第76話、アキューレ救出部隊

 いい加減、イライラしてきた。

 ステュムパリデスは、俺を殺すつもりがない。適度な距離を保ちつつ、火や雷や氷のブレスを吐き、あくまで時間稼ぎをしている。

 間違いなく、こいつは何かの影響を受けて俺の前にいる。まぁ……イザベラだろうな。

 イザベラ、奴が『ギガントマキア』でどんな位置にいるか不明だ。だが、この大罪魔獣を操れるくらい、強力なスキルを持っていることは間違いない。


『『『ギャゥゥゥゥゥ……』』』

「……いい加減、うっとおしいな」


 ステュムパリデスは、俺が近づくと逃げ、逃げると追ってくる。

 適度な距離を保ち、適度な攻撃。恐らく、ある程度時間を稼げば。


『『『───ククク』』』

「あ?」

 

 こいつ……笑いやがった。

 そして、そのまま反転し、逃げ出した。

 用事は済んだと言わんばかりに、逃げ出したのだ。


「…………」


 逃げるならそれでいい。

 今は、アキューレたちが心配だ。アジトに戻らなくてはならない。

 俺は翼を広げ、全力で闘気を込め……飛んだ。


『『『ガッ!?』』』

「逃げるなよ」


 そして、ステュムパリデスの身体に着地。

 俺が追ってくることを想定していないのか、驚いていた。

 頭が三つあっても、単細胞らしい。俺は左手で巨大な杭を何本か作り、ステュムパリデスの身体に突き刺した。


『『『ガガガガッ!?』』』

「確かにアキューレたちのいるアジトに急がなきゃいけない。でも……俺さ、お前みたいに大事な時にちょっかいかけて、ニヤニヤしながら逃げ出すような奴、嫌いなんだ」

『『『ガ、ガガ』』』

「だから───ここで始末する。『闘気精製ドラゴンスフィア』───〝螺旋杭スパイラルピン〟」


 黄金の、螺旋が刻まれた杭を二十本作り出し、ステュムパリデスの身体に突き刺し回転させた。


『『『ギャァァァァァァァァァァァァァ───ッ!?』』』

「うるっせぇ!!」

『『『ガッ……!?』』』


 そして、大剣を作り横に薙ぎ払う。すると、ステュムパリデスの首が三本、綺麗に切断された。

 俺は左手で三匹の首を掴み、残った身体は右手で食いつくす。

 ステュムパリデスのスキルは『気配遮断』か。俺に気付かれずに接近したスキル、なかなか使える。

 俺は『潜航』を外し、『気配遮断』をセットする。レベルは上がらなかったが、いいスキルを手に入れた。


「よし、待ってろみんな───すぐに行く!!」


 俺は闘気を翼に込め、全力で王都のアジトへ向かった。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 アジトに戻ると……もう、遅かった。

 レノ、レイ、アピアがサリオの治療を受けていた。

 俺は、ステュムパリデスの首を三つ持ってアジトに戻ってきた。

 レイは、俺を睨んだ。


「みんな!!」

「リュウキ……どこ行ってたのよ。アキューレが……」

「くそ!! イザベラの野郎……」


 首を投げ捨て、レノとアピアの元へ。

 アジト内はボロボロだった。壁に大きな穴が空き、怪我をしているレノ、アピアががっくり項垂れている。サリオは魔力全開で治療をしているが、レベル3の回復魔法では治療効果が低いのか、まだ回復していないようだ。

 俺が投げ捨てた首を見て、レイが驚く。


「な、何それ……」

「大罪魔獣の一体だ。間違いない……ギガントマキアのイザベラが、俺にけしかけやがった」

「い、イザベラ?」

「……キルトの母親。ギガントマキアの一員だ」

「うそ……」


 すると、アジトに一人の男性……ムーン公爵が入ってきた。

 オークションに参加した時の服装のままだ。ああ、サリオを送ってきたのか。

 ムーン公爵は、ステッキで床をコツンと叩く。


「死体の処理は任せてくれたまえ。それで……リュウキくん、これからどうするんだい?」

「決まっています。アキューレを助けに行く」

「ふむ、行先は?」

「……」

 

 すると、奥のドアからルルカさんが出てきた。セバスチャンさんも一緒にいる。

 ルルカさんは、歯を食いしばりながら言う。


「行先はわかります。クルシュ王国にある霊山、ウロボロス山脈にあるギガントマキアの総本部です。そこに、アキューレ様は連れていかれました」

「総本部か……ギガントマキアの連中がたくさんいるんだな?」

「間違いなく。ですが……リュウキ様、お願いいたします。どうか、アキューレ様を」

「言われるまでもない」


 猛烈に、俺はムカムカしていた。

 闘気があふれだし、ツノが生えて髪の色が変わる。牙も生え、何かに喰らいつきたい感情があふれている……闘気を制御できないくらい、頭に来ている。


「アキューレは助ける。ギガントマキアは潰す」

「一人で、かい?」

「…………」


 ムーン公爵は続ける。


「ムーン公爵家でも、ギガントマキアについての情報は集めていた。ギガントマキアは、双子龍のエキドナ、テュポーンによって生み出された組織だ。ギガントマキアを潰すということは、ドラゴン二体を敵に回すということだ。リュウキくん……勝てるのかい?」

「勝ちます。絶対に」

「ふむ、そう言っているが、どうなのかね?」


 ムーン公爵はレイを見る。

 レイはゆっくり立ち上がり、首をコキっと鳴らした。


「当然、チームメイトを助けないわけない。サリオ!!」

「は、はい!!」

「新しいスキル、寄越しなさい」

「え、あ、はい」


 サリオは、一枚の羊皮紙をレイへ渡す。

 レイは羊皮紙を広げ、ブツブツ呟いた。


「よし、『金属精製』を覚えたわ。これで……」


 レイは自分の折れた双剣を手に取る。すると、折れた刀身がくっついた。

 レベルが1だから、つなぎ合わせたように不格好だ。でも、レイは双剣を鞘に入れ背負う。

 そして、レノが立ち上がる。


「サリオ、スキル」

「……レノ」

「寄越せ」


 レノは『全身強化』のスキルを読み、習得。

 拳を合わせ、軽く振った。


「リベンジ、かましてやる。あのクソ野郎……」

「……私も」


 アピアは、懐から『鷹の眼』スキルを取り出し、覚えた。

 まだD級冒険者のアピアは、二つめのスキルを覚えてはいけない。だが、アピアはそれを無視した。

 魔導カバンから予備の魔導銃を取り出し、ホルスターへ収める。


「もう、負けません」

「よし……チーム『エンシェント』、全員いけるわね?」

「みんな……よし、ボクも」


 サリオも、『全体支援魔法』を覚えた。

 これで全員、スキルによる強化を習得した。

 レイは、俺たち全員に言う。


「リュウキ、レノ、アピア、サリオ。これよりチーム『エンシェント』は、アキューレの救出に向かう。目的地はクルシュ王国、ウロボロス山脈にあるギガントマキア本部。相当厳しい戦いになる、覚悟はいい?」

「「「「了解」」」」


 全員、力強く頷いた。

 アピアはセバスチャンさんに言う。


「セバスチャン、あなたはルルカさんと一緒に、アジトで待機」

「かしこまりました。お嬢様」

「そんな、私は!!」

「ルルカ、あなたはここで待ってなさい。足手まといよ」

「っ」


 レイは突き放す。

 すると、ムーン公爵がパンパンと手を叩いた。


「素晴らしい決意だね。ではこうしよう……チーム『エンシェント』、きみたちに依頼をする。依頼内容はフリーデン王国の姫君アキューレ嬢の救出。ギルドの方には私から依頼を出し、きみたちが請け負ったことにしよう。それと、出発するなら公爵家に寄りたまえ。ワイバーン運搬で運んであげよう」

「……ワイバーン運搬?」

「ワイバーンは空を飛ぶ高速の魔獣だよ。人懐っこくて、モノを運ぶのによく使われるんだ。訓練した大型のワイバーンは、人を運ぶこともできるんだよ」


 俺の疑問にサリオが答えてくれた。 

 ムーン公爵は、ステュムパリデスの生首を見る。


「リュウキくん。これは私に任せてくれないか? 悪いようにはしない」

「どうぞ、お好きに」

「はっはっは。大罪魔獣の一体だ、大事に扱うよ」


 正直、大罪魔獣なんてどうでもいい。

 俺たちは互いに頷き合い、公爵家に向かって歩き出した。

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