第14話 ヒーラーを名乗るナニカ

「ま、なんにせよラァムを助けられてよかったよ!……それと、俺だけ逃げようとしてごめんな?」

 そう謝ってもラァムは黙ったまま目を潤ませ、頬も紅潮させながら唇を固く結んで震わせ、ただこちらを見つめ続けていた。

「……」

「……ん? どうした? そんなにじっと見つめて。俺の顔に何かついてるか?」

「ハッ」とした表情を見せてから、ラァムが言う。

「べっ、別になんでもありません」

 レットは自身の頬を擦り、気付いた。

「あっ、顔に返り血がついてたのか」

「あとキモい目と鼻と口もついてますね」

「ひどい!? そんなに顔真っ赤にしながら言う!? 傷つくなぁ……。ってかラァムのほっぺにも返り血ついてるからな!」

「……私の顔が赤いのは返り血のせいだけですから」

「わかったよ。……ところでもっと真っ赤なまま転がってるこの人なんだけど……」

 俺が視線をそちらへ下げると、ラァムもそれを目で追う。

「……ああ」

「できれば俺は殺しとかあまりしたくないんだけど、助けてあげられないかな?」

 そう頼むと、ラァムはすんなりと頷いた。

「わかりました。ここまで実力の差がわかれば、もうこの方も私達を襲うようなこともないでしょう……ヒール」

 癒しの光がアサシンの体を包むと、その傷がある程度まで回復する。

「う、うぅ……」

 それを見た俺は突っ込んだ。

「完全回復じゃないの!?」

 ラァムが表情に陰を落としながら薄く微笑む。

「もう少し、苦しんで貰いましょう……」

「こわい……ってかラァムって、本当に魔法使えたんだな」

「なんですか、私はヒーラーなのですから当然ですよ」

「だって今まで使ったところ見たこと無かったし」

「それは魔法を使うまでもない相手だったからです」

「てっきりヒーラーを名乗る危ない武道家かと思ったよ」

「そんなに正拳突きか回し蹴りが食らいたいですか?」

「いいえ!? 結構です!?」

「そういえばまだ、お仕置きが済んでいない者達が居ましたね……」

 ラァムがそちらへ顔を向けた瞬間「ヒッ!?」と、荒くれ達が短い悲鳴を上げた。

「当然彼らにもヒール()が必要。私のロッドも血を吸いたがっていますし……」

「もうしませェんッ!?」

 そう言うやいなや、荒くれ達はボスであるアサシンを置いて、脱兎のごとく逃げ出す。

「まったく、困った人達ですね……」

「……だな」

 それからラァムはこちらへ向き直り、真剣な眼差しで訊ねた。

「……レット、あなたは一体何者なんですか?」

「んー、難しい質問だな。その辺りは少し複雑で、多少長くなるけどいい?」

「構いません。夕食を食べながら聞きますから」

「そういえばそのためにここへ来たんだったな!? 言われると腹も減ってきた……」

「言われるまで自身の空腹すら忘れているほどのバカでしたか」

「うるさいなぁっ!?」

 この日からイチャつく二人の冒険が、本当の意味で始まる。

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