仲間の決意⑪~静岡県U-16競技大会開会~
4月末の休日に、俺と花蓮さんは静岡県営の競技場へ来ていた。
競技場の大きさは、野球場が余裕で入る大きさだ。
今日の大会に出るために、ビッグスライムを見てからダンジョンやフィールドへあまり行っていない。
(また、なにかあったら困るし……)
どんなことで迷惑をかけるのかあまりわからなかったため、佐々木さんへ迷惑をかけないように努力していた。
今日はここで、16歳以下のPTが参加できる競技大会が行われる。
前日まで参加を受け付けており、俺は花蓮さんと2人のPTで申請をした。
今は花蓮さんが防具を着けるために控室へ行こうとしていたので、止めようとしている。
「なんで防具を着けちゃだめなの?」
「いらないですよ」
「この大会、倒れたら負けなんだけど……」
「俺が倒れさせません」
俺は花蓮さんの目を見つめて、絶対に防具をつけさせない意思を伝えた。
花蓮さんが諦めたように肩を落として、口を開く。
「わかったわ、武器だけ持って競技場に出ましょう」
「ありがとございます」
俺は男性用の控室へ行き、荷物から盾を2枚取り出した。
(これ以外の武器を持ってきたらおそらく怪我ではすまない)
大会に出ると決まってから、花蓮さんから毎日のように大会でやりすぎないように言われていた。
そのため、俺は盾以外の物を持ってくる選択肢が思いつかない。
(今日はこの盾で大会に優勝する)
盾を取り出しながら、この大会に来ることになった理由を思い出す。
(佐々木さんは今日の大会で優勝さえすれば、合宿ができるように調整してくれると言っていた)
その言葉を信じて、花蓮さんと一緒に大会へ参加している。
控室に荷物を置いて、盾を持って競技場へ向かう。
控室を出る俺を見て、笑うような声が聞こえていた。
「ねえ、きみ。本当にそれで出るの?」
競技場へ向かっている時に、後ろから声をかけられたような気がする。
俺は知り合いの姿が見えないので声を無視する。
俺が歩き続けていると急に肩をつかまれた。
「お前に言っているんだけどな!」
いきなり肩をつかまれたので、反射的に持っていた盾で思い切り振り払ってしまう。
「あ……」
俺が力を抑えようと努力しても、俺に声をかけた人はすでに廊下の壁に叩き付けられている。
「すみません、大丈夫ですか!?」
俺に声をかけたのは俺よりも大きな男性で、銀色の防具を全身に着けていた。
その男性は壁に打ち付けられた後、廊下へ崩れるように倒れてしまう。
慌ててその男性のところへ向かい、死んでいないか確認をする。
(よかった。意識はないけど呼吸している)
死んでいないことに安堵して、俺は周りの人にこの人を救護室へ運ぶように協力を求めた。
「すみません! この人が倒れてしまったので、誰か運ぶのを手伝ってください!」
俺が声を上げながら周りを見ても、悲しいことに誰も人がいない。
仕方がないので俺は身体能力向上を使用して、その人を肩で担いで運ぶことにした。
「よっと……」
肩で担いだら意外に軽く感じ、そのまま救護室へ運んだ。
救護室でなにか聞かれそうになったので、廊下で倒れたので運んであげましたと簡単に説明してからその場を逃げた。
その後に競技場へ向かうと来るのが遅いことを花蓮さんに怒られる。
俺は謝りながら花蓮さんへ今までの出来事を話す。
「人助けをしていたら遅れました」
「人助け?」
「はい、廊下で倒れていた人を救護室へ運びました」
「そうなの……怒ってごめんなさい」
「いいえ、遅くなった俺も悪いので……」
花蓮さんは怒ってごめんと謝ってくれる。
俺と花蓮さんが互いに謝っている時、周りから声が聞こえてきた。
今年、騎士学校に特待生で入学した人が救護室に運ばれたらしい。
その人は今日のために、鋼とミスリルの合金でできた綺麗な銀色の防具を新調したそうだ。
話が聞こえなくなって、花蓮さんは俺へゆっくりと口を開く。
「一也くんが救護室へ運んだ人って何色の防具だったの?」
「銀色ですね」
俺は思い出しながら話して、花蓮さんは眉をひそめながら俺へ聞いてくる。
「さっき救護室に運んだって人は、あなたに何かしたの?」
「そうですね……肩をつかまれました」
「それで?」
「振り払ってしまい、壁に打ちつけてしまいました」
花蓮さんが頭を抱え始めた時、スピーカーから声が聞こえてきた。
「競技大会参加のみなさんは、整列をお願いします」
周りを眺めてみたら、競技場がほぼ埋まるくらい人がいるように見える。
(こんな人数が一斉にたたかうのか?)
数にして千を超える人数がここにいるように感じた。
ある程度並び始め、再度スピーカーから声が聞こえる。
「これより開会式を始めます」
開会式では、静岡県の県知事やなぜかギルド長があいさつをしていた。
(ギルド長って偉いんだ……)
ギルド長は俺の前ではいつも険しい顔をして悩んでいるという印象しかなかったので、このような場であいさつをしている姿は凛々しく見える。
その後、大会のルールの説明が行われた。
受付の時に渡された丸いブザーのようなものを胸につけて、それが地面に近づいたらブザーが鳴って負けになるそうだ。
最後まで立っていた選手のPTが勝者となるらしい。
俺は受け取ったものを控室へ置いてきてしまったため、少し焦り出す。
今回は人数が多いので、最初4つのグループに分けて初戦を行うと言う。
俺と花蓮さんは最後のグループに分けられたため、ブザーを取りに帰れると安堵した。
最後に、この大会で優勝した場合についての説明が始まる。
この大会で優勝すると全国大会へ進むことができる。
また、優勝者はGWに有名な冒険者を指導者として招き、合宿を行うようだ。
そして、そのサポーターとして、去年の解体競技で優勝した人が同行してくれるという。
そこで真央さんが紹介されて、檀上で一礼をしていた。
(だから昨日の夜、あんなメッセージがきたのか……)
前日の夜、真央さんから【明日の大会で優勝しないと恨む】というメッセージが来ていた。
周りの反応を見ても、真央さんのことを知っている人が多少いるような反応をしている。
俺の後ろにいた花蓮さんも、俺へ肩を叩いて真央さんがいることに驚いていた。
真央さんの背後には佐々木さんの姿も見えて、佐々木さんが俺の希望した合宿のために動いてくれたことを察する。
(今日は頑張ろう!)
俺は気合を入れて、大会で優勝することを真央さんへ誓った。
真央さんの紹介の後、開会式を終えるアナウンスがされる。
俺と花蓮さんは控室へ持っていた物を置きに戻ってから、休憩室で作戦会議を行う。
「花蓮さん、今日はひたすら見える範囲の敵へ剣を全力で振るってください」
「それだけでいいの?」
「体力がなくなったら回復しますし、花蓮さんには一切の攻撃を受けさせません」
「言い切るのね……」
花蓮さんはあきれながら笑って、俺へ任せたと言ってくれた。
まだ試合が始まるまで時間があるので、花蓮さんは他の試合を見てくるようだ。
俺は興味がないので、ここで寝ていると伝えた。
すぐに、休憩室の椅子に座って寝る体勢をとる。
花蓮さんのあきれるようなため息を聞きながら、俺の意識は無くなっていった。
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俺が寝たと思ったら、すぐに肩を揺すられて起こされる。
目を開けたら、焦った顔をした花蓮さんが俺の肩をつかんで全力で揺すっていた。
「本当に今まで寝ていたの!? もうすぐ試合だから準備をしてきて!」
「もうそんな時間ですか……」
俺は固くなった体をほぐしながら、花蓮さんの言葉に答える。
「後10分もないから早く行きましょう!」
花蓮さんは強引に俺の手を引っ張って、控室の前まで走った。
控室でブザーを胸につけて、盾を2枚持つ。
控室の前に待っていた花蓮さんは俺の姿を見て、すぐに競技場へ出るように言ってきた。
少しだけ走りながら競技場へ着くと、試合開始まで後3分と電光掲示板に書かれている。
花蓮さんが走って疲れているようなのでヒールを行い、俺は競技場の中央へ歩き出す。
「待ちなさい! どこへいくの!?」
「真ん中ですよ。一番やりやすいです」
何かを言いたそうにしていた花蓮さんは、俺を止めるのを止めて素直に付いてきてくれた。
「あなたに任せるけど、負けたら太田さんが怒るわよ」
「負けないので大丈夫です」
競技場の中央には俺と花蓮さんしかいない。
他の人は競技場の端で試合が始まる瞬間を待っていた。
花蓮さんは緊張しているのか、落ち着きがなく周りを気にしている。
俺は盾を地面に置いて、花蓮さんの剣を持っている両手を包む。
そして、花蓮さんの目を見つめた。
「花蓮さんは剣を振るだけで勝てます。それ以外は俺に任せてください」
「え……わかったわ!」
花蓮さんは俺の言葉を聞いて、力強くうなずいてくれた。
俺は安心して盾を持ち、電光掲示板を見る。
掲示板には残り、10秒とカウントダウンが始まる。
その数字が0になった瞬間、競技場の端にいた人たちが一斉に中央へ向けて走ってきた。
中央には盾を2枚持った俺と、落ち着いて立っている花蓮さんがいる。
この状況を利用するために、俺は花蓮さんに盾へ乗ってもらうことにした。
「花蓮さん、合図をしたらここに足をかけて跳んでもらってもいいですか?」
「? いいけど……」
俺は少し屈んで花蓮さんへ右の盾を差し出す。
花蓮さんは俺の合図を待っている。
周りの人が徐々に近づいてくるので、俺は花蓮さんに合図を出した。
「来てください!」
「!」
花蓮さんは俺の盾に足をかけて、俺は全力でその足を盾で上へ押し出す。
花蓮さんを上空へ逃がして、俺は集まってくる人の波に対して回転しながらシールドバッシュを行った。
人の波が俺を中心として弾けるように飛散する。
あちらこちらでブザーが鳴り続けて、俺は花蓮さんを受け止めるために走り出す。
落ちてきた花蓮さんを受け止めると妙に興奮していた。
「私、こんなに跳んだのは初めてよ!」
「第一波はしのいだので、これからは花蓮さんがお願いします」
「わかったわ! 私に付いてきなさい!」
花蓮さんを俺の腕から下ろすと、興奮したままの花蓮さんは人の壁へ突っ込んでいく。
俺は遅れることなく、あらゆる方向から行われた攻撃から花蓮さんを守り続ける。
30分後の競技場には俺と花蓮さんだけが立っていた。
スピーカーから試合終了の宣言が行われる。
決勝は13時から始めるとアナウンスされた。
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