第2話
闇の中、身動き一つ出来ずに正座している。
『お前は魔術など使う必要ない、巫女修行のみやっていればいいのです』
『幼学舎なんぞ行く暇があるならば刀を振りなさい』
祖母の声がこだまのように響き何度も繰り返される。耳を塞ぎたいのに指がピクリともしない。
ーー学舎に通いたいの、お祖母様、お許しください、お願いします。
聞き入れられない願いを思って、涙が溢れ出す。
ーー夢かぁ。
コトノハの隣で末の妹のユズリハが水で花を作り、魔術で空中に浮かばせて色を変えたり、水の花の中に気泡を発生させている。
その花をいくつも作っては、空中に浮かべている。
その花をぼんやりと見ていた。
「ユズちゃん、魔術上手になったね」
ユズリハの魔術を見てモヤッとした仄暗いものが心の中に広がる。
「コトノハお姉様、起きんした、今母様を呼んできんす」
心に広がったほの暗いモノから気を逸らすために話題を変える。
「ふふっその言葉使い廓言葉?今はどんな本を読んでいるの?ユズちゃんはほんと直ぐ影響を受けますね」
「今は『フォラミス花街物語』を読んでいんす」
「ユズちゃんカナエ叔母様の本また無断で読んでいるの」
「コトノハお姉様、内緒にしてくださんし」
「フフッ」
ーーユズちゃんその言葉で直ぐバレてしまうのに。
「お姉様の怪我わちきが治せたら良かったのに、いずれ母様みたいにイのイ位1番の薬術士になりんす」
「うん、ユズちゃんなら大丈夫よ頑張ってくださいね」
後頭部がズキンと痛み、顔を顰めた。
ユズリハは苦痛に歪むコトノハを見て、スッと立ち上がって
「今、直ぐにお母様を呼んできんす」
部屋を出てパタパタと駆けて行ってしまった。
「ユズリハ、走ってはダメ」
うわ言のように呟く。
部屋を見渡すと、コトノハの使っている、境内の巫女屋に運ばれたようだった。
しばらくしてユズリハのトコトコと軽い足音と数人の足音が部屋に近づいて来た。
スーっと障子が開いた。
コトノハは首を動かそうとして後頭部が痛み、顔を顰める。
母が障子を開けその後ろに父、長兄、
ユズリハが長兄の前にいた。
ユズリハは長兄の腰の高さくらいしかない。
スっと父が入ってきてコトノハの布団の横に腰を下ろした。
続いて、兄が父の隣りに座り、
母はコトノハを挟んで父の向かいに腰を下ろし、母の膝の上にユズリハがちょこんと座った。
父が口を開いた。
「大事無いか」
「頭の後ろが痛むくらいで他は大丈夫です」
「そうか、イチジョウ、コトノハを起こしてやりなさい」
「はい、父様」
イチジョウはコトノハの肩に腕を回して起き上がらせた。
父が母に目をやると、母は頷きユズリハを脇に座らせて、コトノハの後頭部に手をかざした。
母は手に魔力を集めると母のウサギ耳の毛が逆立って、コトノハのケガを治した。
コトノハのケガがみるみる治って行った。
「母様、もう大丈夫です」
コトノハが母を見る。母は頷いて返した。
兄も父の隣に戻った。
コトノハのケガが治ると父が口を開いた。
「さて、《ウルスス》様の祠のひとつが破壊されてしまった訳だが、」
コトノハが布団を剥ぎ、父に向き直って、正座し、頭を畳につけた。
「良い、頭をあげよ」
父がそれを直ぐに止めた。
コトノハは何も言わず頭を下げたまま首を振った。
「頭をあげなさい」
コトノハはゆっくり頭を上げた
「申し訳ございませんでした」
「よい、代祠に向かった機転さすがだ、コトノハの名を継ぐにふさわしい」
父が懐から耳飾りを出した。
その耳飾りは、《ウルスス》様から《マリティムス》様に贈られたとされる言い伝えのある耳飾りで壊された代祠の地中深くの石室に安置してあったものだ。
その耳飾りに5つの花弁型の窪みがある
花の形になっていて。実際はその窪みに魔石が入っていたはずだが今はない。
宝物庫に1つと本殿に1つ、魔石が安置されていた。
「お前にはこれから、宝物庫に行き青の魔石とオッソ領主城地下にある黄色の魔石、南の山の下のマギナスホールのダンジョンで緑の魔石と水の神殿に行って黒の魔石を取りに行きなさい」
コトノハは、目を見開いた。
「父様、お社にあった赤の魔石は、どうしたのです」
「うむ、今、赤の魔石は奪われたようだ、昨日ここに戻った時にはすでに」
父が眉間に皺を寄せた。
「すまない、、、。」
コトノハは、首を振った。
「いいえ、父様、父様達はオッソ様の代わりに領民の非難をしなければ、まなりませんでしたし、本来ならコトノハが守らねばなりませんでした」
父がコトノハの肩に手を置いた。
「イヤ、お前の選択は間違っていない、ミツバの助言で別動隊が動いたのだろう」
「ミツバお姉ちゃん」
子供のころに遊んだ2つ年上の遠縁のうさ耳族でオッサ公爵家に仕える一族だ。
5年前までミツバたちの《マリティムス》を祀るアマコク家とは良く交流していたが、今は敵対している。
「お前には悪いが、この耳飾りに4つの魔石を集めてもらいたい、五つ目は所在が分かり次第知らせる。
魔石を探し出す為のタリスマンをお前に授ける。
このタリスマンはマリティムス様からウルスス様に渡されたものとされている、このタリスマンが魔石場所を教えてくれるはずだ、大事にせよ」
父がコトノハの首にタリスマンをかけた。
「お預かり致します」
コトノハは頭を畳につけ頭を下げ、頭を上げて父の顔を見た。
長兄のイチジョウが眉間に皺を寄せて俯いた。
「父上、5年前ベアード王がご逝去なされた後、ウル様によって制定された、‟信仰物を国民に見えるようにせよ”というのはこのことを見越してオッサ公爵家の者が、、、。」
「うむ、おそらくな」
眉間に皺を寄せ、難しい顔で父様が腕を組んで考え込んだ。
ズンと空気が重くなった。
ーーどうしよう空気が重い、話題を変えなくっちゃ。
「父様達はこれからどうなさるのですか」
父は険しい顔になっり、ひとつ深い息を吐いた。
「ウルスス神を祀る者、
オッソ公爵家とウルスス神様の御力を納めた5つの魔石のうち1つを失ってしまった。
5つの魔石がこの土地にあり力の均衡を保ち、マギナスホールの暴走を今まで抑えてきたが、もう、この土地は時間をかけてゆっくりと魑魅魍魎の住まう土地になるだろう。
そこで我々は、オッソ領民を連れ、
ユーフォレシア大陸、東端の島に移り住むことになる、オッソ様の読み道理になってしまった。
あの島はオッソ様が別荘として島を10年前に購入なされて入植し、稲作が盛んだと聞く。
お前の好きなコメをみんなで作って、暮らして行くことになるだろう、
オッサの連中もドゥーベア島から出れば、追ってはこないはずだ。
そしてお前には魔石を5つ揃え、その島で《ウルスス》様を再興させて欲しいのだ、わかったな、コトノハ」
コトノハは大きく頷いた。
「わかりました、父様。
魔石を集めるまで、みんなの所に戻りません」
コトノハは決意を固めた。
「コトノハこれよりお前はスヴァルピティア、と名乗りなさい。コトノハと知られてはいけない」
スヴァルピティアは頷いた。
「わかりました、が、名が長いので、スヴァルと名乗ります」
「うむわかった、スヴァルならば、行け」
「はい、父様」
スヴァルは立ちあがり、旅の準備をしに部屋を出た。
障子の向こうから母が父を慰める声がする。
ー母さん名前気に入ってもらえなかったー
ーそんなことないわ、ちゃんと一部使ってもらえたじゃない、良かったわねー
ーー父様は母様の前だと頼りなくなるんだから、これがなければ尊敬出来るのに。
でも、新しい場所でも父と母なら領民を支えながらやっていけるだろう。
その日の夜は慎ましいながらも母様がスヴァルの好きな物を沢山作ってくれて、家族で夕飯を食べた。
部屋に戻ってから腰まであった黒い髪をバッサリと肩まで切り脱色し、薄い桃色にする。
ーー髪の色、明るい色にしてみたかったんだ。こんなに短くしたの初めてだったし、でもこの髪色目立っちゃうかなぁ?・・・。まっいいっか。
耳をロップイヤー種に気合いで真似る。
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