夜行性のおいかけっこ

アほリ

夜行性のおいかけっこ

 真夜中のとある里山の獣道。


 1匹のアナグマが、トコトコと歩いていた。


 「いいねぇ、真夜中は。この静寂。周りに轟く僕の足音。」


 と、アナグマのシベルは独り言いながら周りをキョロキョロと見渡して、延々と歩き続けた。


 「今日は、本当にいい月夜だねぇ。」


 アナグマのシベルは丘の上から、星が煌めく夜空に一際存在光輝く満月を見上げた。


 「もっとその辺ぶらつこうかな?」


 アナグマのシベルはそう言うと、再び獣道を歩き続けた。



 とことことことことことことことこ・・・



 ぽこん。


 「ん?何か蹴飛ばしたような・・・」


 アナグマのシベルは、足元に何か軽いものを蹴飛ばした感触を感じて後ろの足元をみたら何か黒い物が纏わりついている事に気付いた。


 「なんだろう?」


 アナグマのシベルは後ろの足元に纏わりついているものを後ろ足でブンブン振って取ろうとした。



 ぽーん!ぽーん!ぽーん!ぽーん!



 「何か軽く弾む音がする?!」


 アナグマのシベルはクンカクンカと鼻で嗅いでみて、その物体の正体を突き止めようとした。


 「ゴムの匂い・・・?!これは!!?」



 「アナグマさんが、あの黒い風船を持ってるぅーー!!アナグマさんがここにあったを取ったーー!!」


 アナグマの目の前に1匹のテンが立ち塞がった。


 「それ、俺が見つけたのにーー!!俺の風船を返せーーー!!」


 「返せって・・・この風船はお前のものかい?」


 「うーん・・・・・・」


 「うーんって、答えられないなら僕が先に取ったんだから、僕のものじゃん!!」


 「そんな言い掛かりなんだよ!?俺が先に見付けたんだから、俺のものだ!!」


 「やだっ!!」


 アナグマはテンのしつこさに、とっさにその場を逃げた。


 「おいこらまてーっ!この風船は俺のものだぁーーーーい!!」


 テンのニフは、スタコラサッサと逃げるアナグマを追いかけてきた。



 たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!たっ!



 追われるアナグマ、


 追うテン。


 足音を静寂の里山の夜に響かせながら・・・



 「あーーーーーっ!!ふうせんだーー!!」



 今度はノウサギがピョンピョン跳び跳ねて、やって来た。


 「ふうせん!ふうせん!アナグマさん!ふうせんちょうだいっ!!」


 ノウサギはリズミカルな脚並みで躍りながら、アナグマのシベルの足元に絡んだ黒い風船をせがんだ。


 「ねー!ねー!アナグマさーん!アナグマさーん!聞いてる?ふうせんだよ!ふうせん!!ちょうだいっ!!ちょうだいっ!!ちょうだいってばぁ!!」


 「やだーーっ!!」


 ノウサギのネモフィラの笑顔の威圧がうざく感じたアナグマは、思わず考えと真逆の答えをしてしまった。


 「けーーちーー!!」


 ノウサギのネモフィラは更にスピードをあげて必死に逃げるアナグマのシベルを追いかけた。


 「ふうせん!!ふうせん!!ふうせん!!」


 ノウサギのネモフィラの脚のそのステップは、風船欲しさの強い意志が込められたように、激しいリズムをとっていた。




 「風船だー!!風船だー!!」


 「このっ!俺だ!俺があのアナグマの風船を獲るんだ!!」



 

 「げっ!!今度は2匹!?」


 タヌキとキツネがアナグマの足元の風船を獲ろうと、お互いつばぜり合いしながらアナグマに迫ってきた。


 「げっ!!キツネ?!」


 これには、ノウサギのネモフィラはビックリ仰天した。

 天敵のキツネが走りよって来たからだ。


 「ひぇーー!!・・・あれ?」


 キツネは、ノウサギをスルーして行ってしまった。


 キツネのコンテの目には、アナグマのシベルの脚元に絡んでフワフワ浮いてる黒い風船しか見てなかった。


 「アナグマさーん!!『同じ穴の狢』の仲でしょーー!!脚の風船チョウダイよー!!」


 タヌキのポンチは、アナグマとランデブーしてすり寄ってきた。


 「しらんがな。」


 アナグマのシベルはタヌキのポンチの追撃を交わして、更にスピードをあげて逃走した。



 ひゅん・・・



 「こ、今度は何だ?」



 ひゅん・・・!!



 「ふうせん!!」



 ひゅん・・・



 「ふうせんちょ!!」



 ひゅん・・・



 「ふうせんちょうだいーー!!」



 「げぇっ!!ムササビが飛び交ってるだとーー!!」


 ムササビのムーチョが木から木へと飛び交って、アナグマのシベルの脚元の黒い風船を取ろうとしていたのだ。



 ひゅん・・・



 「取れないっ!!」



 ひゅん・・・



 「惜しいっ!!もういっちょ!!」



 「んもぉーー!!何から何まで僕の脚の風船を!!

 くっそぉーー!!何らかの拍子でこの黒い風船が取れないかなあ?」

 

 

 ぶわさっ!!



 「な、なんだぁ!!俺の頭上を音もなく?!」



 「風船ほしぃー!!ほっほーー!!」


 「ふ・・・フクロウぉーーー!?」


 今度はフクロウのホォタが飛んできて、アナグマの黒い風船を掠め取ろうとしてきた。


 それには、さすがのアナグマも仰天した。


 「ひぇぇーーーーー!!」


 アナグマのシベルは慌てて猛ダッシュで、真夜中の獣道を駆け抜けた。


 「ふぅ・・・ここまで来て一安心・・・って?!うわーーーっ?!」


 アナグマが仰天するのは無理も無かった。


 右にカモシカ。


 左にニホンジカ。


 各々挟み込むようにランデブーしてきた。


 「風船ちょうだいっ!!」


 「風船くれぇーー!!」


 カモシカのノッチとニホンジカのクガイは、アナグマのシベルよりひとまわり図体の大きい身体にすり寄ってきた。


 「うわっ?!うわぁーーー!!」


 アナグマは思わず悲鳴をあげた。


 「くれよーー!!」


 「ちょーーだい!!」


 顔を近づけて威圧してくるカモシカのノッチとニホンジカのクガイにどうする事も出来ずに、アナグマのシベルは悔し顔になった。



 ドドドドドドドドドドドドドドドド・・・



 「?!」



 ドドドドドドドドドドドドドドドド・・・



 「イノシシだーー!!」



 突如、向こうから猪突猛進の如く猛スピードをあげてイノシシが、他の動物達を押し退けてやってきたのだ。


 「ぶふーーーーっ!ぶふーーーーっ!ぷぎーー!!ふうせーーーん!!

 この風船をおいらがぷーーっともっと大きく膨らませたろうか?!」


 イノシシのブータローの強力なぶふーーーーっ!という鼻息が、アナグマのシベル脚に絡み付くフワフワと浮いてる黒い風船を揺らした。


 「そんなことしなくていよーーー!!」


 アナグマのシベルは、フワフワと揺れ動く黒い風船の紐を追撃してくるイノシシのブータローが何度も食らいついてくるのを振り払おうと必死に蛇行した。


 だが、


 「つーかまえたっ!!」


 「えーーーっ?!」


 イノシシのブータローは、黒い風船の紐にまんまと食らいついてしまったのだ。


 「分かったよ!!君にその風船をあげるから!!」


 真夜中じゅう逃走し続けてアナグマのシベルはもうヘトヘトになり、はあはあと荒い息をして歩調がフラフラになっていた。


 「もーらった!!よーし!!風船の吹き口コミほどいてぷーーっと口でパンパン膨らませ・・・」


 「おーーーーい!!その風船!!おいらの爪で割らせろーーー!!」



 がつーーーん!!



 「ぷぎーー!!」


 突然、獣道の向こうからツキノワグマがノッシノッシと現れて、イノシシのブータローと激突した。



 どすん!!



 「がっ!いてっ!!」


 アナグマのシベルは脚に風船が絡んだままイノシシのブータローに風船の紐を掴まれたので、影響をくらって拍子で転倒した。


 「うわーーっ!!いきなり停まるなーー!!」


 アナグマのシベルの風船を追いかけていた動物達は、次々と玉突き衝突して獣道で転がった。


 「風船割らせろーーー!!」


 「ぷぎーー!!この風船おいらが大きく膨らますんだーい!!」


 イノシシのブータローとツキノワグマのゴンタロウは、風船を脚に絡み付いたままのアナグマのシベルを引き摺って、黒い風船を巡って格闘した。


 「がおーー!!」「ぷぎーー!!」


 黒い風船は、煽りに煽られて何度とイノシシのブータローの牙とツキノワグマのゴンタロウの鋭い爪を掠めた。


 「このままじゃ、あの風船割れちゃう!!」


 アナグマのシベルは体制を整えようと、ムクッと起き上がると脚元を見た。


 「風船の紐が取れてる?!」


 

 「あーーーーーっ!!」


 「しまったーーーーー!!」



 黒い風船は、空高く真夜中の夜空へ飛んでいってしまった。


 「風船飛んじゃったね・・・」


 「あーあ・・・」


 「がっかり・・・」


 動物達は夜空を見上げてため息をついた。


 「あ、今日は満月だ。」


 タヌキのポンチもは見事な満月を指差した。


 「気付かなかった。綺麗だな・・・」


 テンのニフは神々しい満月の光に感嘆した。


 今までアナグマのシベルの風船を追いかけていた動物達は、丘の上に集まって真夜中の夜空を優しく照らす満月に見とれていた。


 そしてアナグマのシベルも。


 「いい月夜だねぇ。」


 満月の光の中に、皆が追いかけていたあの黒い風船のシルエットが横切って飛んでいった。


 里山の真夜中に起きたある騒動の一幕。




 ~夜行性のおいかけっこ~


 ~fin~




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夜行性のおいかけっこ アほリ @ahori1970

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