電車の中で
@yawari
電車の中で
「じゃあ愛花これ乗って帰ろっか」
そう言って私の好きな人、彩が手を引いた。
彩とは小学校からの友達で、2人きりで遊びに行ったりすることも多い親友と呼べる存在の人だ。でも私はそんな彩の事が好きだ。彩は女子の私に対してそんな思いは無いと思う。だからこの気持ちを伝えたら、この関係が崩れてしまうんじゃないか、そう思ってずっとこの気持ちを隠して過ごしてきた。
これから先も伝えることは無いんだろうな。そんな事を考えながらほぼ満員の電車に乗り込んだ。
「うわっ狭いね。もっと体近づけよ」
「う、うん」
彩が私に体を密着させてくる。
彩の顔が近くにある。ちょっと近づけばキスが出来そうだ。
(ああああ、耐えるんだ私〜!)
(次の駅に着けば人も降りて少なくなるはず。そうすれば密着しなくていいはずだから、次の駅まで我慢しろ私〜!!)
「ほんっと混んでるね」
そんな私の葛藤を知らずに彩が話しかけてくる。とても可愛い。
「次は○○、次は○○。お出口は右側です」
次の駅に着くアナウンスがなって私はついため息を吐いてしまった。この葛藤から解放される喜びと、もう密着できないという悲しみから無意識に出たため息だった。
「○○、○○。お出口は右側です」
駅に着いた。でも乗客はあまり降りず、逆にまた人が沢山乗ってきたから私と彩はより一層近づく事になってしまった。
「うわっすごい乗ってきた」
彩は倒れないように私の腕を握ってきた。
(やばいやばいやばい耐えろ私の理性!)
私が悶えている間も彩はずっと可愛かった。
しばらく私が悶えていると、彩の腕を握る力が強くなった。倒れそうになったのかな、とも思ったけどそんなに電車は揺れていなかったので不思議に思って彩の顔を見ると、泣きそうな顔をしていた。
「どうしたの?」
私が小さい声で聞くと彩は泣きそうな声で
「ちかん」
と答えた。私はびっくりして彩の足の方を見ると、ゴツゴツとしたおじさんの手のような物が彩の足を触っていた。
私は咄嗟に彩を抱きしめてそのおじさんから遠ざけた。本当は彩を汚そうとしたそのおじさんをぶん殴ってやろうとも思ったけど、大事になるといけないと思ってやめておいた。でもそのおじさんに向けて中指は立てておいた。
「ありがと...」
彩が小さい声で私の胸の中で呟く。私はそんな彩の頭を撫でてそっとキスをした。
「、、、?」
彩がキョトンとして私を見る。
「えへへ。これで安心でしょ」
私の心臓はとても大きな音を立てている。私はその音にかき消されるくらい小さな声で
「私の大好きな彩を守れて良かった」
と彩の耳元で囁いた。
すると彩は自分の顔を私の顔に近づけてきた。そして、
「私も大好きだよ。」
そう言って私にキスをしてくれた。
電車の中ということを忘れるくらい長い時間キスをした。
「○○、○○。お出口は左側です。」
アナウンスを聞いて私達はやっと電車の中ということを思い出した。そして2人で笑いあった。
「行こっか。」
彩の手を引いて電車を出る。
2人の手は繋がれたままだった。
電車の中で @yawari
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