昨晩のできごと
ぽんぽこ@書籍発売中!!
真夜中のひみつ
「お腹空いた……」
現在時刻は午後の11時。
私以外の家族はすでに布団に入り、夢の世界を楽しんでいる頃。
リビングにあるパソコンの前で私は、ボソッと空腹を宣言した。
「分かってる。こんな時間に夜食なんて食べたら、明日の朝に絶対後悔するってことぐらいは……」
何を食べても無敵な若かりし時代は、とっくの昔に過ぎ去っている。
老いた胃に負担をかけて明日の活動に支障をきたしてしまうなんて、いい大人としてやってはいけないことだ。
「だがしかし。脳が甘味を所望しておるのだ。このままでは傑作を生みだすことは叶わぬのじゃ……」
ボソボソと言い訳を垂らしながら、ひざ掛けを椅子の背もたれに預け、キッチンへと向かう。
「コンポタ、ホットミルク……この辺りならまだ平気かな? うーん、迷うなぁ」
戸棚を開けて物色する私の頭には、すでに“何も食べない”という考えは微塵も残っていない。
「あっ、買っておいたカップラーメンが賞味期限切れちゃってるじゃん!」
棚の端っこに、非常用に買っておいたオーソドックスなシーフード麺がチョコンと置いてあった。
しかし発見したは良いものの、いつの間にか期限切れになってしまっていたではないか。
「……廃棄するのは勿体ないし、ここは私が一肌脱ぐしかないよね。仕方ない、これは仕方がないのだよ……」
ぺりり、とビニールを剥がし、静か~にヤカンに水を入れコンロへ。
ヤカンが鳴って家族を起こさないように、湯口のキャップを解放したまま耳を澄ませる。
沸騰した瞬間を見極めるためだ。
そうして沸騰したお湯を手に入れ、いざカップ麺の中へ。
「……よし。できた」
ほかほかと湯気の立つカップラーメンは、賞味期限が切れているとは思えない美味しそうな匂いをさせている。
「ふふふ、いただきまーす」
気分はまるで潜入ミッションである。
口煩い家族にバレてしまわないように、慎重に麺を口へと運ぶ。
「(あぁ、美味しい……)」
シーフードの旨味が詰まったスープと、食べ慣れた麺の食感が執筆で疲れきった私の心を癒す。
ひとたび味わってしまえば、もう箸は止まらない。
スープはやめておけ、それだけはやめておけと必死で止める脳内の天使はすでにスープの海に消えた。
気付けば私は満足した顔で背もたれに寄り掛かり、食後の余韻に浸るように天井をぼうっと眺めていた。
もちろん、一滴残さず完食である。
「あ~、美味しかった。これでまた執筆も頑張れるね……」
エネルギーチャージは完璧。
あとはもう、バリバリと執筆に取り掛かるだけだ。
私は椅子にもたれかかった状態のまま、続きのシナリオを考えながら重たくなった目蓋をゆっくりと閉じていった。
――そして翌日。
怒鳴り散らす母の説教を、私は寝違えた首を擦りながら聞く羽目になりましたとさ☆
昨晩のできごと ぽんぽこ@書籍発売中!! @tanuki_no_hara
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます