かうしかない

硝水

第1話

 ぽんぽこりん。ぽこぽこりん。ぽこぽこぽんぽこ、

「あー、もう、うるさい!」

 カーテンを開けて音の主を睨みつける。毎年この時期に行われるたぬき祭りの主役が、眉根を(眉なのかどうかはわからないが)寄せながら窓に貼りついていた。窓も開けてそいつをベランダに振り落としながら、おやつに食べていたジャーキーを投げつける。そして窓を閉めてカーテンも閉めた。ただでさえ熱帯夜なのに、外の空気になんか触れてられない。

 ぽこぽこ。

「足りないっていうの?」

 返事はない。カーテンの隙間からそっと覗くと、たぬきは静かにジャーキーをかじっていた。

「食べたらさっさと行きな」

 たぬき祭りは本当にうるさい。参加しなくてもうるさい。町中に一斉にたぬきが湧いて、食べ物を欲しがる。トリックオアトリートなんて言わないし、あいつらはぽこぽこだけ。それに、何もあげなかったら一生つきまとわれるって噂がある。それだけは嫌だ。そういえばクラスに、去年から不登校でたぬきを飼ってる、らしい子がいたっけ。たぬきは幸運を呼び寄せる、というのが祭りの根底にあるけど、つきまとわれるのは不幸なのかどうなのか。

 ぽんぽこぽこぽこ。

「あー」

 嫌な予感がする。ジャーキーは今さっきあげたので全部だ。一階に降りないと食べ物はない。たぬきに食べ物をあげなかったら、って、何分待ってくれるのかな。

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かうしかない 硝水 @yata3desu

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