敵役転生 おっぱい聖女と結ばれる、たった一つの冴えた生き方

初音MkIII

伝説の始まり篇

第1話


「んごっ!?」



 突然頭に響く猛烈な痛み。

 いつも通りに夜勤を終え、安らかに眠っていたはずの俺は、あまりにも無慈悲なモーニングコールを食らって目を覚ました。



「いってぇ……なんなんだいきなり」



 ズキズキと痛む頭を押さえ、朝からツイてないなぁと不機嫌になりつつしばらくぼんやりする。まあ、夜勤明けだから朝っつーかもう昼ぐらいだろうけど──。


「あれ、時計がない。スマホ……もない。寝ぼけてベッドの下にでも落としたかな……」


 仕方がないのでのそのそとベッドを脱出し、もはや生活の必需品であるスマホを探してしゃがみ込む。



 ──そんな時だった。


「ん、ノック? え、誰。あれ? ていうかここどこだ!?」


 俺は一人暮らしをしているから鳴るとしたらインターホンだし、そもそもよくよく見ると部屋の様子が全然違う。もはや見飽きたレベルで馴染み深い俺の城とは似ても似つかない、妙に小綺麗でやたら豪華な一室だ。

 とても日本の風景とは思えないし、あるとしたら相当な高級マンションとか豪邸の中なのではなかろうか。


 そんな風に混乱していると、更に聞き覚えのない可愛らしい声が追撃してきた。


「──レジェス様? もう朝ですよ」


「ファッ!?」


 え、マジで誰!?

 当たり前だけど俺は様付けされるような身分じゃないしそもそも名前違うし……いや、待て。今の声、なんだか聞き覚えがあるような……それにレジェスっていう名前も……。



 ──あっ!!



「もしかして、ティロフィア……?」



 いやまさかそんなわけないだろ、と思いつつも頭を過ぎった名前を口に出してみる。



「? はい。レジェス様の忠実なるしもべ、ティロフィアでございますが」


「……オヒョッ、は、入っていいぞ」


「はっ、失礼いたします」


 やっべビックリしすぎて変な鳴き声を発してしまった。


 この瞬間、俺はようやく“思い出した”。



 ここが日本ではなく、ファンタジックな異世界にある魔法学院の学生寮であることを。


 今の俺は冴えない夜勤戦士などではなく、このヴォルケンハイト王国において、王族に次ぐ権力を持つバランドール公爵家の次男坊にして、神の域に達するであろうと謳われる大天才、レジェス・バランドールという少年であることを。


 そして、この世界が前世……うん、たぶん前世において、割といい感じの人気を博したアニメが原作でラノベとしても刊行された作品、「ブラッドフラッド」の舞台であるということを。


「お早うございます、レジェス様。本日も朝食を持って参りました。どうぞお召し上がりください」


「…………」


「レジェス様?」


「ん、ああすまない。少々夢見が悪くてね。ぼーっとしていた」


「左様でございますか……」


 アニメ見てる時も思ったけど、実物を見ると尚更思う。

 ティロフィア、超美人や。あとナイスおっぱい。揉ませろって言ったら揉ませてくれるんだろうか。いや、しないけど。


 とりあえず朝メシを食べつつ状況を整理すると、要するにどうやら俺は知らぬ間に異世界転生を果たしたらしい、ということになる。死んだ自覚は全然ないが、過労死だったのだろうか? まぁそれはいいか。


 今世における俺……つまりレジェス・バランドールという男は、原作においては簡単に言えば最終的に惨めに没落するタイプのライバルキャラだ。

 公爵家の生まれで没落するライバルキャラというあたりで察しがつくかもしれないが、主人公やその仲間たちを嫌い、嫌われる陰謀屋気取りの人物である。


 ただ、前世ではレジェス・バランドールといえば結構な人気キャラだった。というのも、ただ陰湿なだけの男ではなく、全てはメインヒロインにしてレジェスの婚約者でもある少女の幸せを想って行動していたからだ。


 その少女の名は、エルトフレイス・リグ・アーラム。

 ヴォルケンハイトの隣国、アーラム聖国の王女様であり、両国が同盟する際、当時既に天才として有名だった俺の婚約者として渡ってきた。まあ穿った見方をすれば人質みたいなもんだな。

 何せ、アーラム聖国は圧倒的な軍事力を誇るヴォルケンハイト王国とレヴァナシア法国という二つの大国に挟まれた位置に領土を持つ、小さな国だ。どちらかに尻尾を振っておかなければあっという間に攻め滅ぼされかねない。


 そんな祖国を想うエルトフレイスのために、原作のレジェスは様々な汚い手を使ってアーラム聖国とエルトフレイスを裏からこっそりと護り、実はとんでもない力を秘めた彼女を狙う刺客も陰で始末し続けていた。


 ところがどっこい、清廉潔白な当のエルトフレイス本人は物語の中盤でそれを知るとレジェスを見限り、婚約を破棄して原作主人公の元へと走ってしまうのだ。まぁ原作のレジェスって普通に拷問とかするタイプの怖い奴だったしな。

 しかし、ヴォルケンハイト王国にある魔法学院で時を過ごしたにも関わらず王国を捨て、原作主人公と共にエルトフレイスがアーラム聖国に舞い戻ったあの展開は、アニメでもラノベでも結構な顰蹙を買っていたなぁ。そもそも原作主人公が主人公なのに微妙な人気しかなかったし。


 かくいう俺もカップリングはレジェエル推し……つまりはレジェスとエルトフレイスが結ばれて王国で過ごす事を夢見ているし。


「なぁ、ティロフィア。俺は今何年生だったか」


「はい? 卒業を来年に控えた三年生ですが、どうなされました? 今日のレジェス様は少しおかしいです」


「ああ、そうだったか。いや、まだ寝ぼけているようだ」


「もう、しっかりなさってください」


「あっはい」



 なるほど、もう原作開始は間もなくってわけだな。あるいは、既に始まっているか。

 最初は学園モノであるにも関わらず、「ブラッドフラッド」という作品はいきなり三年生から始まるのだ。

 目の前のおっぱい従者ティロフィアが言う通り、魔法学院は三年で卒業だから、せっかく転生というか憑依したにも関わらず、俺はこの一年しか生徒ではいられないって事になる。


 はー、つれえわ。


 だけど、そうだな。

 せっかく転生……憑依……まあ転生でいいか。

 とにかくこの世界にレジェスとして生まれたのだから、原作では叶わなかった夢を叶えてしまうのも悪くは無いだろう。


 つまり、後に“聖女”と謳われるようになるほど清らかで心優しい婚約者と無事に結婚して幸せな家庭を築く。

 それこそが俺の生きる目標だ。


 ただ口で言うのは簡単だが、実現するのは結構難しいんだなこれが。

 何せ、貴族による治世を維持するために平民である原作主人公がエルトフレイスに近付く事を良しとしない、俺がインストールされていない昨日までのレジェスが既にちょこちょこと嫌がらせをしているのを、事もあろうにエルトフレイス本人に目撃されてしまっている。

 そのせいで現時点での好感度が結構低めなんですわ、恐らく。エルトフレイスが原作主人公と接近するのは卒業後だから、そっちはまだ全然余裕があるのが救いか。


 一人の人間としてはそれは正しいし立派なのだが、国の上に立つ王族としては彼女は甘すぎるというのが正直なところである。

 他にも、公爵家に嫁ぐとなればアーラム聖国ではなくヴォルケンハイト王国を優先してものを考えてもらわなきゃ困るし、あまりにも祖国を思いすぎるエルトフレイスの思考パターンを矯正してやる必要もある。


 ただそうなると好感度の低下が不可避だし、下がりすぎると原作よろしく婚約破棄いたしますわーからの祖国へ帰りますわーされちゃうかもしれんしなぁ。

 性格を見ると結構、人の上に立つ者としては失格だったりするんだけど、でも原作で一番可愛いし乳もでかいから好きなんだね。俺は男だからね、仕方ないね。


 その乳で聖女は無理だろって前世でよく言われていたぐらいにはおっぱい聖女なのだ、俺の婚約者は。



「それじゃあティロフィア、今日の授業も頑張ってくるよ」


「はい、行ってらっしゃいませ。レジェス様」


 授業に向かう俺を見送ってくれてるこのティロフィアもおっぱいがでかいし学院の二大巨乳美女として評判なんだが、彼女は俺の世話をするために実家からついてきているだけであって、この魔法学院の生徒ではない。

 無論、先祖代々軍のトップである公爵家の人間に仕える者として相応しいだけの力を身につけてはいるが。


 有事となればスカートの中やら服の中やらから暗器を取り出し、公爵家の次期当主である俺を守るために無双の戦いを見せてくれるだろうさ。

 ちなみに、何故長男ではなく次男である俺が次期当主なのかと言うと、兄上が病弱で戦いにはとてもじゃないが向かない体質だからだ。普通にいい人ではあるし尊敬もしているけどね。



 授業を受けるために教室へ向かっていると、おあつらえ向きに誰かが口論している様子が目に入ってきた。

 打算的で申し訳ないが、丁度いいから昨日までの俺がやらかして低下した、プリンセスからの好感度を稼がせてもらうとしよう。



 って、あいつは──!

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