猫丸

八木寅

第1話

「鍋にはいるものよろしく」


丸井はそう先輩力士の鷹山たかやまから指示を受けた。


尾長おなが部屋という相撲部屋に入門してまだ半年の丸井。

力士になって初めてのおつかい。

どきどきしながらスーパーに向かう。その彼を愛らしい声が呼んだ。


「みゃあ」


なんと、そこには鍋にはいった子猫がいた。


「なんてかわいいんだ」


丸井は鍋ごと子猫を持ちあげ、部屋に運んだ。


「鷹山さん。鍋にはいるかわいいものを手にいれました」

「かわいいもの? てか、その鍋はどうしたの。鍋じゃなくて、鍋の具材がほしいよ」

「わかってますよ。ボクはゆとり世代じゃありませんから」


ほくほくしながら丸井は鍋ぶたを開けた。


「みゃあ」

「ワオ!! ソーキュート!!」


ハワイ出身の鷹山も一瞬で子猫に心をうばわれた。


「うるさいぞ。関取がまだ稽古中だ……こ、こ、子猫ちゅわんだ」


ヤクザ顔の親方もとろけた。


こうして、尾長部屋で猫を飼うことになった。丸井が連れてきたということで、名前は猫丸となった。


猫丸は鍋に丸まりながら、丸井や鷹山がちゃんこを作るのをよく眺めていた。


すくすくと大きく……大きく……でっかくなった。

力士とともに生活していたからか、小学生の相撲大会に出場できるのではないかと思うほどに成長した。


そして、ある日。


「どうかお礼にちゃんこを作らせてください」


猫丸はしゃべった。

驚きながら丸井がうなずくと、猫丸は手際よくあっという間にちゃんこを完成させたのである。


「すごいや。ありがとう」

「なんのこれしき。これからは私に作らせてくれ」


と、いうことで、ちゃんこ番は猫丸となった。


猫の手を借りたおかげで、丸井は以前よりも稽古に専念できるようになった。

尾長部屋も、猫のちゃんこがおいしいと評判になり、後援者が増えてにぎわうようになったのであった。



めでたしめでたし。

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猫丸 八木寅 @mg15

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