第51話、紅蓮獄龍スヴァローグ

 目の前にいる男は、真っ赤な闘気を纏っていた。

 全身に刺青が刻まれており、赤い髪は逆立っている。口を開けるとギザギザの歯が見えた。

 俺は右の拳に黄金の闘気を込め、男に向かって全力で殴る。


「『龍人掌ドラッケン』!!」


 巨大化し、伸びる拳。

 さらに左手では『闘気精製ドラゴンスフィア』で黄金の槍を何本か精製している。

 殴り、刺す。それが俺の第一手。だが───。


「───……なんだこりゃぁ?」

「な」


 直撃した。

 間違いなく、拳が直撃した。

 だが───赤い男は避けもしなかった。

 身体で拳の直撃を受けた。ポケットに手を突っ込んだまま、つまらなそうに。

 そして、巨大化した俺の親指を摘まむ・・・


「ウゼェ」

「グ、あぁっ!?」


 摘まんだ状態で、軽く投げられた。

 大地に叩き付けられ、巨大な亀裂が入る。

 俺は意識がブッ飛びそうになる。頭から直接叩きつけられ、眩暈がした。

 男は、しゃがむ。


「カス。カスすぎる。おいアンフィスバエナ、こいつマジで親父の力持ってんのか? リンドブルム以下のカス、カス以下のゴミじゃねぇか」

「……間違いなく、お父様の力を持ってるわ。でも、絶望的に力を引き出せていない。1パーセント以下で今のパンチね」

「マジかー……それって、器のせいか?」

「……くんくん。そうね、人間の器が貧弱すぎる。匂いからの推測だけど……その人間、お父様の力を受け入れる前に、お父様の肉を食ってる。その肉と、人間の肉が混ざり合って器になっている。お父様の力を普通の人間が受け入れたら、一瞬で消滅しちゃうでしょうし……力を引き出せるだけでも、奇跡みたい」

「話長げぇ……つまり?」

「ゴミ。《核》は心臓にあるみたいだし、さっさと抜いたら?」

「だな」


 男の手が俺の胸に伸びる───俺は男の手を右手で掴んだ。


「させ、ない……!! この力は、エンシェントドラゴンが、俺のために残してくれた、力……だ!!」

「嘘つけ。あの親父が、人間なんかに力残すわけねぇだろうが」


 男の手が赤い闘気に包まれる。


「それと───誰が触れていいって、許可した?」

「!!」


 バジン!! と、俺の手が弾かれた。

 赤い闘気が男の両腕を包み込む。すると、真っ赤な籠手となった。


「教えてやるよ。闘気ってのはなぁ……オレら兄弟によって、属性が異なる」

「属性……?」

「そうだ。テメェの黄金は、ただ垂れ流してるだけの、カスに過ぎねぇんだよ!!」

「ッ!!」


 真っ赤な籠手が燃える。

 赤い闘気が炎となり、両拳───だけじゃない。全身を燃やす。

 

「これがオレの闘気、《炎》の闘気だ!! ッシャァァァァ!!」

「ぐ、あ、あァァァァっ!!」


 俺は両腕を交差させて男のラッシュを防御する。だが、一撃喰らうたびに俺の両腕が砕ける。黄金の闘気で修復するが、それでも相手のラッシュのが早い。

 俺は吹き飛ばされ、地面を転がった。

 

「う、っが、っはぁ!!」


 大量に吐血する。

 腹に何発か喰らった。腹は生身。拳が貫通しないのが奇跡だった。

 だが、酷い火傷で腹の肉が炭化している。

 内臓も焼け、地獄の苦しみを味わっていた。


「おいアンフィスバエナ。こいつの心臓を抜くところ見てろ。オレが、親父の力をその手にする瞬間をな」

「はいはい。いいから好きになさい……私は興味ないから」

「ようやく、ようやくだ。ケケケ、見てろよ兄貴───ああん?」


 すると、俺の前に立つ少女……リンドブルム。


「だ、ダメ……お願い、やめて」

「……はぁぁ~~~マジで萎える。おいリンドブルム、そんなの守って何になる?」

「……パパの、最後のお願いを……守れる」

「よ、よせ、リンドブルム……下が、れ」


 動けない。

 ちくしょう、闘気が出ない。

 両手、両足が骨折してる。動けない……なのに、意識だけがはっきりしている。


「リュウキ、ごめんね……わたし、守れない、かも」

「リンドブルム……!! 逃げろ!!」

「リュウキと一緒に過ごした時間、とても楽しか───」


 男の手が、リンドブルムの胸を貫いた。


「あ……」

「邪魔だ。クソ雑魚」


 そして───リンドブルムの身体を、投げ捨てる。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ───殺す。


 ───殺していいか?


 ───殺したい。


 ───殺させてくれ。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇◇



「さぁ~て、お前もそろそろ……」


 スヴァローグがリュウキに向かって手を伸ばすと、その手をガシッと掴まれた。


「んだよ、まだ───……あ、ああ?」


 ギシギシ、メキメキ……と、スヴァローグの腕が軋む。

 振り払えない。

 手が、離れない。


『貴様、貴様……ッ!!』

「!?」


 リュウキの声ではない、別の声。

 そして、スヴァローグの右腕が握り潰され、千切れ飛んだ。


「っづ!? テメっ……」

『ガァァァァァァーーーーーーッ!!』

「がぼぁ!?」


 スヴァローグは殴られ、吹き飛んだ。

 ゴロゴロ地面を転がり、背中から真っ赤な翼を生やしてようやく止まる。

 翼だけではなく、四肢をドラゴンに変え、頭にはツノが生えていた。


「この、クソ人間……ブチ殺す!!」


 スヴァローグが吠える。

 だが、リュウキ? は別の物を見ていた。

 それは……握り潰し千切れ飛んだ、スヴァローグの右腕。


『使えるな。リュウキ……お前の「可能性」の力、見せてやる』


 バキバキバキと、リュウキの両腕の鱗が伸び、上半身を覆う。そして、背中から大小さまざまな合計十二枚の翼が飛び出し、ふわりと浮かんだ。


「うそ……力を、引き出した?」


 アンフィスバエナが驚愕する。

 身体を覆っていた四分の一クォーターの鱗が、半分ハーフになった。

 リュウキではない、別の声が右腕を伸ばし、スヴァローグの腕を手に取って弄ぶ。


「オレの、右腕……?」


 リュウキはニヤリと笑い、巨大化させた右腕を変形させ『咢』にさせる。

 そして、スヴァローグの腕を右手で咀嚼し始めた。


『スキルイーター……『咀嚼インストール』』


 グチャグチャと右腕が咀嚼する。


『『反芻ダウンロード』』


 右腕が、スヴァローグの腕を飲み込んだ。

 次の瞬間、赤い闘気がリュウキの身体を覆い尽くす。


「な……お、オレの闘気だとぉ!?」

「今の……スキルね? でも、闘気を吸収するスキルなんて、聞いたこと……」


 疑問に思っても、答えは帰って来ない。

 

『スキルイーター・『炎龍闘気』……使い方はわかったな? これからはドラゴンを喰らうといい。さぁ……後は、任せるぞ……』


 がくんと、リュウキの頭が落ち……顔を上げた。

 

「ありがとう、エンシェントドラゴン。世話になりっぱなしだ……今度、しっかり墓を作って酒でも供えるよ」


 リュウキは、黄金と赤の闘気をブレンドさせ、爆発させる。

 そして、リュウキの両手に『真っ赤な籠手』が装備された。


「て、テメェ……お、オレの」

「ああ、使わせてもらう。お前の腕を食ったときに流れてきたイメージだ。それに……これだけじゃない!!」


 リュウキの身体が黄金に輝き、赤い闘気が一気に燃え上がった。

 闘気の性質すらスキルイーターはモノにした。


「覚悟しろ、スヴァローグ……お前に、この力は渡さない!!」

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