悪役お嬢様 ÷ 性悪メイド = ???? その1
『箱入りお嬢様』のカチューシャが、瑠衣とマリーを自分の能力で『箱』に閉じ込めていたとき。実は彼女は、その『箱』と瑠衣たちの言葉を制限していた『箱』以外に、更にもう一つ別の『箱』を使っていた。しかしその能力の性質から、そのことを完全に忘れてしまっていたのだった。
その『箱』の中に、閉じ込められていたものとは……。
「ふ、ふ、ふ……。一度は敗北したかに見えたワタシたちが、今もこの戦いに参加しているだなんて、誰も思っていないでしょうね? ……マリー、せいぜい油断してるといいわ! ワタシたちはすぐに、アンタなんかよりもたくさんの相手を倒して、この戦いの優勝者になるっ! そして、このワタシに勝ったと思って調子にのっているアンタに、自分の立場ってものを分からせてあげちゃうんだからっ!」
「……ねぇ?」
「このワタシに、ま、まさか……あんな、気持ちの悪いゴキブリの写真を見せるなんて……あ、あんなふざけたことをしてくれたお礼は、たっぷりさせてもらうからねっ⁉ アンタの余裕ぶってスカした顔が屈辱で歪むのが、今から楽しみだわっ! オーホッホーッ!」
「ねぇってばぁー?」
『箱』の中で、高笑いをする『悪役お嬢様』のセーラ。そんな彼女に、メイドの小鳩が冷めた視線を向けている。
「ザコっぽい独り言は、良いんだけどさぁ……で? ここからどうすんのぉ?」
「ア、アンタ! だから、ワタシのことをザコって呼ぶなって……!」
「えぇー? 誰がどう見たって、セーラちゃんはザコでしょおー? だってだってぇー……瑠衣ちゃんとマリーちゃんより先に、新しい敵のおじょーさまを見つけて戦いを挑んだところまでは、良かったけどさぁー……。それで、バカみたいに無計画に突っ込んでいったせいでソッコーで反撃食らって……。気づいたら、こんな『箱』に閉じ込められてるわけでしょー? これがザコじゃなくて、なんなのぉー?」
「う……」
「セーラちゃんの能力ってぇ、相手に嫌いなものを見せなくちゃ意味ないのに……こぉんな『箱』の中に閉じ込められちゃったら、完全に無力だしぃー? 能力が使えないセーラちゃんとか、プライドが高いだけのザコ噛ませモブキャラだしぃー?」
「うう……」
「こんなことじゃあ、マリーちゃんたちに勝つのなんか夢のまた夢の、ただの妄想だよねー?」
「う、うるっさいわねっ! 小鳩アンタ! いい加減、このワタシのメイドとして、もっとワタシを敬いなさいって、いつもいつも言って……」
「ちょっとぉ……あんまり大声出さないでよぉ? ただでさえ、この『箱』って
「ちょ、き、気持ち悪いとか、小鳩、アンタはまたそうやってご主人様に向かって…………って、っていうか!」
そこで、セーラはその『箱』の周囲の壁を見回す。
いや、正確に言えば、彼女は見回す必要なんて無かった。
なぜならば、見回すまでもなく、その『箱』のほとんどは既に彼女の視界に入っていたからだ。その『箱』は、小鳩とセーラの二人がギリギリ入れる程度の、いわゆる掃除用ロッカー程度のサイズしか無かったのだから。
「いやいやいやっ、なんかおかしくない⁉ ワタシたちの『箱』だけ、小さすぎないっ⁉ ほんとにみんな、このサイズの『箱』でやってるのっ⁉」
「だからセーラちゃぁーん、大声だすなって言ってんじゃーん。……くせぇ息が、私の顔にかかるんだよ」
「ちょ、ちょっと小鳩⁉ い、今のは聞き捨てならないわよっ⁉ このワタシの息が、臭いわけないでしょっ⁉ 訂正しなさいっ⁉」
「えー? 私、そんなこと言ったー? 気のせいじゃなーい?」
「そんな訳ないでしょっ! こんな、ほとんど身動きも取れないほどの近くにいて、アンタの独り言聞き逃すわけないでしょっ⁉」
「私はただぁー、セーラちゃんの体から『だせぇザコ臭』がするって言っただけだよぉー? セーラちゃんの生ゴミみたいな口臭についてはぁー、会って最初にキスしたときから気づいてたけどぉー。流石にかわいそうだから、言わないであげてるんだよぉー?」
「こらーっ! それじゃ、一ミリもフォローになってないのよっ! っていうかアンタ、喋る言葉の全部が煽り文句なのよっ! いい加減、少しはメイドの自覚持ちなさいって、言ってるでしょうがっ!」
「えー? メイドの自覚ってぇー、こんな感じぃー? ……とっとと自分の世界におかえり下さいませ、ザコ主人様ぁ? みたいなー?」
「いやっ! だからそれも煽り文句だって……あー、もおうっ! どうしてこんな事になってるのよぉーっ!」
「……はーあ。狭いし、臭いし、うるさいし。……最悪かよ」
「こ、小鳩ーっ!」
それからも……。
狭い室内のせいで、その『箱』の天井に書かれていた『簡単な脱出条件』には気づけなかったセーラと小鳩。二人は、カチューシャのメイドの涼珂が奇跡的に彼女たちのことを思い出して救出してくれるまで、その『箱』の中でひたすら醜い口論を繰り返していたのだった。
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