猫の手借りた結果が御覧の有様

高久高久

借りたからってどうこうなるとは限らない

――何がどうしてこうなった。

 鏡は無いけど、自分が魂が抜けた顔をしているのは解る。

 目の前に広がるのはテーブル。その上にPCとコーヒーのカップがある。尚カップは転がって中身コーヒーをぶちまけて、近くにあったPCを蹂躙らめぇ壊れちゃうぅしていた。

 一体誰がこんな事を――いや、うん。犯人知ってる。あたい知ってる。てか目の前にいる。

 そいつ犯人はテーブルの上で、惨状なぞ知った事か、と身体を舐めまわしてた。


――この惨状が起こる少し前の事。

 俺は「あはは」とかではなく「ひゃははは」とかそんな乾いた笑い声を上げていた。多分死んだ目は白目向いてるし、口だけで顔は笑ってない。鏡ないけど大体わかる。

 いやもうね、笑うしかないよね。笑うしかないんだよ。時計見ると締め切りまで一時間くらいしかないってもんよ。

 で、だ。目の前のPCの画面見て御覧? まぁ綺麗な白よ。

 何をしてるかって? 作品書いてるんですよ。書いてるんですけど、これがまた筆が乗らない。何か気分的にノリが悪い。というかなんかネタとか神とか降りて来ない。何が言いたいかって言うと、全く書けない。書けないでござる。もう何か降りてこいよ神とかネタとか! と頭振ったりしてるけど降りて来ない。奇行に走ったところで時間だけが過ぎていく。それに気づいたのがこの時間だ。いやもっと早く気付け、自分。

 もう諦めるべきか? いや諦めたらそこで試合終了。ギリギリまで諦めたくはない。ギリギリまでっていうかもうギリギリ超えてる気がしないでもないけど、そこに目はむけたくない。現実なんて大嫌いだ。

 そんな奇行に走っている御主人様自分に、飼い猫がすり寄ってくる。ふふふ、心配してくれるのかい天使ちゃん。可愛いだろコイツ。だがオスだ。

 そしてそのまま膝の上に座ってくる我が家の癒し担当。普通に重い。重いんで退いてくれませんか。いやその、腰がね? 腰が色々とアウトなんよっていくら退かしても戻って来るなコイツ!?

 わかってる。わかってるよ。コイツにゃんこは別に御主人自分を心配しているわけではなく、単に自分の物と思ってる座布団を奪いに来ただけだって。畜生なんて野郎だモフってやる! おいおいなんて柔らかい腹だこりゃ柔軟剤使ってるな?

 この柔らかいモフり具合抜群の腹が俺を狂わせる。後その「仕方ないにゃあ」と言いたげな視線ゴミを見るような目があぁ、たまらねぇぜ。狂わされてばっかりだなコイツ


――いかんいかん、危ない危ない。そんなことしてる場合じゃねぇ。残り一時間切ったぞおい。俺の心の某先生だって「諦めたら?」って言ってきたぞ。


 そんな俺を、モフられながら我がぬこがじっと「餌よこせ」と見つめている。その目が俺を狂わせた。いや、元からもう狂っていたのかもしれない。


――よし、いっそのこと君に書いてもらおうかな。


 そんな事を言って俺はぬこを持ち上げ、前あんよをキーボードを叩くように上に載せる。ほら、猫の手も借りたいっていうから。何か打った文字で何か浮かぶかもしれないし?

 まぁそんな事あるわけがない。それに早く気付けばよかったが、そもそもそんな事気付ける正常な思考があれば、こんな奇行には走っていない。

 で、行動すると何かしら結果が出る。この場合起こった事はというと、


ぬこ御主人様餌もくれないクソッタレに触られ嫌がる

嫌がって暴れる

テーブル上に跳び乗るようにして逃げる

着地と同時にカップを倒して転がす

俺氏、慌てて直そうとする

ぬっこ、怒られると思い暴れる

大惨事←今ココ!


――というわけで御覧の有様である。

 尚大惨事を引き起こした下手人にゃんこは、首を傾げて「大丈夫?」という顔をしている。ははは、駄目に決まってるだろこの野郎。

 ふと時計を見ると、タイムリミット締切まで後何十分という所。


――よし、これをネタにしよう。


 何か嫌な挙動を繰り返すPCを尻目に、この下手人にゃんこに後で与えるモフり倒し&腹吸いを考えつつ、無事だったタブレット執筆用ツールを手に取った。

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猫の手借りた結果が御覧の有様 高久高久 @takaku13

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