やぁカッパくん。実はね、昨日猫の手を借りたんだ

クマ将軍

それはある日の事でした。

 様々な動物が通う学校がありました。


 そんな学校に通う生徒一人であるカッパくんは、ランドセルを背負いながら機嫌良さそうに鼻歌を歌いながら登校しています。

 どうやら、彼は朝食に大好物のキュウリが出た事に機嫌がいいようです。


 そんな彼の元に一人の少年が声を掛けて来ました。


「やぁカッパくん」

「あっ鶴前田アーノルドジャスティスくんじゃないか。おはよう」


 カッパくんの友達である鶴前田アーノルドジャスティスくんです。

 屈強な体格に変なマスクを被った彼は割り箸の精霊でした。

 カッパと割り箸の精霊はいつも仲良しです。


「先週は散々だったねぇ」


 鶴前田アーノルドジャスティスくんが話を振ります。


「そうだねぇ。鶴前田アーノルドジャスティスくんったら、壁走り神拳を繰り出す時に君の割り箸が折れるんだもん。お陰で先生から大目玉食らったよね」

「あの時は大変だったよ」

「うん。お陰で僕は前の鶴前田アーノルドジャスティスくんをゴミ処理場で燃やす羽目になったから苦労したよ」

「カッパくんにはいつも助けられてるよ」

「やだなぁ僕達は友達じゃないか。僕だって尻子玉を抜く時に、黙って君の体を使ってるからおあいこだよ」

「カッパくんは優しいなぁ」


 そんなほのぼのとした会話を続けていると、突如として鶴前田アーノルドジャスティスくんが何かを思い出したように声を出します。


「なんだいそんな騒音のような声を出して」

「実はね、昨日猫の手を借りたんだ」

「猫の手? よく貸してくれたね。君にだけは貸さないものかと思ってたよ」

「彼らは優しいからねぇ」


 鶴前田アーノルドジャスティスくん曰く、どうやら昨日引っ越しの作業があったらしいです。


「家でうっかり自分を割ってしまったから、引っ越さなきゃと思ってさ。でも自分だけじゃあ引っ越し作業が遅れるから猫の人達に手を借りたんだ」

「君は割れると増えるからね」

「だから壁走り神拳やる時に増えて人数制限をオーバーしちゃうんだよねぇ」


 そして話は猫の手を借りたところまで戻ります。


「ただ猫の人達は手先が不器用でね。分身した僕を持ち運ぶ時によく割ってしまうんだ」

「よく毎日割れてるからパキンパキンといい音を鳴らしてるんだろうね」

「お陰で引っ越すための荷物よりもゴミ袋の量が多くなったよ」


 だから猫の人達は鶴前田アーノルドジャスティスくんに手を貸すのを嫌がるのです。


「それで鶴前田くんは引っ越しをしたんだね」

「……」

「それで鶴前田アーノルドジャスティスくんは引っ越しをしたんだね」

「ううん。引っ越しはしてないんだ」

「そうなんだ」


 引っ越しをする理由は鶴前田アーノルドジャスティスくんが増えたからで、猫の人達による引っ越し作業でいらない鶴前田アーノルドジャスティスくんを処分したため引っ越しをする理由がなくなったのです。


「僕が増えて大変だったけど、彼らがいてくれて良かったよ」

「まさに猫の手も借りたい状況だったからね」

「そうだね。でねカッパくん」

「どうしたんだい」

「あんな大変な作業なのに彼らは文句も言わずにやってくれて、僕はカッコ良いと思ったんだ」

「本当は文句言っているけどそうだね」


 鶴前田アーノルドジャスティスくんは輝いた目でカッパくんに語ります。


「僕もあんな風になりたいんだ」

「人には向き不向きがあると思うけど、考えるだけはタダだよ」

「やだなぁそんな事は当たり前じゃないか。で、僕の夢の話に戻るけどさ」


 まさに今君の話をしてたんだよ、という言葉が口から出掛かったけどカッパくんは何とか飲み込みます。


「困っている人達を助ける人に、僕はなりたい」

「鶴前田アーノルドジャスティスくん……」


 真っ直ぐな眼差しにカッパくんは眩しげに鶴前田アーノルドジャスティスくんを見上げます。

 ちょうど太陽も鶴前田アーノルドジャスティスくんを照らしているため、眩しくて目を細めるしかありませんでした。


「でもね鶴前田アーノルドジャスティスくん……なりたいと思ってなれるものじゃないんだよプロという職業は」

「……うん」

「でもね、君は猫の人達のように困っている人を助ける人になりたいと言ったんだ。君は猫の人達のようなプロに憧れたんじゃない。彼らの志に憧れたんだ」

「カッパくん……!」


 伊達に鶴前田アーノルドジャスティス正義と無駄に長い名前を名乗っているのではありません。彼はちゃんと、名前に誇れるような心を持っていたのです。


「志なら君はもう猫の人達のような人になってるんだよ」

「……嬉しいよカッパくん」


 カッパくんの言葉に鶴前田アーノルドジャスティスくんは涙ぐみます。

 そして決意を含んだ表情でカッパくんの前で宣言します。


「将来、僕は猫の人達と共に働くよ」

「頑張ってね」

「でも大丈夫かな」

「何がだい?」


 突然表情が曇った様子の鶴前田アーノルドジャスティスくんにカッパくんは訝しみます。

 マスクで見えないのですが多分曇っていると思います。


「猫の人達は猫でしょ? 僕は割り箸の精霊だから一緒に働けるかなって」

「大丈夫さ」


 カッパくんは問題ないと言うように胸を張ります。


「彼らは猫じゃないから大丈夫さ」

「そうなんだ」

「だって猫に手なんてないからね」


 あるのは前足と後ろ足です。

 そうカッパくんが言うと、二人はあまりのおかしさに笑い合います。


『ははははは』


 猫の手を借りたら、友達が将来を決めました。

 以上が、彼らの日常の一幕です。


 おしまい。

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