幸せを運ぶネコ

@takagi1950

第1話 幸せを運ぶネコ

もうかれこれ40年前になります。当時、妻が住んでいた2階建ての文化住宅のとなりの部屋で暮らす女性からネコの“ジョージ”を預かって欲しいと頼まれました。妻と女性は親しかったのですが、私とは、めんしき(顔を合わす)がありませんでした。女性は私がネコを可愛がるか心配して、首実検(たいどを決める試験する)を受けことになりました。

「本当に、ネコ好きですか」

女性は私の目をまっすぐに見て聞いてきました。

「好きでも嫌いでもありません。あまり関心がありません」

私は女性の質問にそっけなく答えました。

「嫌いではないんですね。それでも可愛がってくれますよね」

女性は困った表情で聞き、どんかんな私もその気持ちを察しました。

「ええ、ご安心下さい。いじめたりしませんから安心下さい。可愛がりますから」

「ありがとうございます。よろしくお願い致します。あなたの笑顔がすてきだから信じます」

この言葉とともに、やっと女性から笑顔がこぼれました。

この女性は、私に涙ながらに「流産を三回経験しまして、結婚10年目でやっと、安定期に入ったんです。子供が生まれるとネコが嫉妬(いじわる)することを、恐れて奥さんにネコを託すことにしました」と語り、私は責任を感じました。


それから3ヶ月後、大学を卒業した私と妻は、仙台から東京に引っ越しすることになりましたが、女性はネコとの別れが悲しいと言って、旅行に出ました。それからこの女性との付き合いは無くなりました。

1回だけ年賀状をもらい、子供を中心に家族3人の写真が有り安心しました。妻がネコの近況を報告すると、手紙と一緒にエサがたくさん送られてきました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る