【書籍化作品】拳王 ~俺はゼロからふたたび現実世界で全ダンジョンの攻略をして地球を救う~

陽和

序章 ~再動の拳士~

プロローグ①〜拳士の終焉〜

ご興味を持っていただきありがとうございます。

第8回ネット小説大賞受賞作になります。

よろしくお願いします。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「波動鳳凰拳!!!!」


 全力で放った一撃が鳳凰となり、【孤独な王のピラミッドの主ファラオ】に当たる。

 断末魔の悲鳴を叫びながらファラオは崩れ落ちた。


 ファラオは、VRMMORPG“ヴァーサス・オンライン”に存在するダンジョンの中で、唯一ソロで挑まなければならない相手だ。


 この主を攻略するのに何人ものプレイヤーが心を折られてこのダンジョンの攻略を断念してきた。


 半年前にゲームのサービス終了が通告されてから、この主を倒すために自分の時間をすべて使ってキャラクターを強くした。


 そして、今ようやく全ダンジョンの主制覇の目標を達成する。


(ああ、ようやく終わらせることができた……)


 ゲームを購入してからろくに学校にも行かず、強制的に社会へ出されてから、この世界ゲームと共に生きてきて、ようやく目標を達成することができた。


 VRのヘッドセットを外した途端、椅子から床へ崩れ落ちてしまう。


「体に力が入らない……」


 そういえば、ここ2週間ほどファラオを倒すことだけを考えていたため、ろくに食事をしていなかったことを思い出す。

 そのせいで体が衰弱してしまっていた。


 必死で周りを見て食べ物を探そうとするが、体がもう動かない。


(でも、目標を達成して未練もないし、ゲームと死ねて本望か……)


 電源を切ったはずのVR装置から音声が聞こえているような気がしても、もう俺には関係ない。


 そう思いながら1度目をつぶってしまい、意識を失っていった。

 意識を失う寸前にまぶたでかすかな光を感じた。



――――――――――――



「はやく起きなさい!!」


 その声と共に眩しい光が俺の目に飛び込んできた。


 カーテンが開けられて、朝日を背にした母親は怒った顔をしている。

 自分は死ねなかったのか?と考えていたら、母親がこちらに近づいてきてさらに怒った。


「休みだからっていつまでも寝ているんじゃないよ! ご飯が冷める前に早く降りてきなさい」


 そう言い放ち、大きな足音をたてながら母親は出ていった。


(なんで母親がいるんだ?)


 俺は高校を卒業してから一人暮らしをしている。

 そのはずなのに、いないはずの母親に起こされたことに頭を悩ます。


 現状に理解が追い付いていない俺は、母親から言われた通りに下へ降りていく。

 俺のいた部屋からリビングまでの構造が実家とそっくりだった。

 リビングも俺が見たことがあるような風景が広がっている。


 俺は自分がなぜここにいるのかわからず、リビングを眺めてしまう。

 リビングの机には朝食が並べられており、テーブルには若くなった父親が新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる。


「早く座って食べなさい」


 母親が俺を確認すると、急かせるように言ってきた。

 母親の言葉を聞いて、慌てて椅子に座る。

 朝食を食べ始めると父親がこちらを向いてきた。


「今日一緒に買い物へ行く予定だろう? 入学祝いをあんなに楽しみにしていたのに寝坊したのか」


 俺は父親から言われたことが理解できず、頭の中で何回も何を聞かれたのか考えてしまう。


(入学祝い? 誰の?)


「えっと……」

「元々、VRなんてそんなに欲しくなかったんじゃないの」


 答えられないでいると、テーブルについた母親が父親へ不満そうに言っている。


(よく見ると母親も若い……今はどんな状況なんだ……)


 ますます訳が分からなくなる前に、部屋へ戻って現状の確認を行いたいと考えた。

 そのために、俺は目の前の朝食をなるべく早く食べる。


 朝食を済ませて部屋に向かう俺へ、母親がテレビを見ながら言葉を放ってきた。


「本当に欲しかったら30分で準備しなさいよ」

「わかったよ」


 俺は母親の言葉に生返事をして、顔を洗うために洗面台へ向かう。

 洗面台の鏡には見たことがある子供が映っていた。


(これは……俺か……?)


 鏡が本物かどうか見極めるように手や体を動かしても、同じように動いてしまう。

 鏡に映っている自分の姿を眺めて、俺は自分の体が小さくなっていることを確認してしまった。


(この状況が分からない……)


 部屋へ戻るためにリビングへ近づくと、テレビからは動物系モンスターが車と衝突して渋滞が起こっていると流れていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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