猫人の末路

あぷちろ

醜く肥え太ったジョナサンに一服盛られたエミリーの話



「やっと、やっと旅の終わりだ」

 私の名前はエミリー。しがないフリーターだったのだけれど、つい半年前にバイト先の裏で、喋る猫人であるツムラヌーイスカナリア・フレンメドリヌヌ・ドンタコスと出会い、五つの試練をこなし、七つの海を越え、八つの宝玉を集める旅に出たのだ。

 その旅もついに終わり。目のまえにある八つめの宝玉、それを手にする寸前まで来ていた。

「思い返せば長く苦しい道のりだったわ」

 旅の最初、同じようにタコス猫に見初められた憐れな子羊ヤク中たちと己の継承権をかけた決闘をした。

「あのタコス猫が途中で『手助けニャ!』とかいってジャバウォックを引き連れて私以外を皆殺しにしたのは肝が冷えたわ」

 宝玉のある大陸に渡るために踏破不可能とさえ言われた海を越えたときのこと、

「海路は流石に危ないからって、セスナを強奪したのだけれど、あのタコス猫が『手助けニャ!』とかいって許容量オーバーのニトロをエンジンにぶっこんで爆発! 荒波にもまれながらも大陸に辿りつけたのは奇跡としか言いようがない」

 辿り着いた大陸で、宝玉を探す為に羅針盤となる懐中時計で用いて方角を探っていたのだが、

「またあのクソタコス猫が『手助けニャ!』っつっていきなり衛星電話でGPS繋ぎやがって……最初からそれ使えよ! なんで5こも見つけた後で持ってくるんだよ!」

 ――腹が立ってきた。旅を終えたら真っ先にあのクソ猫を絞ろう。さぞ旨い出汁がでることだろうさ。

「ふう。さっさと、盗るもんとっておうちに帰ろう……」

 そう独り言ちて、私はキャッツアイによく似た宝玉を手に取った。

「Congratulation!! おめでとうニャ!」

 目の前に燕尾服を纏った猫の顔をした人間が盛大に拍手をしながら現れる。

「タコス猫、これで言われた事は全部してやったぞ。私をウチに帰してくれ」

「ニャ、ニャ! それはダメニヤ!」

「ああん?」

「八つの宝玉を集めたんだぞ! 私を家に帰してくれ!」

「――その宝玉は手にした者の望み通りの形へと変化する。ここまでの冒険は、楽しかったろう、アリス?」

「エミリーだっつてんだろがクソ猫」

 リュックの中へ押し込めていた残り7つの宝玉が自分の周囲を漂いまわる。

 眩い光を放ち、やがて光が収まると、宝玉は一つの形を得る。

「にゃ、にゃ! それがこの冒険をいつまでも続けるための秘宝にゃ!」

「フォーティ・ファイブ?」

 .45ACP弾を用いる拳銃……特にアメリカ 1911コルトガバメントを指す。

「にゃ?」

私と間抜けな猫人はL字型をした鉄の塊を交互に見比べた。

「そうだね、おじいちゃん。自由は自分の手でつかみ取るものなんだよね」

 昔、祖父と射撃訓練場を訪ねた時の事を思い出す。両手でしっかりとグリップを握り、ハンドセーフティを押し込む。肘を伸ばして照準をしっかりと合わせてトリガーを引く。

「にゃっ」

 がおん、と強大な音がして燕尾服の猫人は光の粒となって消えた。

「ここから家に帰るのか……」

 どこの国か分からない、こんな場所から家に帰る冒険の始まりだ。


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