真夜中
もと
丑三つ時がいいな。
だってこういう事はカタチから入った方がいいと思うの。
どうせ化けて出るなら丑三つ時、いや待って丑三つ時っていつ? 一時か二時ぐらい? まあいいか、真夜中ならダイジョブっしょ。
どうせなら白い着物を左前合わせで、右だっけ? まあ適当でいいや、頭に三角のアレも付けちゃおっかな。
「うらめしや!」
……あんま可愛くない。止めよう。
白は譲れないよね、白がいい、死んでる感あるし。
あ、ウェディングドレスとかイイんじゃない?
いつか大人になったら何もしなくても勝手に着れる物だと思ってたんだけどな。
後は小物とか、ティアラ、ヴェール、ブーケ、あと、なんとなく白い手袋。
出来た。
死ぬって便利だね。こんなに高そうなドレスも想像するだけで着れちゃう。
メイクもキレイに出来た。真っ赤なリップもイイけど、なんか違ったからピンクにした。
「うらめしや」
なんか他にセリフ無いのかな? もうちょい聞いてくれば良かったかも。ウェディングドレスにウラメシヤは似合わない、まあ黙ってればいいか。
よし、行こう。
今日は私が死んでから四十八日目らしい。なんか知らないけど明日には自由にウロウロ出来なくなるんだって。
ずっとパパとママの所にいたけど、もう最終日なんだって。
だったら、行こう。
生きてるうちに言えなかった好きを伝えに、言えないけど分かってくれるって信じてる。もし書く物とかあったら書いちゃおう。
中学からずっと好きだった一学年上の先輩。むっちゃくちゃ勉強とか頑張って高校まで追いかけたのに、同じ部活の後輩で終わっちゃった。
終わらせたくない、ちょっとぐらい覚えてて欲しい……いや、それはウソ、もう死んでるからイイよね、本性丸出しで。
私をココロに超刻み付けておいて欲しい、一生忘れないぐらいに、すっごい可愛い子が死んじゃったって一生引きずって欲しい。
先輩の所へ瞬間移動。これも死んで知った便利機能。どこでも行けちゃう。
わあ、先輩寝てんじゃん、超ウケる。寝顔カワイイ。
「……うらめし」
あ、先輩って呼べないんだった。
ん? 太った?
いや、違うわ。
布団の中に女がいる。
黒髪の頭だけ少し見えてる。
ああ、なるほど、そうだよね、大学生だし、女の一人や二人……。
「うらめしや!」
あ、間違えた、喋っちゃった。
「え?! なに?! なんだよ?!」
「キャー!」
「う、うらめ」
「おい、大丈夫か?! 気絶してんじゃん?! なんだよお前?! 幽霊か?!」
「う、うし」
「ウシ? 人間だろ?! 幽霊だろ?!」
「うめ」
「ウシ、ウメ?! な、なんだよ、呪いか?!」
「うう、やら、やらしめ?」
「ヤラシメ?! 何スゲー怖い!」
「ううう? しめらし、しらめし?」
「こ、こわ……」
先輩も気絶しちゃった。鼻血出てる、大丈夫かな?
全裸じゃんマジウケる、二人とも何も着てない。私はオシャレして来たのにな。
そっかあ、そうだったんだ。
あの、好きでした先輩、さよなら。
「どうした少女、何を嘆き悲しんでいる? 罪でも犯したのかな?」
「……うらめしや?」
「おやおや、もう四十九日になるというのに。そんなに思いを残していたら
「……うら」
「なるほど、悲しかったね。忘れろとは言わないが断ち切る為だ、おいで?」
「うら?」
空いてる電柱のてっぺん見つけて泣いてたら、多分死神に拾われた。真っ黒いフードみたいに布かぶってるし、超デッカいカマ持ってる。
電柱とか屋根の上は満員なぐらい他のオバケが座ってるのに、なんで私なんだろ?
「ほら、見てごらん? 聞こえるかな?」
「う、うら?!」
「フフッ、大丈夫だよ」
「……う?」
死神に連れられて来たのは先輩の部屋。
もう二度と見たくなかったのに、気絶から復活して女と何か喋ってる。
「だから、恨め、牛、生め。ヤラシ
「……なに言ってんの? 意味分かんない」
「だからオマエが何か呪われてんだろ?!」
「……どっちかって言ったらウェディングドレスで化けて出て来てんだから呪われてんのはアンタでしょ?」
「なんでだよ?! ぜってー違うし!」
「……意味分かんない」
なんかケンカになってる。超ウケるんですけど。
先輩、あんまイイ
怖い思いさせちゃったのは申し訳ないけど、女の子に全部なすり付けるとか最低。
「どうかな? 少しは気分も晴れただろうか」
「うらめしや!」
「良かった。では、行こうか」
「うらめしや?」
「どこだと思う?」
「うら?!」
ウェディングドレスでお姫様抱っこ。
なんかヤバい、黒いフードの中、超イケてる、クッソイケメン、死神様ヤバくね。
私の為に、なんかこんな事まで、なんかヤバい幸せ、なんか死んで良かったかも。
三日月の真夜中にイケメン死神に略奪されるウェディングドレスの私、これから式挙げちゃいます的な? 溺愛されてるので戻って来いと言われても遅いですわ、もう先輩は要りませんってか?
ヤッバこれ。ファンタジー始まっちゃうじゃん。
「らしらうう」
「お礼は要らないよ。未練が無くなって良かった。これで遠慮なく動けるね」
「うし!」
「しかし、せっかく一生懸命に生きたのに最後の最期で人を脅かすなどという微罪を犯してしまうとは、クダラナイね」
「め?」
「人間とは本当に愚かだ。少し焼かれた後に許されるだろう。虫や動物ぐらいになら生まれ変われると思うよ」
「……め?!」
「生きている人間はクソでも至上だからね。脅かすのも罪だよ。今しばらく、この火の海で罪を償って過ごすといい。先に焼かれているセンパイとは仲良くするんだよ?」
バサバサッとドレスが熱風に揺れて、死神様が遠く……あ、これ私が落ちてるんだ。
マジか。
死んでから会いに行ったりするのって罪だったのか、違う、脅かしちゃったのがダメだったんだっけ……勝手にビックリされただけなのにな。
にしても熱っつい、焼かれてるわ、マジか。
次は虫か動物って?
なんでよ、なんかこう、なんか納得できないんだけど、これが
うーん、まあいいや。
次だ、次。次ガンバろっと。
え? もう出てイイの? 罪を償うって簡単なんだね?
違うの?
もう何よ、誰? どこにいるのよ、どこから喋ってんの?! ちゃんと説明してくれる?! 超ハズいんだけど?!
こっちは死ぬのなんて初めてなんだから!
「どうしました? 何かお困り事でも?」
「……」
今度は真っ白、白い翼まである。
天使?
いや、イケメンだ、油断ならねえ……。
正式タイトル
『三日月の真夜中にイケメン死神に略奪されたウェディングドレスの私、これから式挙げちゃいます! ~と思ったら天使と死神と悪魔の三つ巴戦に巻き込まれて散々な目にあいました!~【○○に溺愛されてるので戻って来いと言われてももう遅いですわ、先輩も○○も要りません】っていつになったら言えますか?!』 おわり。
真夜中 もと @motoguru_maya
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