京都攻略編⑬~京都殲滅戦~

 レべ天がその場に膝から崩れ落ちてしまう。

 ドラゴンも何かを堪えるように動かないので、レべ天へ駆け寄り今の言葉の確認をする。


「レべ天、なにが起こった?」

「陰陽道を持つ人たちが、小さい子を1人残して京都を出ようとしているからもう手伝えないと言われました」

「逃げたのか……」

「……」

 

 レべ天は瞳から光が消えて床へ伏してしまう。

 そして、手をにぎって何度も地面へ打ち付ける。


「どうしてやろうともしないの!? 逃げるなんて!!」


 床を殴るレべ天の手から血が飛び始める。

 俺はこの状況でもなお、なんとかしようとする手段を探していた。


(あの子にも時間を稼いでもらったお礼を言いたかった)


 そのためには、あの【巫女】と呼ばれていた少女と会わなければならない。

 レべ天がこれ以上自分を痛めつけるのを止めながら、心の中で少女に対して謝る。


(ただ、それはもう叶わないかもしれないな……)


 レべ天の手を止めたら、今度はドラゴンが紫電を部屋中へ放ち始めてしまう。

 ドラゴンを止めるために近づこうとしたら、頭の中に声が響いてくる。


『この場所は許せない!! 全部壊すんだ!!』


 ドラゴンはここに連れてこられた恨みを晴らそうと紫電を放っているようだった。

 それを止める資格は俺にはなく、ドラゴンがひたすら部屋で暴れるのを見守ってしまう。


(俺もこの研究所がしてきたことを許すことができない。モンスターに壊されるならその方が良い)


 俺は呆然とドラゴンを見つめるレべ天と、力任せに暴れまわるドラゴンを見てからため息をついてしまう。


【京都攻略】のためにわざわざ静岡から呼んだ仲間にも申し訳なく思ってしまった。


(待てよ……京都攻略方法は1つだけだったか……)


 俺の考えていた京都攻略法は、5箇所に現れる鬼を倒した後、その中心に陰陽道が使える人間に集結してもらい、元凶であるイベントのボスを召喚してもらうつもりだった。


 現れたボスを倒せばイベントは終了して、京都にモンスターが現れない平穏が訪れる。


(ボスを出す条件が5箇所の敵を倒すだけという簡単なイベントと考えていた)


そのボスも陰陽道の影響で弱体化するため、非常に簡単なイベントのはずだった。

しかし、実際に1人でイベントを進行させようと思ったら、5箇所を回るだけで時間切れになってしまう。

 そのため、花蓮さんたちに鬼を倒してもらうため、静岡から京都に集まるように招集をかけてしまった。


 ただ、陰陽道が使える人間が1人しか残っていないとなると、鬼5体とボスだけを倒すという攻略法は使えない。


(基本職でも参加できるから、このイベント自体はゲームの初期から行われていたんだよな……)


 俺は自分の記憶を掘り起こしながら、目の前で暴れるドラゴンを抑え込む。

 部屋を破壊し尽すドラゴンを見ていたら、俺が過去に体験したことが蘇ってきた。


「暴れるな!!」

『嫌だ! ここを壊すんだ!』

「わかってる! だから、今は暴れちゃだめだ!!」

『うるさああああああああい!!』


 ドラゴンは止めようとした俺を振り払い、牙を俺へ向ける。

 俺はこのドラゴンに協力してもらえば、イベント攻略への一歩になることの確信を持つ。

 強い意志を持ってドラゴンの説得を始めた。


「頼む暴れるのは少し待ってくれ」

『なんで!? 私はこの場所が憎いんだ!!』

「俺も一緒に壊す! だから待ってくれ!」

『本当?』

「ああ」


 俺はドラゴンが止まってくれたので、実行するために必要なレべ天の協力を願う。

 地面へ伏せたままになっていたレべ天の手に、ある物をにぎらせた。


「レべ天、俺はこれから京都へ【血の印】を刻む」

「……血の印?」

「このイベントの1回目……まだ誰も上級職になってなかった時期に、陰陽道が使える人間が死んだことや、モンスターによって街が壊されたことをボスモンスターから、血の印を刻んだと言われた」

「え……」

「わからないのか? 陰陽道に頼らなくても、血の印が刻まれたらボスは出る」


 レべ天は俺の言っている意味が分かったのか、握らされた解体用ナイフを見る。

 ナイフを持つレベ天の手が震えて、恐れるように俺へ瞳を向けた。


 血の印というものを刻むためには、陰陽道を使える人間を【1人】だけ残して殺さなければならない。

 また、モンスターが街を破壊する必要があるため、少なからず人々にも被害が出ることが予想される。


 レベ天は俺の考えがわかってしまったのか、金色の瞳に涙を浮かべた。


「けど、それは!!」

「止めるなら今、お前の手で俺を止めろ!!」


 レべ天が震える手で持っているナイフごと、手首を包んで俺の首へ当てる。

 ナイフが俺の皮膚に触れて、血が流れたような感触がした。


「え……」

「俺はこれから人間を殺さなければならない! 止めるなら今しかない!」

「でも……でも……」

「お前は守護神として人類を救うために俺を呼んだんだろ? 俺はこれからその人類の一部をイベント進行のために殺すんだ!! 止められるのはお前しかいない!!」


 レべ天を掴む手から力を抜き、目を閉じて審判を待つ。

 しかし、すぐに床へナイフが落ちる音が聞こえた。


「ゔゔーっ!」


 レべ天がうずくまり、唸りながら床をえぐるように指に力を入れていた。

 爪がはがれ、血が出ても、それ以上に苦痛なことがあるのか止めることはない。

 頭を上げることなく、レべ天が苦悶するように声を上げる。


「私はあなたにこんなことをさせたくありません!!」

「……」

「でも、あなたに動いてもらわないと、もっと大きな犠牲が出るのもわかっているんです!!」

「そうだな」

「なんであなたはそんなに平気そうなんですか!?」


 レべ天は血の滴る手で俺の胸にすがりついてきた。


 目を閉じて、ギルド長へ冒険者とは何かと聞いた時に行なった会話を思い出す。


(戦い続けることが【修羅】になるということなら、俺はその道を突き進むだけだ)


 レべ天を体から離して、自らの道を宣言する。


「俺はこれより修羅となり、眼前に現れるものすべてを倒す」

「本気……なんですね……」


 レべ天には俺の覚悟が心から伝わったのか、力のない目で俺を見た。

 何も言わずに俺を見つめるので、俺はレべ天へイベントを進めるために協力してもらう。


「レべ天、モンスターが街を破壊する事実が必要になる。俺をモンスターにしてくれ」

「……どんなモンスターがいいですか?」


 まだ俺たちの話が終わらなくて苛立っているのか、ドラゴンが部屋の中を荒らし始めていた。

 黒いドラゴンを見て、一緒に暴れるために一番適切なモンスターにしてもらう。


「黒いドラゴンナイトの姿で頼む」

「黒い? 後は何かありますか?」

「この前に富士山で獲得した両手剣をここへ」

「はい……じゅんび……します……」


 言葉の途中からレべ天が泣いてしまい、何を言っているのかわからなかった。


 それでも、俺へ手を向けて白い光が俺の体を包む。

 少し目線が高くなり、足元にはドラゴンナイトから奪った両手剣が置いてある。


「レべ天、ありがとう」

「……」

「モンスターの姿を解除するタイミングとかは後で連絡する」

「……はい」


 レべ天がその場に立ちすくみ、俺のことをうつろな目で見送っていた。

 俺は両手剣を持って、黒いドラゴンへ声をかける。


「準備ができたから、ここを壊そう!」

『姿が変わって凄いね! やっぱりこの方は守護神様なの?』

「そうだよ。一緒に行こう。きみに乗らせてくれるかい?」

『僕に乗るの? いいよ!!』


 俺は黒いドラゴンにまたがり、両手剣を構える。

 床に寝ていた男性のことを忘れていたので、剣の先でレべ天の前に放り投げた。


「レべ天! そこの男性の記憶を1日分消してから、すぐに起こしてくれ!」


 ドラゴンはすべてを壊したくてうずうずしているのか、今にも飛び出しそうだ。

 伝えたいことはすべて言い終わったので、禍々しい鱗を鐙にしてドラゴンと共に部屋を出る。


「行くぞ!!」

『うん!!』


 ドラゴンが扉へ向けて思い切り走り始めたので、両手で持った剣を振り抜いて部屋から出た。

 後ろから男性の断末魔の悲鳴のようなものが聞こえてきたので、レべ天がうまく起こしてくれたことを確認する。


 それから、他のモンスターを解放しながら研究所内を暴れ始めた。

 この通路から見えるのは、隔離されたようなに閉じ込められたモンスターたち。


 薬物実験や、銃の試し撃ちなどで傷付いているモンスターが多い。

 モンスターを引き連れながらドラゴンを走らせていたら、警報のような音が鳴る。


 壁のようなものが通路の両脇から出てきて、モンスターたちをまとめながら進行している道を遮られてしまった。

 後退もできなくなり、ドラゴンが不安そうに俺へ顔を向ける。


『どうするの? 閉じ込められちゃったよ?』


 他のモンスターも閉鎖された空間が怖いのか、絶望するような雰囲気がこの場を支配する。

 俺は通路の構造を見ながらこのようなことになると思っていたので、ドラゴンへ指示を出す。


「上へ飛んでくれ」

『上? 行けないよ?』

「行けるようにするんだよ」

『本当!?』

「任せろ」


 ドラゴンが上へ向かって飛んでくれたので、俺は天井へ向かって剣を突き刺す。

 天井はもろく、俺の剣が突き刺さるのでそのまま振り切る。


(天井を頑丈にしなかったことを悔やむんだな!)


 剣を振り回して、進む道を作り始めた。

 天井を瓦礫に変えて、飛べないモンスターのためにブレイクアタックで片方に寄せる。


「これなら行けるな! ここを出て自由になるぞ!!」


 絶望していたモンスターが一斉に咆哮を上げて瓦礫を駆け上がる。


 研究所内にいたモンスターをすべて解放した。

 天井と研究所を壊しながら博物館へ出た時には、数百の群れとなっていた。


 外に出られて嬉しいのか、ほとんどのモンスターがそれぞれ大きな声で夜の空に向かって叫び始める。

 しかし、俺たちはここで止まってはいられない。


「この街すべてのものを破壊する!! 俺たちの恨みを知らしめるんだ!!」


 俺が京都の街並みに剣を向けて叫んだら、すべてのモンスターが同意するように街へ向けて駆け始める。

 ドラゴンも居ても立ってもいられないのか、走りたくてうずうずしていた。


「俺たちも行こうか!」

『行くよ!!』


 陰陽道のスキルを持っている者がどこにいるのかレべ天へ聞きながら、街の破壊を始める。

 俺たちが街へ入り始めると、人々が悲鳴を上げて逃げ始めた。


 誰も戦おうとせず、我先にモンスターから逃げようとしている。

 ドラゴンは紫電をまとい、走るだけで周囲の物が破壊されていく。

 この研究所の存在を報せて、戦わない人たちにもモンスターの脅威を植え付ける。


『一也さん、陰陽道を使える人たちは京都駅へ向かっているようです』

『わかった』


 レべ天が逃げている目標の向かっている方向を教えてくれたので、ドラゴンへ道を変えさせる。


 言葉を出さずに俺とドラゴンは【騎乗】スキルにより、一心同体の動きができるようになっていた。

 ドラゴンは自由に走れて嬉しいのか、咆哮を上げながら紫電を解き放つ。

 

「さあ、京都を地獄へ変えてやろう!!」

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