冒険の始まりは真夜中に

げこげこ天秤

冒険の始まりは真夜中に

 こんばんは、新しい冒険者さん!! 


 僕は『始まりの精霊』。

 これから、よろしくね。




 ごめんねー、真っ暗で。でも、というのは概して真っ暗なものだから許して欲しい。


 うん。始まりは闇なんだよ。一日が始まる零時は闇の中だろう? 神話なんかでも、宇宙の始まりは闇。だって闇の中から生まれて来たじゃないか。



 やっぱり、始まりというのは闇なんだよ。


 

 でも、怖がることはないよ。君の物語は此処から始まるんだ。君は祝福された。とーっても、光で満ちた物語だ。


 最初は暗中模索かもしれない。

 最初は闇雲かもしれない。


 でも、その一歩一歩が希望になる。

 明けない夜はないんだから。



 ***



 

「え、えぇっと……?」



 ある日、俺は闇の中に放り込まれた。



 それは突然のことであって、前触れもなければ心当たりもない。敢えて言うなら、スマホが伝える23:59の表示に、妙に胸がざわついたことくらいだろうか。まるで古時計が秒針を刻むかのように、心音が鮮明に聞こえて……0:00になった途端にこれだ。


 俺は闇に包まれた。



 しばらくの静寂。



 壊したのは、闇の中から響いてきた音だった。



■■■■■こんばんは



 音? 

 鳴き声? 

 いや、だった。



■■■■■■■■■新しい冒険者さん!!



 日本語ではない。それどころか言葉ですらない。この場に響いているのは、「チューチュー」という啼き声。それなのに意味のある言葉として聞き取れてしまった。



 見れば、目の前にネズミ。

 

 

 ――お前が喋ったのか?



「そう!! 僕はネズミ。『始まりの精霊』さ」


「……」


「? どうしたんだい?」


「いやぁ……。色々、訊きたいことはあるんだが……」


「なんだい? なんでも訊いてよ!!」


「じゃあ……まず……」



 ――なんでネズミ?




 ***




 昔話になっちゃうけどいいかな?


 ずぅーっと昔の話だよ。


 

 ある時、神様が『時間と空間』の役割を十二体の動物に託したいって言い出したんだ。新年の挨拶に来た先着十二体とかだったかな? まぁ、だいたいそんな感じだったと思う。


 そこで、僕が運よく一番乗り。だから、『始まり』が僕の役割になったんだぁ。


 ……と、聞こえはいいかもしれないけど、闇の世界。日の光が当たらない場所だよ、ここは。


 でも、それでいいと思ってる。


 だってそうだろう?



 ――日陰者の僕にはピッタリじゃないか。




 あぁ……。


 ははは、ネコさんね。



 うん。


 ネコさんには悪いことをしたと思ってる。でも、後悔はしてないよ。あの時、ネコさんはどうしても十二体のうちの一匹になりたかったようだけど、僕は直観的に「そうじゃ無い」って思ったんだ。


 『時間と空間』を司る。確かに聞こえはいいよ?


 でもね、裏を返せばに縛られるってことなんだ。しかも、一番になった暁に与えられるのは闇。日陰者の僕にはいいけど、ネコさんは……違うと思ったんだ!!



 ネコさんは自由な存在!!

 何物にも縛られちゃいけない!!


 僕はそう思ったんだ。




 だから、僕は謝る気は無いよ。

 
















 ああ、えっと……。


 ウシさんには申し訳ないことをしたと思ってる。


 




 『丑三つ時』と『丑寅鬼門の方角』で、完全にダークサイドに堕ちたのは、たぶん僕のせいです。


 はい。






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