピンク色に見えた気がした。


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