第52話、スキルイーター

 俺は、自らの身体を覆う『鱗の鎧』と『ドラゴンの翼』を見た。

 鱗の鎧は、腕から伸びた鱗が胸を覆っている。服の上から覆っているようなので、まさに鎧を着ているような感じだ。そして翼。大小さまざまな十二枚の翼が、俺の飛行をサポートしてくれる。

 そう、俺は『半分ハーフ』まで変身した。新たに獲得したのは頑丈な上半身を覆う鎧と、飛行能力。そして……俺のスキル、『スキルイーター』だ。

 

「エンシェントドラゴン……」


 右腕が、自分の意志で変えられる。

 巨大な『顎』に、手がドラゴンの口となる。

 この右手で食った獲物の『スキル』を、俺のモノにできる。

 今、俺の中にはスヴァローグの『赤い闘気』がスキルとして格納されている。スヴァローグの闘気を喰らったことでスキルレベルが1つ上がった。

 これにより、俺は格納できるスキルが一つ増えた。つまり……二つまでしか格納できない。

 まぁいい。今、大事なのは。


「殺す、殺す!! テメェは殺す!!」

「ほざくな。殺す殺す殺す? 口だけじゃなくて行動で示してみろ」

「黙れガキがァァァァァァァァァァ!!」


 スヴァローグは全身を真っ赤に燃やしながら飛んで来る。

 四肢が赤い鱗、爪に覆われ、背中には炎の翼。

 俺も赤い闘気を燃やし、全身を炎で包む……だが、本家であるスヴァローグには及ばない。

 なので、ここに黄金の闘気を混ぜた。


「『闘気精製ドラゴンスフィア』───『火炎槍』!!」

「!!」


 黄金の槍が燃える。

 俺は火炎槍を何本も生み出し、向かって来るスヴァローグに向かって投げる。だが、全ての槍が叩き落された。

 接近するスヴァローグの拳を回避。すごい、飛び方がなんとなくわかる。


「猿真似で勝てると思ってんじゃねぇぞ!!」

「そうだな。じゃあ───これならどうだ?」


 俺は右腕を伸ばし、地面に落ちていたリンドブルムの『翼』を掴む。


「『咀嚼インストール』!!」


 右腕で咀嚼し、そのまま飲みこむ。


「『反芻ダウンロード』!! 行くぞリンドブルム……『樹龍闘気』!!」


 黄緑色の闘気が俺からあふれ出す。

 俺は地面に着地し、右手を地面に突っ込んだ。


「『闘気精製ドラゴンスフィア』───『樹海アマゾン』」


 小島に大量の植物が成長し、俺の姿を覆い尽くす。

 一瞬で小島が森に変わった。すごい、これがリンドブルムの闘気か。

 俺は変身を解除し、森の中を全力で走る。


「隠れてるつもりか? こんな森───」

「!!」


 やばい。スヴァローグが息を吸った。

 俺はもう一度変身し、地面に手を突っ込んだ。


「ブワァァァァァァァッ!!」

「チッ」


 スヴァローグの吐いた炎が、森を一気に焼き尽くす。

 だが───間に合った。


「『闘気精製ドラゴンスフィア』───『大樹ユグドラシル』!!」

「何ッ!? ッブガァァァッ!?」


 スヴァローグの真下から一気に成長した樹木が、ピンポイントでスヴァローグの顎に入った。

 俺は一気に上昇。闘気を赤に切り替え、右手に闘気の籠手を生成する。

 そして、もう一度顎を狙い、思いきりアッパーを叩きこんだ。


「『龍人掌ドラッケン』!!」

「おぶぼっ!?」

「だぁぁぁぁぁぁっ!!」


 連打、連打、連打、連打、連打、連打、連打!!

 とにかく殴る。闘気を全開にして殴る。

 500発ほど殴り、最後に両の拳を合わせてハンマーのように振り下ろした。

 スヴァローグの頭に拳を叩きつけると、小島に激突。そのまま動かなくなった。


「はぁ、はぁ、はぁ……か、勝った、か?」

『……ただの人間が、舐め腐りやがって』


 いや、まだ終わっていない。

 むくりと起き上がったスヴァローグ……様子がおかしい。

 ベキベキと音を立て、身体が膨張していく。

 真っ赤な炎、マグマが冷えて固まったような表皮。巨大な尻尾に小さな翼……まるで、巨大なオオトカゲ。

 紅蓮の炎に包まれたオオトカゲが、大口を開けて叫んだ。


『グォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』

「っ───!!」


 なんて威圧感。

 全長50メートルを超える、巨大なオオトカゲのようなドラゴン。

 完全にキレていた。俺をギョロギョロした目で睨んでいた。

 

「これが、ドラゴン……エンシェントドラゴンとは大きさも形も違うな」


 敵だが───素直に『かっこいい』と思った。

 でも、こいつは敵だ。

 俺は、こいつを倒さなきゃいけない。

 そのための技は───ある。

 エンシェントドラゴンは、そのための『技』を残してくれた。

 力だけになっても、わずかに残された、俺の中で消えつつある『意志』が、教えてくれた。


『喰い殺す!! 喰って、腹の中で丸焼きにしてやる!!』

「それは無理だな……お前は、ここで終わる。俺が終わらせる」


 俺の背中から生える十二枚の翼が広がり、黄金に輝く。

 右腕が伸び、形状が変わる。鱗がさらに生え、巨大な『砲身』となる。

 そして、スヴァローグも大きな口を開けた。

 闘気が口の周りに集まり、巨大な火球となる。ばかばかしい大きさだ。闘技場を丸ごと飲み込めそうなくらい、バカでかい火球だ。

 俺の背中の羽が輝きを増す。


「勝負だ、スヴァローグ……!!」


 そう、俺の必殺技は───闘気の放出。


『がァァァァァァァァァァ!!』


 スヴァローグの火球が発射された。

 俺は右腕を火球へ、スヴァローグへ向け……溜めた全ての闘気を放出した。


「『真龍神光砲エンシェント・ノウヴァ』!!」


 右手の砲身から発射された極太の《黄金の闘気》が、火球と衝突。火球が爆散し、大口を開けたままのスヴァローグの口から入り、体内を貫通……スヴァローグは光に包まれ、爆散した。


『グボッギャァァァァ───……』


 スヴァローグの断末魔が鳴り響き───光が消えると、そこにはもう何もいなかった。

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