英雄志望の荒くれ者

虎太郎

第1話

俺の名前は七野一正、17歳の高校生だ。


17歳の高校生といえばどんなイメージを抱くだろうか? あまずっぱい恋愛?部活に打ち込む青春?それとも引きこもりな鬱な日々?人の数だけ色々な人生があるだろう。


でもそんな中でも俺の人生は特殊な部類になるのではないだろうか?


出きることならこんな人生なんか送りたくもなかったのに。




「おい、お前は少し調子に乗りすぎた。その意味が分からんとはいわないよな?」

  

 何台ものヘッドライトが少年を照らしている、そして彼を取り囲むようにいる大勢の男の中から一歩前に歩みでた1人がが少年に声をかけてきた。頬に傷をもつその男は見るからに堅気の仕事に携わるものではないだろう。




「ナァ、コイツのこと覚えてるよな?」




その言葉に一人の人物が連れてこられていた、車イスに乗せられ全身包帯でぐるぐる巻きにされたソイツはとてもじゃないが誰だかの判断なんてつかない。


そのために少年は首を横に降り知らないとジェスチャーをする。


それが気に食わなかったのかバキッという音が響く。声をかけてきたその男は手にしていた木刀を地面に叩きつけて折ってしまっていた。結構立派な木刀だったのに勿体ない。そんな風にぼんやりと少年が考えていると。額に青筋を浮かべた男が大声をあげてくる。




「てめえがぶっ飛ばしてくれたんだろうが‼ コイツはな俺の弟分なんだよ、こいつに手を出すってのは俺らに喧嘩を売ったのと同義ナンだよ分かってんのか? 俺らが誰なのか知らない訳じゃないだろ?」




そんな啖呵を切られても少年には何のことかわからなかった。いや覚えてないわけではなくて、あまりに思い当たる伏が多過ぎてどれのことか判断がつかないのだ。




「……えーと、どちら様で?」




本当に分からなかったので素直に質問してみたのだか、その瞬間に何かがプツンと切れる音が聞こえたような気がする。




「俺達は神田組の者だよ‼ 若いやつの間で持て囃されてるからって調子に乗るんじゃねーよ、俺達に逆らってこの街で静かに暮らせるなんて思うなよ‼ 今さら遅いが覚えて起きやがれ」




その言葉と供に回りを取り囲む男達が一斉に殴りかかってくる、多勢に無勢ただリンチにされるしかないような状況のなかで少年は慌てることも怯むこともなく一歩前に踏み出す。




「そっかそれは知らなかった」




そんな言葉とともに始まった争いは大勢の予想を裏切るものであった。少年に拳が届くかという瞬間、その腕をいつの間にか掴んだ少年に投げ飛ばされる。何人もの蹴りや拳が空を切り逆に少年の反撃により1人がまた1人と倒れて行く。


それを信じられないように見ていたのは号令をあげたあの男であった、少年は確かに鍛え上げられた体をしていたが、それはこの場にいる他の男達も同様である、しかし少年は倒れず回りだけが倒れていく。


その光景に汗を浮かべた男だったが、やはり多勢に無勢、少年は両手を押さえられると後方から鉄パイプをもった男が振りかぶる。頭に直撃するコースだった、思わず男の顔に笑みが浮かぶ。間違いなく死んでしまうだろうが自分達に歯向かう少年が悪いのだ、戦慄していたせいかそれには弱冠の安堵も含まれていた。




だがーーー




「それは流石に痛いから勘弁な」




「なっなに‼」




押さえられていたはずの両手を振りほどきガードをした。それに驚きを隠せなかったが


いくらガードしたところでそれでは腕が使えなくなるだろう、何といっても鉄パイプを降り下ろしたのは仲間内でも力自慢の1人だった。これで自分達の優位は間違えないと確信するが目に飛び込んできたのは更に信じられない光景だった。




「!? 何でお前は腕はどうした」




それは確かに鉄パイプが当たったはずなのに変わらず殴りかかる少年の姿。鉄パイプを持っていた男も殴られて地面に倒れた、その鉄パイプを見ればぶつかったと思われる場所が見事にぐにゃっと曲がっている。




「まあ頭に当たったところで結果は変わらないけど痛いからね、んでどうする? あとはあんただけだけど?」




事態を飲み込めず立ち尽くしていた男はその言葉に慌てて辺りを見渡す、見ればあれだけいたはずの味方は全員倒れ、立っているのは自分のみ。その事実を理解すると同時に恐慌状態に陥り手に持った折れた木刀を滅茶苦茶に振り回している。




「くるな‼ 俺に近づくな‼」




そこに先ほどまでの余裕はなく、その醜態に少年はため息をついてしまっていた。だがある瞬間少年の表情が曇る。


何故ならばひきつった笑みを浮かべた男が胸元から黒い金属を取り出したからだった。




「ひひっ死ね‼」




黒光る金属、拳銃を取り出した男は少年に銃口を向けると迷わずに引き金を引いた。




響き渡る銃声、男がひきつった笑いを浮かべながらも成果を確認しようとするが…




「危ないじゃねぇか‼」




「な、なんで、バケモノか」




殴り飛ばされると何か呟き気を失った。その顔には拳の跡がしっかりと残っており、顔の骨格も変わってしまっていた。










「ちっ思わず思いっきり殴っちまったけど死んでないよな?」




少年は男が再び立ち上がらないのを確認してそんなことを呟いた。恐るべきことにこの人数を相手に少年は一人も致命傷を与えてはいなかった、そこまで至らない骨折などは与えてはいたがその証拠にあたらからはうめき声が聞こえてきておりある意味で地獄ではあったが。




「熱っ たく銃はないだろ銃は、こちとら丸腰だってのに」




そう言って開いた彼の手には火傷と弾丸があった、至近距離で打たれた銃弾を掴みとったのだ、火傷はその摩擦熱によるものだ。




「まさかマジでコレをやることになるとはな…っと誰だ?」




ぼやく途中で人の気配を感じて少年が叫ぶとそこには黒いスーツを着たボディーガードらしき二人を従えた老人が拍手していた。




「銃弾を掴むなどと信じられんな、君はバケモノか何かなのかな?」




「誰だ?というか何者だ?」




その言葉の意味することは先ほどの闘いをこの老人は見ていたということだろう。警戒しながら老人を観察する。




「ほほっそんな警戒しないでくれないかの、ほれこの通りじゃ」




そう言って老人は地面に膝を着くと頭を下げた、土下座である。少年も驚きはしたがそれ以上に反応したのは老人のボディーガードだった何とか顔を挙げさせようとするが老人は頭を下げるのを辞めずに逆にボディーガードを叱りつけている。




「爺さんよ、全く理解出来ないんだがどういうことなんだよ?」




その様子に居たたまれなくなった少年が声をかけると老人は少し顔を挙げると口を開いた。




「そこで延びてる者達は儂の部下じゃ、情けないことじゃがその男はうちの神田組の幹部の1人でな。その馬鹿が勝手にしでかした事とはいえ儂にも責任はある。全員命だけは助けてくれてるようなのでなこうやって赦しを乞うてるというわけじゃ」




その言葉に驚きながらも少年は問い詰める。




「つまりあんたがこの街のボスって奴か、まわりをみるに普段そんなことはしないんだろ? どうしてそんなことをする?」




「…他に手の打ちようがなかったからじゃ、裏から手を回そうともしたがそれすら潰されての、お前さんは一体どんな家系なんじゃ‼」




家族に手を回そうとしたと聞き激昂しそうなった少年だったが一瞬で考えを改めた、老人の声色からとてつもないしっぺ返しを食らったのに築いたからだ。思えば彼の一族はそこらの暴力団より達の悪い連中なのだ、身内なれどあのえげつなさは寒気を覚えるほどだった、弱冠の同情を覚えてしまう。




「そうとうやられたみたいだな、俺としては今後一切俺と俺の回りには干渉しないと誓うなら今回のことは見逃しても良いが?」




「本当か‼ 誓う!何ならその証拠に指を詰めればいいか?」




「やめろ‼ そんなのは望まねぇよ、俺はヤクザとかじゃねえんだよ‼」




少年の言葉に食い付き短刀まで取り出した老人に怒鳴りやめさせる。そしてこれで終わりだというかのように背を向けて歩き始めた。




「良いか? 次はないからな?」




途中立ち止まり一言そう残して…






その後彼の存在は裏の世界で『狂鬼バーサーカー』として畏れられることになる。

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