第56話、ゴブリン、コボルト、オーク

 ゴブリンの集落。

 集落というか、ただ集まっただけのゴブリンたち。

 ゴブリンにはメスがいない。なので、人間の女性を攫い種付けして繁殖する……クソおぞましい。なので、ゴブリンが集まる場所は、自然と集落や村の近くになる。

 俺たちは、早朝から王都郊外の小さな村の傍にある森に来ていた。


「作戦は、ダンジョンと同じよ」

「俺、レノが前衛、中衛にアピア、後衛にサリオ、レイだな」

「ええ。あたしはいろいろ動くけど、基本的にこの陣形ね……レノ、大丈夫?」

「ああ、平気だぜ」


 レノは拳をパシッと打ち付けた。

 早朝なら、見張り以外のゴブリンは寝ている。奇襲するにはうってつけだ。

 ゴブリンの集落から百メートルほど離れた場所で俺たちは待機している。

 すると、アピアが挙手。


「あの、これから襲撃ですよね?」

「そうよ」

「でしたら……私が先陣を切ってもよろしいでしょうか?」

「アピアが? 何か考えでも?」

「はい。奇襲というか……少し、数を減らそうと思いまして」


 アピアは、背負っていたスナイパーライフルモデルの魔導銃を構える。


「最大射程は800メートルほど。サイレンサーを付けて発砲音を消せば、遠距離狙撃が可能です。リュウキくん、レノくん、私が合図したら、突入を」


 レイを見ると、頷いた。

 俺はアピアに言う。


「わかった。絶対に無理するなよ」

「はい。では……」


 アピアは、近くに生えていた大きな木に登り、狙撃銃を構える。

 プシュ、プシュと何度か音が聞こえ、アピアは言う。


「リュウキくん、レノくん、お願いします!」

「「了解!」」


 俺とレノは、ゴブリンの集落に向かって走り出す。

 俺は闘気精製した。


「『闘気精製ドラゴンスフィア』───『太陽剣サンビトレイヤー』」

「お、剣か」

「ああ。ゴブリン、汚いし触りたくないからな」

「おま、拳が主体のオレにそれ言うか?」


 軽口を叩きつつ、ゴブリンの集落へ踏み込んだ。

 おお、入口と村の周囲に、十体ほどのゴブリンが眉間を撃ちぬかれている。

 残りは七体ほど。


「っしゃぁ!!」

「よし、行くぞ!!」


 レノは拳を叩きつけ、俺は黄金の剣を振りゴブリンに向けて走り出した。


 ◇◇◇◇◇


 コボルト。

 オオボルトを経験した俺たちにとって、少し物足りない相手だ。


「『アクアエッジ』!!」

「だらぁっしゃ!!」


 アピアの水魔法が飛び、腕力強化したレノのショートアッパーがコボルトの顎を砕く。

 そして、レイの雷魔法。


「『サンダーブレード』!!」


 こっちは雷の刃か。

 レベルはまだ1なので規模が小さい。そしてサリオは、死んだコボルトの傷を治すことで回復魔法のレベルを上げていた。はっきり言って、この程度の魔獣に苦戦することはない。

 俺も、闘気で作った槍を振り回していた。


「槍技、『奉天撃』!!」


 急所を狙って一突き。

 レノは「おお」と驚きつつ言う。


「お前、武器なら何でもいけんのか?」

「剣、ナイフ、双剣、槍、鎖、格闘技……使えそうな武器は一通り。俺を指導した武器の先生たちの方針で、いろいろやらされたよ」


 神童と言われていたころは期待されてたからな。

 イザベラが来る前。俺はありとあらゆる武器、体技を学んだ。イザベラが来て魔力を失ってからも、俺を気に入っていた師匠たちは無償で教えてくれたけどな……全員、イザベラが手を回して来なくなったけど。


「この程度じゃ、まだ使わなくていいな」

「あ?」

「いや、こっちの話。まぁ……みんなには見せておきたいけど」

「?」


 レノは首を傾げた。

 みんなに見せたいもの。それは……俺の『龍人変身』した姿だ。


 ◇◇◇◇◇


 最後は、オーク。

 二足歩行の豚魔獣だ。

 王都から地方都市に繋がる街道沿いの森に住みつき、商人の馬車などを襲うらしい。

 数は二十ほど。それほど脅威ではない。

 俺たちは、お昼のサンドイッチを食べながら向かっていた。


「ん~うめぇ!! いい汗掻いた後は飯が美味いぜ!!」

「わかる。しかもこのサンドイッチ、味濃くて最高だ!!」


 レノとハイタッチする俺。

 すると、サンドイッチをもぐもぐ食べながらサリオが言う。


「みんな、スキルレベル上がった? ぼく、レベルが1上がって、アンチドーテ……えっと、解毒の魔法を覚えたんだ」

「オレもレベル上がったぜ。腕力強化の持続時間が増えた」

「私も、水魔法のレベルが上がって新しい技を覚えました!」

「あたしも雷魔法レベルが上がった。なんだ、みんな上がってるじゃない。リュウキは?」

「あー……」


 スキルイーター、いちおうレベル2。

 これ、食わないとレベル上がらないんだよな。まだみんなに見せてない。

 

「リュウキ、スキルイーターだっけ? レアかエピックか知らねぇけど、使えないスキルなら外して新しいスキル付けた方がいいと思うぞ」

「いや、使えるんだけど……」

「使えるの? どんなスキル?」

「……食う」

「「「「え?」」」」


 い、言いにくい。

 まさか『右手でスキルを持った魔獣、人間、ドラゴンを食えばそのスキルを宿せるんだ。今はドラゴン二体のスキルというか闘気を宿してるよ!』なんて言って信じてもらえるかな。

 すると、レイが言う。


「あんた、何か隠してるでしょ」

「隠してると言うか……」

「まったく。プライベートなことはともかく、技能に関しての秘密はナシよ。あんたが隠しているのはどうせ闘気のことだろうけど、使えるならちゃんと使って、どんな力か教えてよ」

「リュウキくん。私たちは、あなたがどんな力を持っていても大丈夫です」


 レイとアピアが言う。

 するとレノが「モテるねぇ」と言い、サリオが「やめなよ」と小突いた。

 いずれ言わなきゃいけないのは違いない。

 それに……他のドラゴンが襲って来る時、みんながそばにいる可能性も高い。

 そう思っていると───。


『ぐぉるるる……』

「お、出やがったぜ」


 街道沿いの藪から、オークが飛び出してきた。

 数は三体。さっそくみんなが戦闘態勢を取るが。


「みんな、ここは俺に任せてくれないか?」

「「「「え……」」」」

「みんなに、俺の力を見てもらいたい」


 俺は前に出て、両手を交差して呟いた。


「『龍人変身ドラゴライズ』」


 両腕が黄金の鱗に包まれ巨大化し、頭にツノが生え、片目が赤と黄金に染まり、髪が金色に変わる。

 いつかの暴走とは違う、俺自身で制御する『四分の一クォーター』スタイル。


「りゅ、リュウキ……だ、大丈夫なの?」

「ああ。完全に制御できる。ドラゴンの力、これが俺の新しい姿だ」

「すっげ……」

「か、かっこいい……」

「リュウキくん、綺麗……」


 各々の感想をもらい、俺は拳を構えた。


「さぁ───ここからは、俺と遊ぼうぜ」

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