京都攻略編⑮~鬼討伐~
私たちは鬼がどれほどの強さなのか確認を行うため、全員で最初の場所へ向かった。
最初、花蓮が相手の強さもわからないのに【1箇所1人】と言い出していたので反対した。
安全のためにと妹を言い含めて、5人で指定された場所に着いて周囲を警戒している。
「私が周囲の警戒をするので、みなさんは待機していてください」
夏美ちゃんが弓を持ったまま、私たちへ休むように言ってきた。
3人はなんの疑問も持たずに雑談を始めてしまう。
(流石に警戒を1人だけに任せるわけにはいかない)
私が夏美ちゃんの背後から声をかけようとしたところ、頭の後ろに目でもあるのか夏美ちゃんが動かないまま声をかけてきた。
「絵蓮さん、どうかしましたか?」
「え!? ええと……一緒に警戒するよ?」
「大丈夫です。休んでください」
「でも……」
後ろにいる私へ顔も向けずに返事をしてくるので、戸惑ってしまう。
休んでいる真央が心配するように近づいてきた。
「先輩、どうかしましたか?」
「夏美ちゃんだけに任せていいの?」
「これが一番確実なんです。一緒に休んでいましょう」
「……いいの?」
私は戸惑いながら夏美ちゃんを見たら、微動だにしていない。
真央がここにいる方が夏美ちゃんの邪魔と言って、私の手を引いてくる。
仕方なく夏美ちゃんから離れて、私は周囲を気にしながら雑談を始めた。
誰かのスマホが震える音が聞こえ、佐々木さんがポケットから取り出す。
「彼から連絡だ。鬼を5体倒した後は、京都府ギルドへ集まれとのことだ」
佐々木さんがスマホをしまっていたら、真央と花蓮が佐々木さんをにらむ。
「また佐々木さんなんですね」
「佐々木さんばかりだ」
なぜか2人から同時に責められている佐々木さんは苦笑いをしながら顔の汗を拭く。
汗をかいて喉が渇いたのか、佐々木さんがペットボトルを取り出そうとしていた。
少し日が暮れてきて、見たことが無い青い光がこの場に漂い始めた。
その光を手に取ろうとしたら、花蓮が笑いながら私を見る。
「お姉ちゃん、それはつかめないよ」
「花蓮はこれを知っているの?」
「【鬼火】って言うんだって」
「おにび……」
鬼火と呼ばれたものは日が暮れると共にどんどん増えてしまう。
ちょっと多すぎと思い始めた頃、夏美ちゃんの一言でこの場の雰囲気が変わる。
「準備!!」
言われた瞬間、3人がそれぞれの武器を持って夏美ちゃんの前まで走る。
私はなにが起こったのか理解ができず、4人へ目を向けるだけしかできない。
花蓮は剣と盾を持ち、佐々木さんは杖を両手で持ったまま動かない。
真央は短剣のようなものを両手に持ち、私へ声をかける。
「先輩! 武器を持って防具を着けてください」
「みんなの防具は?」
「全員もう着けています」
私は注意深く4人の姿を見ても、防具は1つか2つしか着けていない。
真央にいたっては肘当てしか着けていないが、周囲をにらんだまま動いていない。
真央の表情を見て、私は戦慄してしまった。
(嘘でしょ……真央があんな表情をするなんて……)
私が動かないのがわかっているのか、急かすように夏美ちゃんが声を張り上げる。
「絵蓮さん! 早く準備をしてください!」
「ごめん!」
慌てて私が防具を着け始めていたら、再び夏美ちゃんが声を上げる。
「花蓮! 右から!」
花蓮は夏美ちゃんの言葉に答えることなく右へ向かって走り始めた。
それに真央も続き、佐々木さんと夏美ちゃんは武器を構える。
(なにが起こって……)
私の判断が遅れてしまったのか、4人が動き始めると同時に地面がなにかを打ち付けたかのように震える。
揺れがする方向を見たら、すでに花蓮と真央がなにかと戦う音が聞こえてきた。
「花蓮! 金棒上から!」
「わかってる! 真央しゃがんで!」
花蓮が盾で金棒の攻撃を受けたら、真央が腕を登ってモンスターの体を登る。
ようやく私はモンスターの姿が全部見えて、4人は3mほどある大きな赤い鬼と戦っていた。
真央が素早くモンスターの顔に強襲して首へ短剣を突き刺すが、振り払われてしまう。
その隙を突いて金棒が真央へ向けられようとした時、鬼の目に矢が刺さっていた。
「2人は左!! ライトニングボルト!!」
佐々木さんが叫ぶと同時に杖から黄色い雷が放たれる。
鬼が膝を地面に落として動けなくなると、花蓮と真央が同時に首を取りに行った。
難なく鬼の首をはねた2人は地面へ着地する。
まだ動く可能性を考えているのか、夏美ちゃんが鬼の関節へ矢を刺していた。
それから、鬼が黒い煙を上げて消え始める。
「終了です!」
夏美ちゃんの声と同時に3人が警戒を解き、全員でこちらへ戻ってくる。
私は一連の戦闘で立っていることしかできなかった。
それだけ4人の戦いが洗練されており、私が入れる余地を感じない。
(なんなのこの4人は……)
私は目の前で繰り広げられた戦いに目を奪われてしまい、自分の準備がほとんどできていなかった。
4人は戻ってきながら戦いの反省をしている。
「佐々木さん助かりました」
「魔法が効く敵でよかったよ」
「真央さん豪快に飛ばされましたもんね」
笑顔が混じりながら話をしており、先ほどの集団とはかけ離れた印象を持つ。
もう頭に疑問があふれ出ているため、一番聞きやすい真央に話しかける。
「真央、今のはなんなの!?」
「今のって……あれが鬼みたいです」
「そうじゃなくて! 花蓮も普通に真央のこと呼び捨てだし、夏美ちゃんは敵が現れる前にわかっているし、分からないことだらけなんだけど!?」
「えーっと……」
真央は困ったように佐々木さんへ目を向けていた。
私が佐々木さんへ顔を向けたら、佐々木さんは私と真央をにらんでいる。
「2人とも時間がない。そんな話は移動中にしてくれ」
「そうですね」
佐々木さんは相手のことが分かり、二手に分かれても倒せると判断したようだ。
花蓮と佐々木さん、真央と夏美ちゃんの2つに分かれて行動するという。
私は花蓮と一緒に付いてくるように言われた。
場所を確認したら4人が走り出したので、私も置いていかれないように走り出す。
なんとか花蓮に追い付いて、先ほどの説明を求めた。
「ねえ……花蓮……さっきの質問に……答えられる?」
「呼び捨てとかのこと?」
「そう……後、私全速力だから……もう少し……落としてもらえない?」
「だめだよ、急いでいるから。担ぐね」
「え!?」
私は急に花蓮に肩で担がれて、荷物のように扱われてしまう。
文句を言おうとした時、佐々木さんがこちらを向いていた。
「呼び捨ては時間短縮のために、戦っている時だけそうしている」
「短縮ですか?」
「そうだ。戦闘中、コンマ数秒で命に係わる場面で、敬称などを言っている時間などない」
「あなたたちはどんな敵と戦ってきたんですか……」
「……悪魔だ」
普段なら絶対に信じられないが、佐々木さんは真剣に【悪魔】と言っている。
花蓮も身に覚えがあるのか、下唇を噛んでにらみ始めた。
「私は必ずあいつを切ってやるんだ」
「俺はぶん殴る」
私は担がれたまま2人の表情を見て、何も言えなくなる。
2人は鬼と戦っている時以上に、殺意に満ちた表情で行く先を見ていた。
目的地に着いたのか、花蓮は私を地面へ降ろす。
それと同時に鬼火も現れ始めていた。
私は最後に聞きたいことがあり、2人の背中へ声をかける。
「その相手って……黒騎士様?」
2人は同時に立ち止まり、花蓮が私を向く。
柔和な笑顔を見せながら私の問いに答えてくれた。
「違うわ。もっと恐ろしいやつよ」
「もっとって……」
黒騎士様は活躍が全国ニュースにも放送されるほど有名な冒険者。
それ以上に強い人が4人を特訓してくれているということなのだろうか。
私も花蓮や真央に置いていかれたくないため、その人の名前を知りたい。
しかし、立ち止まっていた2人は急に移動中よりも速い速度で走り出す。
(何!? この速さは!?)
私が全速力で走っていたのに、2人にはそれが余裕の速度だったと感じてしまう。
鬼と戦う花蓮は、私と戦った時よりも速くて鋭い剣筋で攻撃を行なっていた。
(嘘でしょ……私に……手加減していたの……)
瞬く間に2体目の鬼を倒した2人は、すぐに次の場所へ移動しようとしている。
私は実力差をはっきりと見せつけられたショックで立ちすくんでしまった。
「お姉ちゃん、行かないの?」
「私……足手まといよね」
「……そうだね。だけど、それでいいの?」
「どういうこと?」
花蓮は両手を広げて、空を見上げる。
私は花蓮のしていることの意味がわからず、その様子をただ見つめてしまった。
「世界は広いの。私たちが考えているよりもずっと……ずっと広いの」
「意味が……」
「黒騎士さんの横で戦いたくないの?」
「え……」
佐々木さんが腕を組んで私たち2人を見守っている。
けっして焦らせることはなく、私の答えを待ってくれていた。
「戦いたい! 私だって、花蓮たちみたい……ううん、それ以上に強くなりたい!」
花蓮は私の答えを聞いて微笑んでくれた。
「なら、今は見ていて。たぶん、それがお姉ちゃんがここにいる理由だと思う」
「……わかったわ」
「じゃあ、担ぐね」
「うう……」
私は担がれたまま次の場所まで連れていかれた。
移動中に街が妙に騒がしいのが聞こえたが、2人はそれを無視して走った。
3体目の鬼を倒してから京都府ギルドへ移動している時に、街中では現れることのないモンスターが走ってくる。
「お姉ちゃんごめん、なんとか着地して」
「え!?」
私は花蓮に放り投げられて、なんとか地面へ降り立つことができた。
花蓮と佐々木さんは現れたモンスターに臆することなく戦い始めている。
こんな光景を見たことがないため、思わず口から言葉があふれてきた。
「京都でなにが起こっているの……」
モンスターと戦いながら移動している時に、突如天へ向かって【5本】の青い光が放たれる。
その方向には身に覚えがあり、鬼を倒した場所から出ているようだった。
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